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53 僕は男の子なんて好きでもないし興味も無い! 僕が好きなのは女の子! バレンタインのチョコレートだって、あげたい側じゃない! もらいたい側だッ!

 素似合は元々、背が高くボーイッシュで、スポーツが万能だった事から人気は高かったが、普通といえる範疇の女の子だった。

 一人称も「僕」ではなく、「私」であった程度に。


 そんな普通の女の子だった素似合が騒動を起こしたのは、小五のバレンタインデーの前日、給食が終わった後の昼休みの教室だった。

 素似合のクラスの女子達は、好きな男の子の話や、誰にチョコレートをあげるかなどという、他愛も無い恋バナで盛り上がっていた。


 素似合は興味が無さ気に、盛り上がるクラスの女子達とは距離を置いていた。

 同じく我関せずとばかりに、距離を置いていた五月と共に、雑談に興じていたのだ。


 だが、そんな素似合に、しつこく誰にチョコレートをあげるのか、問い続けた少女達がいたのだ。

 一緒にいた五月は無視して、素似合だけに。


 少女達が素似合にだけ、しつこく問い続けた理由を、慧夢は後から五月に聞いて知った。

 当時、クラスで人気者だった男子生徒が、素似合を好きだという噂が流れていたので、その男子生徒を好きだった少女達は、その男子生徒に素似合がチョコをあげるかどうかを、知りたがったのだ。


 最初の方こそ、適当にあしらっていたのだが、かなりしつこく少女達に問われ続けた結果、素似合は切れてしまったのだ。

 心の底から飽き飽きしたといった感じの態度と口調で、素似合は宣言したのである。


「僕は男の子なんて好きでもないし興味も無い! 僕が好きなのは女の子! バレンタインのチョコレートだって、あげたい側じゃない! もらいたい側だッ!」


 しつこく問われ続けた結果、苛々が溜まった挙句の、暴発的なカミングアウト。

 言い切った直後の素似合は、「しまった!」と言わんばかりの、後悔と焦りが入り混じった感じの表情を、浮かべていた。


 でも後悔や焦りの色は、すぐに素似合の顔からは消え失せ、すっきりとした……爽やかな表情に変わったのだ。

 背負っていた重荷を下ろしたかの様な、身体を縛っていた縄を引き千切り、自由を取り戻したかの様な、幸せで誇らし気な笑顔……。


 その顔は今でも色褪せぬまま、当時も同じクラスだった、慧夢の記憶に焼き付けられている。

 たぶん一生、忘れる事は無いだろうとも、慧夢は思っている。


 レズビアンである事を隠すのを止めて、ずっと背負っていた心の重荷を下ろした時こそ、幸せそうな笑みを浮かべていたが、その後……暫くの間、素似合は笑顔を浮かべる事はなかった。

 何故なら、当然の様に素似合のカミングアウトは、周囲にネガティブな反応を引き起こしたからだ。


 マスメディアの向こうにいる同性愛者なら、他人事として気楽に楽しめる人が多い。

 でも、身近な人間が同性愛者であるのを知った場合、上手く受け入れられないのが、人間の現実というもの。


 素似合の周りの人間の殆ども、その上手く受け入れられない側であった。

 カミングアウト以降、クラスメート達の多くは素似合との間に見えない壁を作り、露骨に距離を取り始めた。


 多くのクラスメート達は、子供であるが故に同性愛者への接し方が分からず、素似合を避ける形になった感じだったが、一部には口汚い陰口を叩く者達もいた。

 とにかく、元々は人気者であったのに、素似合はカミングアウトの日を境として、殆どのクラスメート達との関係が絶たれてしまったのだ。


 そんな素似合とクラスメートのトラブルを、知っていたにも関わらず、教師達は何の解決策も取ろうとしなかった。

 典型的な事勿れ主義の教師達は、気付かぬ振りを決め込んでいたのである。


 素似合の両親も、受け入れられない側の人間だった。

 ただ自分の娘が普通の女の子であって欲しいという望みを素似合に押し付け、自分に正直になった素似合を受け入れようとはせず、親子関係は事実上、断絶したも同然の状態となったのだ。


 家では両親との関係が断絶状態となり、学校では殆どのクラスメート達との関係が絶たれてしまった素似合であったが、それでも完全に孤立した訳では無かった。

 何故なら、家が近所であった事から、仲が良かった二人のクラスメート……慧夢と五月だけは、カミングアウト以前と特に変わらず、素似合と接し続けたからである。

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