52 しかも、僕は可愛い女の子一人では満足出来ない。沢山の美少女達を相手に、愛し……愛されたいんだ! 美少女ハーレムを作り、その主(あるじ)として暮らすのが、僕の夢なんだよ!
「何でまた、そんな似合わない事考えてんの?」
伽耶と似た様な問いを投げかけて来た素似合に、慧夢は伽耶の時と同様に、テレビのドキュメンタリー番組を理由とする嘘を吐いて、やりすごそうと口を開く。
誰が聞いても嘘だと思わないだろう程、完成度の高い嘘話を、慧夢は素似合に簡潔に語って聞かせた。
「――何だ、テレビの影響か」
テレビのドキュメンタリー番組に絡めた慧夢の嘘話に、真剣な表情で耳を傾け続けた素似合は、微妙に安堵した感じの表情を浮かべて呟く。
「親が見てるの、何となく見てたら……結構見応えあってね。自分がそういう状況になったら、どうすればいいんだろうとか……色々と考えちゃってさ」
「色々と考える様な問題かな、それ?」
不思議そうな顔で訊ねる素似合に、慧夢は訊き返す。
「色々と考える様な問題だと思うけど、違うのか?」
慧夢の問いに、素似合は頷く。
「モラルの観点で考えるから、難しく考えちゃうんだ。でも、自分がそういう状況になったら、どうすればいいのかなんて疑問への答は簡単だよ」
「――簡単だよって……どうすればいいのさ?」
「助けたいと思うなら助ければ良いし、助けたいと思わないなら、助けなければ良いだけ。思った通りに……やりたい様にすればいいだけの話」
「いや、幾ら自分がどうするかって問題でも、そこまで単純な問題じゃないだろ?」
そんな慧夢の反論に、素似合は首を横に振る。
「法律とかの社会のルールを、どうするか考えるなら、そりゃモラルの観点が大事さ」
お前は分かっていないとでも言いたげな口調で、素似合は自分の意見を述べ続ける。
「でも……自分がどうするかを考えるなら、何が正しいかで決めるんじゃない、自分がどうしたいかで決めるんだ。そうしないと、後悔だらけの偽物の人生を送る事になるからね」
「後悔だらけの偽物の人生……」
慧夢の言葉に、素似合は頷く。
「例えば、僕は可愛い女の子が好きだ。単に愛でる対象というだけでなく、恋やセックスの対象という意味でもね」
堂々とした口調で、素似合は自分の考えを語る、
「――しかも、僕は可愛い女の子一人では満足出来ない。沢山の美少女達を相手に、愛し……愛されたいんだ! 美少女ハーレムを作り、その主として暮らすのが、僕の夢なんだよ!」
「あ、いや……それは知ってるから。改めて言わなくてもいいや」
慧夢は呆れ顔で、げんなりとした様に呟く。
「――今、慧夢……呆れただろ?」
素似合に問われた慧夢は、当たり前だと言わんばかりの口調で答える。
「当たり前だろ! フィクションの中ならともかく、美少女ハーレム作りたいとか言い出す女がリアルでいたら、普通呆れるというか……ドン引きするわ!」
「ま……そういう反応が普通だよね。恋愛やセックスは異性とするもので、付き合うんだったら一対一というのが、モラルという観点からは正しいというか……普通なんだし」
真面目な口調で、素似合は言葉を続ける。
「そんなモラルという観点で、正しいとされてる生き方を、僕がしたらどうなる? 美少女ハーレムを作りたいという欲望を諦め、恋愛やセックスの対象には見られない男と付き合って、結婚して……子供を作って、僕は幸せになれると思うかい?」
「――なれない……だろうな」
慧夢の返答に、素似合は大きく頷く。
「その通り、なれる訳が無い。そんな生き方をしたら、きっと僕は毎日……いや毎時間毎分毎秒思うんだよ。今の自分は本当の自分じゃないって、こんな人生は偽物だって」
微風が吹き、街路樹の枝葉をざわめかせる。普段からすれば、らしくない会話をしている二人の心も、枝葉の様に微妙にざわめいている。
「そんな後悔だらけの人生なんて、生きていて楽しい訳が無い。その事を僕は、良く知っている……経験しているからね」
素似合の言葉を聞いて、慧夢は思い出す。小学生の頃の素似合の事を。
「――小五のバレンタインデーの時だったっけ?」
「覚えてたんだ」
慧夢に問われた素似合は、少し嬉しそうに微笑む。
「あのバレンタインデーの前……僕の人生は偽物で、自分を偽っては後悔するばかりの毎日だった」
二人の心の中に、懐かしい記憶が蘇る。
小五のバレンタインデーの頃、当日ではなく前日に、素似合が起こした騒動の記憶だ。