05 女には実践出来ない、男同士の恋愛に憧れ抱く腐女子と違って、女は女同士の恋愛が楽しめるから、不毛じゃないもんねー!
チャイムが鳴り、帰りのホームルームが終わる時間を、川神学園高等部中に告げる。
日本史だった六時間目で授業は終了、掃除の時間を挟んで帰りのホームルームとなり、それが終われば後は放課後だ。
必要な伝達事項を伝え終えた教壇の伽耶は、クラス委員である志月に告げる。
「――んじゃ、号令」
「起立!」
凛とした志月の声が、教室内に響き渡った直後、一年三組の生徒達は一斉に立ち上がる。
「気をつけ! 礼!」
志月の礼に従い、一斉に姿勢を正して礼をした生徒達に、伽耶も礼を返す。
これで後は放課後、部活や委員会活動に励む者達もいれば、帰宅する者達もいる……それぞれだ。
放課後の学内活動に勤しむ者達も、帰宅する者達も、授業から開放された喜びは変わらない。
教室内は楽しげな声と表情に溢れ、盛り上がっている。
礼の後、教壇に集まって来た生徒達との会話を追えた伽耶は、教壇から去り際に、大声で慧夢に問いかける。
「夢占、今日は部活出るのか?」
慧夢も大声で、部活動の監督者でもある伽耶に、返事する。
「出るよー!」
「そうか、じゃあ……後でな!」
そう言い残すと、伽耶は踵を返してドアに向かい、教室から出て行った。
「――創作護身術部、今日何やるか決まってんの?」
五月は慧夢の方を振り向いて、問いかける。
「新作は、まだ企画段階だから……決まってない」
小規模部活棟に向う準備を整えながら、慧夢は返答する。
創作護身術部とは、慧夢が中等部一年の頃にでっちあげた……のではなく創設した、オリジナルで新しい護身術を開発する部だ。
目付きが悪いせいもあり、不良などに絡まれる経験が、慧夢は小学生時代から多かった。
身体の大きさや腕力は並、武術や格闘技の経験がある訳でも無い慧夢は、何度も痛い目を見た経験がある。
そこで、普通なら親に頼んで、武術や格闘技を習ったりするものなのかも知れないが、慧夢は違った。
偶然にもランドセルに入っていた、金属製の三十センチ定規を武器に、絡んできた上級生の少年達を撃退出来た経験から、慧夢は考えたのだ。
「なるほど、身の回りにある物は、けっこう身をまもるのに、役立つんだな。これ……研究してみよう!」
慧夢は考えを実行に移し、小学生時代から身の回りにある物を利用して、身を守る新しい護身術の研究開発を、実益を兼ねた趣味として始めたのだ。
結果、妙な護身術で反撃して来る奴だと知れ渡り、目付きが悪いからといって、慧夢に絡んで来る者の数は激減した。
たまに慧夢の事を知らなかった不良少年が、うっかり慧夢に絡んで来る事はある。
そういった場合は、その時に慧夢が開発中だった創作護身術により、悪い冗談の様な形で、撃退される羽目になる。
中等部に入学した際、入りたい部が無かった慧夢は、この趣味である創作護身術の研究開発を行う、創作護身術部を創設した。
その後、現在に至るまで慧夢は、炭酸飲料護身術、瞬間接着剤護身術、激辛スナック護身術、ジャージ護身術、エロ雑誌護身術、冷凍餃子護身術など、日々精力的に新しい護身術をでっちあげ……いや、新しい護身術の研究開発を行っている。
ちなみに、創作護身術部の部員は、慧夢一人。
創作した護身術を試す際は、小規模部活棟で活動する、他の部の部員や、監督中の伽耶に協力して貰う事になっている。
その代わり、慧夢も創作護身術部が暇な際は、小規模部活棟で活動する他の部の活動を、手伝うのだ。
例えば、五月が所属するBLM研究部の活動などを。
BLMとは、ボーイズ・ラブ・マンガの略だ。
五月は元々、普通のマンガ研究部に所属していたのだが、マンガ研究部内で派閥抗争が起こった際、数名の濃い腐女子と共に追い出される形で、BLM研究部として独立したのである。
「――暇だったら、アシスタントやってよ。イベント近いんで、人手足りないんだ」
「いいけど、エロシーンのあるページ俺に回したら、美少年キャラ全員、ヒゲ面に描き変えるからな」
五月の頼みに、慧夢は快く応じる。全く快く応じている様には見えない目付きと、言葉使いで。
「分かってる、エロのあるシーンは自分でやるから、普通のページだけ頼むよ」
これでアシスタントの都合はついたとばかりに、五月の表情は綻ぶ。
「まーた五月は、しょーもないホモマンガなんか描いてるんだ」
バスケットボール部に向う準備をしながら、素似合は不思議だなと言わんばかりの口調で、続ける。
「男同士の恋愛なんて、不毛なだけなのに。そんなもんマンガに描いて、何が楽しいんだか?」
「女同士の恋愛、フィクションで楽しむどころか、実践している素似合にだけは、男同士の恋愛を、不毛とか言われたくないけど」
「女には実践出来ない、男同士の恋愛に憧れ抱く腐女子と違って、女は女同士の恋愛が楽しめるから、不毛じゃないもんねー!」
「即物的な変態レズには、自分には決して実践出来ないからこそ楽しめる、ファンタジーとしての恋愛の素晴らしさが、理解出来ないのよ」
「セックスする時、ウンコする穴に突っ込む恋愛なんざ、ファンタジーとしてすら楽しめないって! ウンコ臭いわ!」
「突っ込む物すら付いてない、女同士の恋愛よりマシだってば!」
「双頭ディルドやらストラポンやらあるから、身体に付いてなくても問題無いもんねー!」
「双頭ディルドにストラポンだぁ? 男の身体を真似た、偽物の人造ペ○スに頼る分際で、女同士が素晴らしいなどとは、片腹痛いわッ!」
口論がエスカレートし、かなり下品な言葉まで口にし始めた五月と素似合を見て、慧夢を含めたクラスメート達は、呆れ顔になる。
また始まったとでも、言わんばかりに。