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49 死にたいなんて思った事もないから、実体験としての話は出来ないな、私には……

「――自殺の方法に関して、私が家のパソコンで調べていたのに……ブラウザの履歴を見た親が気付いたんです」


 乃ノ香はデッサンの手は止めずに、淡々とした口調で話を続ける。


「それで、私が苛められていて……自殺願望持ってる事を知った親が、『そんな学校なら通わなくて良い!』って、私立の小学校に転校させてくれたんで、苛めも死にたいと思う事も無くなって……今も生きてるんですけど」


 虐めを放置した学校側と、虐めを主導した生徒達の親に民事訴訟を起こし、両親が勝訴した話などを、乃ノ香は手短に挟んでから、慧夢の疑問に対する自分の答を口にする。


「今は心の底から思います、あの時……自殺なんてしなくて良かったって。だから、追い込まれたからって死んで楽になろうという人がいたら、本人の意志なんて無視して、周りの人は止めるべきなんだと思いますよ」


「成る程ね、参考になったよ……有り難う」


 乃ノ香に慧夢は、礼を言う。自分の体験をベースにした乃ノ香の話にも、慧夢は説得力を感じたのだ。


「――お前はどう思う?」


「死にたいなんて思った事もないから、実体験としての話は出来ないな、私には……」


 慧夢に問われた五月は、デッサンする手を止めると、首を傾げて少しだけ考えてから、出した答を語り始める。


「まぁ、でも……主役が苦境に負けて自殺して終わるマンガや、苦境に負けて死のうとする脇役を、主役が脇役の意志を尊重して助けようともしないで、脇役が自殺して終わるマンガなんか、面白くもなんともないでしょ」


 自分でもマンガを描く側に回る程度に、マンガ好きである五月は、マンガに関連させて自分なりの答を説明しようとしているのだ。


「苦境と対峙したキャラが、抗い……戦い抜いてこそ、物語はドラマティックに盛り上がるのに、苦境に負けて死を選ぼうとするキャラを、周りがが止めようともせず、そのまま自殺して終りとか、有り得ないよ。そんなマンガ、読んで楽しいと思う?」


 五月の問いに、慧夢も他の者達も首を振って否定の意を示す。


「――でしょ、そんなマンガつまらないよね」


 当然だと言わんばかりの口調で、五月は言い切る。


「架空のマンガですらつまらない様な真似、現実の人生でやったって面白い訳が無い。自殺したい人の遺志を尊重するって事は、自殺したい人の人生も、自殺を止めない人の人生も、つまらなくするものだと思うから、私はどっちもお断りだね」


「つまり、五月は自殺したい人の遺志を無視して、止める方が正しいと?」


 慧夢の問いに、五月は頷く。


「当たり前でしょ。つまらないマンガも人生も、私……嫌いだもん」


「ありがと、参考になった。マンガに例えるってのが、五月らしいな」


 礼を言われて照れたのか、それとも真面目に語ってしまったのが、今更照れくさくなったのか、五月は仄かに頬を染めつつ、話題を切り替えるべくBLM研究部の部員達に問いかける。


「――そろそろポーズ変えようか。次……何が良い?」


「サソリ固め!」


「ボストンクラブッ!」


「テキサスクローバーホールドっ!」


「ツームストンパイルドライバー!」


 BLM研究部の部員達は次々と、プロレス技の名称を口にする。


「もうプロレス技は禁止って言ったろ! 俺の身体の健康と安全の為に、プロレス技は無しの方向で!」


 壁ドンのポーズを終えた慧夢は、壁から離れながら、BLM研究部の部員達に要求する。


「じゃあ、そのまま攻めが受けの唇を奪ってしまうかの様に、顔が近い袈裟固め!」


「腕がさりげなく股間に伸びてる、横四方固め!」


「攻めが受けに馬乗りになって、○している様にしか見えない、縦四方固め!」


「どう見てもシックス○インにしか見えない、上四方固め!」


 BLM研究部の部員達は、次々と柔道の寝技の名称を口にする。下品な前置きとセットで。


「はいはい君達、柔道の寝技を下品な言葉で汚すの止めて、柔道家の皆さんに心の底から謝りなさい!」


 慧夢は呆れ顔で、BLM研究部の部員達を窘める。


「あと、俺の身体の健康と安全の為に、柔道技も無しの方向で!」


 プロレス技に続き、柔道技も駄目だと言われたBLM研究部の部員達の部員達は、軽くブーイングを発する。

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