表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/232

42 家に帰ったら、夢占秘伝を読み直してみるか。困った時の夢占秘伝だ

 窓から射し込む陽光に暖められた、午後の教室の気だるい空気は、居眠りするには最適の環境と言える。

 一年三組の五時間目の授業中、眠りに対する逆らい難い誘惑と、慧夢は戦い続けていた。


 志月や永眠病、チルドニュクスや魔女など、様々な事が気になったせいで、殆ど眠れずに朝までゲームを続けてしまった日の午後。

 何時もより激しい睡魔に、慧夢は襲われている。


(――やばい、睡眠不足が祟ってるな……このままだと寝ちまう)


 落ちそうになる瞼を、精神力で必死に支えながら、慧夢は教室内の様子を観察する。

 現代文の授業中、眠りの世界に誘われそうになっているのは、慧夢だけではないらしく、数名の生徒達が居眠り寸前といった状態なのを、慧夢は視認する。


 そして、その中の一人が……眠気を堪えきれなくなったのか、机の上にうつ伏せる。

 教室の真ん中辺りの席に座っている、野球部に所属する男子生徒だ。


(――寝たか。今……居眠りすると、幸成ゆきなりの夢世界に吸い込まれるな)


 慧夢は眠りの世界に入ったらしい、真田さなだ幸成を眠そうな目で見ながら、心の中で続ける。


(幸成……異常な野球好きだし、夢の中でも野球やってたりして……ん?)


 心の中で呟いていた途中で、慧夢は異変に気付き、思わず驚きの声を上げそうになる。


(俺、まだ寝てないよな? 意識……途切れてないし、肉体のままだし……)


 自分の身体の各所に目をやり、動かしてみたり擦ってみたりして、慧夢は幽体と肉体が分離していないのを確認する。


(幽体離脱してない、まだ眠ってない筈だから、当たり前だけど)


 自分が幽体離脱中でないのを確認した慧夢は、幸成に再度目線を送る。


(だったら何で、見えてるんだ? 起きてる時には、見える筈無いのに?)


 慧夢の目線の先にある、起きている時には見える筈が無い存在……それは夢世界。

 居眠りを始めた幸成の周囲に発生している、夢世界の放つ光の渦。


 自分は眠っていないのに、居眠りを始めた幸成の周りに夢世界の光の渦が見えたので、慧夢は驚いたのである。

 驚いたせいで眠気は覚めてしまい、慧夢は冷静に事態の分析を始める。


(――見えるけど、普通の見え方じゃない……かなり薄いな)


 見間違いでは無く、確かに幸成の夢世界は見えていた。

 そして、幸成に続いて教室内で次々と、堰を切った様に生徒達が居眠りを始めたのだが、その生徒達の夢世界は全て、慧夢は起きているのに見る事が出来た。


 だが、目に映る全ての夢世界は、寝ている時……幽体離脱中に目にする夢世界とは違い、はっきりとは見えていないのだ。

 インクが僅かに残されたプリンターが印刷した、薄く掠れた画像の様に、その光の強さは弱く……色は薄く、あちらこちらが欠けている感じに見えるのである。


(薄くて掠れ気味とはいえ、何で見えるんだ? 睡眠が足らないからか? いや、でも前に徹夜した時には、こんなの見えなかったし……)


 慧夢は色々と思案するが、情報が少な過ぎて、答など分かる筈も無い。


(家に帰ったら、夢占秘伝を読み直してみるか。困った時の夢占秘伝だ)


 既に何度も、慧夢は夢占秘伝を読んでいる。

 だが、その分量は膨大であり、言葉が古くて読み辛い部分が相当ある為、読み飛ばしてしまっている部分や、意味が分からなかった部分も多い。


 特に、黒き夢に触れてある部分の後などは、古文書の入門書を手にしていても、解読不可能な難文が長々と並んでいて、慧夢は読むのを諦めてしまっていたのだ。

 黒き夢というものと、全く縁が無かったせいもあり、自分には無縁だろうとも思っていたので。


 他人の夢世界に入る生活に慣れ、人間不信からも回復して以降、余り目を通す事も無くなっていた為、忘れている部分も多い筈。

 今……改めて夢占秘伝を読み直せば、この現象について触れた部分もあるかも知れないと、慧夢は考えたのだ。


(それに、黒き夢についての部分も、ちゃんと読み直した方がいいよな。前は難しくて読めなかったけど、今なら読めるかも知れないし。ひょっとしたら何か解決法とか、書いてあるかも……)


 何故か寝ていない時にも、夢世界が見える様になる現象と、黒き夢について調べる為に、夢占秘伝を読み直そうと心に決め、慧夢は午後の授業を受け続けた。

 クラスメート達の夢世界が見えてしまう為、巻き込まれたくは無いという意志が普段より強く働いたせいか、慧夢は居眠りせずに、午後の授業を乗り切る事に成功し、放課後を迎えた。


    ×    ×    ×





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ