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03 一応、きいておくが……夢占、お前は他人の夢の中に入れるのか?

「一応、きいておくが……夢占、お前は他人の夢の中に入れるのか?」


 他の生徒達同様、五月の発言を信じてはいないものの、女性教師は一応、慧夢に問いかけてみる。


「――入れる訳無いでしょ、漫画やアニメやラノベじゃないんですから!」


 当たり前だと言わんばかりの口調で、慧夢は答える。


「だろうな。まぁ……お前の場合、目付きが悪過ぎてインパクトがあるから、記憶に残り易くて……夢に出易いのかね? 安良城の夢でも、悪党だった様だし」


「いや、目付きの悪さに関しては、先生だけには言われたく無いんだけど……」


 慧夢は女性教師に言い返すが、更に女性教師に反論される。


「そんな事は無い、確かに……あたしも目付きは悪い部類だが、お前みたいに買い物しようと店に入ったら、毎回の様に万引き犯と勘違いされて、店員にマンマークされる程には、目付き悪く無いよ」


「いやー、林間学校で森を散策していたら、出くわした熊が、目を見ただけで怯えて逃げ出したっていう、先生の目付きの悪さには負けますわ」


「通学路で擦れ違った、集団登校中の小学生達が、お前の目を見て一斉に泣き出したって言うじゃないか。悪党としか思えない夢占の目付きを見たら、そりゃ子供なら泣き出すさ」


「この前、家の風呂が壊れたんで、銭湯に行ったら、凶悪犯の写真や似顔絵が並んでる指名手配書が、壁に貼ってあったんだけど、その悪党どころか凶悪犯連中の目付き……どこかで見た覚えがあるなと思ったら、先生の目付きにそっくりだったんですけど」


「凶悪犯の顔ねぇ……。悪党面あくとうづらという意味なら、あたし程度じゃ夢占には勝てないと思うぞ。週に一度は、警察に職務質問されるという噂の、夢占には……」


 そんな風に、不毛な口喧嘩レベルの言い合いを続ける、慧夢と女性教師を見て、生徒達は楽しげに囁き合う。


「まーた姉弟喧嘩が始まった、ホント仲が良いな」


「目付きと口が悪い点については、当摩とうま先生も慧夢も、大差無いんじゃね」


伽耶かやちゃん先生、あんなだから彼氏出来ないんだよね、美人なのに」


 慧夢と女性教師……当摩伽耶が、不毛な言い争いをする事など、慣れたものだと言わんばかりの、生徒達の反応。

 実際、一年三組の生徒達からすれば、二人の言い合いなど、珍しい事でも何でも無いのだ。


 生徒達に姉弟呼ばわりされているが、慧夢と伽耶の間に、血縁上や姻戚上の関係は無い。

 どちらも割と美形の部類に入るにも関わらず、目付きと口が物凄く悪い為、異性に壊滅的にもてない辺りが、良く似ている為、生徒達は姉弟と揶揄やゆしているのである。


 二人が出会ったのは、川神かわかみ学園の中等部に、慧夢が通い始めた頃。

 本来、同じ敷地内にあるとはいえ、活動の殆どにおいて、中等部と高等部は分かれているので、中等部の生徒と高等部の教師が関わる確率は低い。


 それでも関わり合う事になったのは、部活動のせいだ。

 部活動もしくは委員会活動への参加が、義務付けられている中等部では、生徒は何でもいいので、何らかの部活もしくは委員会活動に、参加しなければならない(中等部のみ。高等部には、そういう義務は無い)。


 しかも、参加したい部や委員会が無い場合は、自分で部を作れというのが学園の方針(委員会は生徒が勝手には作れない)。

 そんな学園の方針のせいで、川神学園には部員が極端に少ない部が多数、存在する。


 だが、校内施設や顧問教師の数には限りがある為、数多い少人数の部全てに、部室と顧問教師を揃えるのは、事実上不可能。

 故に、数多い少人数の部は、中等部も高等部も一まとめにされ、扱われる事になった。


 活動の場所は、高等部の旧校舎の一部を利用した、小規模部活棟しょうきぼぶかつとう

 小規模部活棟での部活動は、中等部と高等部から二人ずつ派遣された四人の教師が、持ち回りで監督する制度となっている。


 中等部に入学した頃、入りたい部が無かった慧夢は、自分で部を創設し、小規模部活棟で活動していた。

 その頃、高等部から小規模部活棟の監督担当として、伽耶が派遣された為、出会ったのである。


 高校一年の五月末、慧夢と伽耶が知り合って、既に三年が過ぎている。

 喧嘩する程仲が良いとは、良く言ったもので、教師と生徒という立場の違いは有れど、二人は古くからの知り合いの様に、仲が良くなっている。


「先生、雑談ばかりしていないで、授業進めて下さい! もうすぐ中間テストなんですから!」


 クラス委員を務める、真面目そうな女生徒が、声を上げる。

 長い黒髪が印象的な、冷たい印象がする程に、端正過ぎる顔立ちの少女だ。


「あ、すまんな、籠宮かごみや!」


 伽耶は慧夢と言い合うのを止め、クラス委員の少女……籠宮志月かごみやしづきに、軽く謝罪の言葉を口にすると、教科書を開いて、授業を再開する。


 一部の生徒達から、慧夢と伽耶の言い合いが終り、授業が再開された事を惜しむ声と、志月に対するブーイングが上がる。

 ただし、志月の言い分は圧倒的に正しいので、それらの声は、すぐに収まる。


「えーっと、さっき夢占の顔の事を、悪党面と言ったが、この悪党という言葉は、日本史では『続日本紀』に出て来る言葉でもあり、今……授業で教えている、荘園公領制にも関わりがあるんだ。荘園や公領などに、外部から……」


 伽耶の声が教室内に響き渡る、暖かな五月末の昼下がり、一年三組の教室では、日本史の授業が続く。

 伽耶の授業は、進学校である川神高校高等部の中では、面白く分かり易いという評判だ。


 だが、窓から射し込んでくる初夏の強い陽射と、吹き込んでくる爽やかな風が、生徒達を眠りの世界に誘う力は強力。

 慧夢を含めた生徒達は、眠気を堪えながら、その日最後の授業を受け続ける……。


    ×    ×    ×




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