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28 私も、ずっとデマだと思ってたよ、ついさっきまではね

 小規模部活棟には、空き部屋が幾つかある。

 正確には、使ったり使わなかったりする部屋が多いので、部屋のどれかは大抵空いているという感じ。


 そんな空き部屋の一つに、慧夢は絵里を連れて入る。

 やや空気が淀んでいたので、窓の近くまで行って窓を開け、部屋の空気を入れ替えてから、慧夢は絵里と話を始める。


「――で、話って?」


「あの噂、本当なんでしょ?」


 絵里の言葉を濁した問いかけに、慧夢は惚けて聞き返す。


「あの噂って? 噂なんて色々あるじゃん。トイレの花子さんとか、音楽室のピアノが夜に鳴り出すとか、校庭にある創立者の銅像が、夜になると小便小僧ならぬ小便中年に変身して、学校中に小便を撒き散らすとか……」


「それ、噂じゃなくって、学校の怪談でしょ! あと最期の小便中年とか、学校の怪談にすら入ってないから!」


 強い口調で、絵里は言葉を続ける。


「そうじゃなくて、夢占君に関する噂よ!」


「俺に関する噂? ああ、素似合や五月、伽耶先生と俺が、付き合ってるとかいうのなら、ただのデマだぞ」


 傍から見ていると、かなり仲良さ気に見えたりもするらしく、その三人と慧夢が付き合っているのではという噂が、一部で流れているのは事実。

 でも、まさに根も葉もどころか、茎も芽も種も無いレベルでのデマである。


「その五月が良く言ってる、夢占君が他人の夢の中に入れるって噂だってば!」


 焦れたのか、絵里は怒鳴り声で、はっきりと噂自体を明確にする。


「――そんなの、デマに決まってんじゃん」


 しれっとした口調と表情で、慧夢は平然と否定する。


「私も、ずっとデマだと思ってたよ、ついさっきまではね」


「ついさっき? 何かあったの?」


「惚けないでよ! さっき……目が合ったでしょ!」


「目が? ああ、そりゃ……同じ教室にいるんだから、偶然に目が合う事くらいあるだろ」


「今まで目が合った事なんて、無いじゃない!」


 すっ惚けてみせる慧夢に、絵里は強い口調で言い放ち続ける。


「それなのに……さっき授業中、しかも……私の夢に夢占君が出た後に目が合うのって、幾らなんでも偶然というのは、無理が有るんじゃないの?」


「え? 杉山も俺の夢みたの? ああ、ひょっとしたら……俺の事意識してたりするんじゃない?」


 冗談めかした口調で、慧夢は問いかける。


 親しくない女生徒相手を、慧夢は余り呼び捨てにしたりしないのだが、つい慧夢は絵里を呼び捨てにしてしまう。


 ほんの少し前に、絵里の夢の中に入っていた時、夢の中であった故の気楽さから、「杉山」と呼び捨ててしまった影響が、まだ残っている影響なのだが、慧夢は自覚していない。


「それは百パーセント有り得ないから! 夢占君を意識した事なんて、一度も無いんだし」


 力強い口調で、絵里は断言する。


「まともな意味で、夢占君が私の夢に出て来る可能性なんて、絶対に無い筈なのに……出て来たのは、五月が言ってるみたいに、夢占君が他の人の夢の中に入り込めるからに、決まってるじゃない!」


「――何気に俺、凄く酷い事言われてる気がするんだけど」


 自分がクラスメートの女子に、意識などされていない自覚はあるが、思いっ切り断言されてしまうと、流石に多少は慧夢もダメージを受けてしまう。


「夢の中に出て来た人って、その後……少し気になるでしょ。全く何も意識してない夢占君を私が見てたのも、そのせいなんだし」


 微妙にダメージを受けている、慧夢の様子など気にもせず、絵里は話を続ける。


「そしたら、夢占君も私の事……見てたじゃない? あれって……夢占君が私の夢の中に入って来て、夢の中で私に会ったから、私の事が気になって見てたんでしょ? そうに決まってるよ!」


 絵里は、ほぼ事実を言い当てている。

 だが、慧夢としては認める訳にはいかない事実であり、何とか言いくるめてしまわなければならない。


 一応、こういったケースに備えて、慧夢は相手を言いくるめる為の理屈を、準備している。

 その中の一つを、慧夢は口にし始める。


「――そんなの、ただの偶然だって。目線を適当に泳がせてたら、偶然に杉山と目が合っただけだよ」


「同じクラスになって二ヶ月以上……これまで一度も目が合った事なんてないのに、夢で見た後に、初めて目が合うなんて、ただの偶然の訳無いじゃない!」


「ああ、杉山は単なる偶然に、意味を求めてしまうタイプの、愚か者だったんだな。小学校の授業を、ちゃんと受けていなかったんだろ」


「ちゃんと受けてたよ。受けてなければ……一応うちの学校、進学校なんだし、入れる訳が無いでしょ!」


「いいや、そんな筈は無い。ちゃんと授業を受けていたなら、ただの偶然を偶然では無いと看做す事の愚かさを、ちゃんと学んでいた筈だ。小学校の音楽の授業で」


 堂々とした口調で、慧夢は言い切った。


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