表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/232

24 そういえば、目とか……どことなく猫っぽいな。杉山って、結構しつこい性格なのかも……

 ふと、絵里の様子が気になったので、確認したいという欲望に駆られる。

 でも、その欲望は、少しの間……押さえ込まなければならない。


 教室で居眠りをしてしまい、うっかりクラスメートの夢世界に吸い込まれた場合、目覚めた後……相手の事が気になるのは、慧夢だけではない。

 慧夢が夢に出て来たクラスメートの方も、それは同じ。


 故に、気になった慧夢が、夢世界の主だったクラスメートの方に目をやると、クラスメートの方も慧夢の方を見ていて、不自然に目線が合ってしまいがちなのだ。

 そうなると、クラスメートの方は、僅かではあっても、疑惑を持つ可能性がある。


 付き合いが長い分、繰り返し……慧夢がうっかり、夢世界に吸い込まれた回数が多い、五月が口にする話。

「夢占慧夢は他人の夢の中に入り込める」という、常識的には信じ難い話が、実は真実なのではないかという疑惑が。


 五月同様、数多く慧夢に夢の中に入られている素似合ですら、冗談で慧夢に対し、「僕の夢の中に入ってくるんじゃない」などと言ったりはする。

 でも、半信半疑……つまり半分程度は、慧夢が夢の中に入り込めると信じている五月とは違い、流石に素似合は、そんな事が有り得るなどと、殆ど信じてはいない。


 常識的には、他人の夢の中に入れる人間などいる筈がないので、五月の様な例外を除けば、そんな事を冗談以外で、口に出して言い始める者はいない。

 それでも、夢の中で慧夢に出会った直後に、慧夢と目が合ってしまうと、勘の良い者は何かを察し、疑惑を抱いてしまう場合がある。


 その勘の良い者の代表が、他ならぬ五月だ。

 小学校時代、五月は夢の中で慧夢と出会った直後、現実世界で目が合うという経験を、何度か繰り返した後、疑惑を抱いたのだ。


「私が夢で慧夢に会った後、慧夢が気になって慧夢を見る……。それと同じで、慧夢も夢で私に会ったから、私が気になって私を見たので、夢で慧夢と会ってから起きると、慧夢と私は目が合うんじゃないかな?」


 五月の抱いた疑惑は、正しかった。

 特殊能力者が出て来る、マンガやアニメが大好きだった五月は、更に疑惑を発展させ、「夢占慧夢は他人の夢の中に入り込める」特殊能力者だという真実に、辿り着いてしまったのである。


 真実に辿り着いた五月本人ですら、半信半疑で口にする、「夢占慧夢は他人の夢の中に入り込める」という真実は、普通なら誰も信じない。

 でも、五月が真実に辿り着く切っ掛けとなった、夢の中で慧夢と出会い……目覚めた直後に、慧夢と目が合う経験をした者は、「夢占慧夢は他人の夢の中に入り込める」という話が、真実なのではないかという疑惑を、抱いてしまいがちなのだ。


 慧夢は過去に、教室での居眠りの後などに、入り込んでいた夢世界の主だったクラスメートと目が合ってしまい、疑惑を抱かれた事が何度もあった。

 その度に、慧夢は割りと面倒な目に遭っていたのである。


 故に、夢世界から戻った後、慧夢は疑惑を抱かれるのを避ける為、すぐには夢世界の主だった人を、見ないようにしているのだ。

 少し間を置いてから見るだけで、殆ど目線を合わせる事は無くなるので、慧夢は今回も絵里の様子を確認したいという欲望を抑え、少し間を置く事にする。


 そして、五分程が過ぎた頃合、慧夢は心の中で呟く。


(――もう、流石に大丈夫だろ)


 幾らなんでも、五分も過ぎてしまえば、授業中で他に気にしなければならない事も多いのだし、絵里の意識や目線は、既に自分には向いていないだろうと、慧夢は判断した。

 絵里の様子を確認したいという欲望を抑えるのを止め、視界を遮る素似合の身体を避ける為に、身体を少し前に倒して、慧夢は絵里の様子を確認する。


(!!)


 慧夢は驚き、自分が失敗したのを自覚する。

 目線の先にいる絵里が、慧夢同様に身体を少し前に倒した上で、机に肘をつき、疑惑の目線を自分に向けているのを、慧夢は目にした……要するに、絵里と目線が合ってしまったのだ。

 鼠の気配を察した猫が、鼠が姿を現すまで、その場を動かずに待ち構え続ける……。

 そんな風に、しつこく獲物を待ち続けていた、前に飼っていた猫の姿を、慧夢は思い浮かべる。


(そういえば、目とか……どことなく猫っぽいな。杉山って、結構しつこい性格なのかも……)


 心の中で呟きながら、慧夢は偶然、目線が合っただけである風を装いながら、目線を絵里から外し、黒板に向ける。

 絵里が五月とは違い、超常現象を信じない常識人であってくれる事を祈りながら、午後の気だるい雰囲気の教室で、英語の授業を受け続ける。


    ×    ×    ×





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ