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220 おはよう、夢占君! あと、素似合と五月も!

 梅雨とは思えない、夏の様な青空の下、多数の夏服の生徒達が、川神学園の校門に向っている。

 多くは徒歩なのだが、自転車通学の者達も、僅かにいる。


 徒歩通学の慧夢達も、校門に近付きつつあった。

 通学中の話題は、色々と変わり続けたが、今はゲームについて、三人は話していた。


「――そう言えば、アームド・コンフリクトAが……ん?」


 手に入らないと思っていた、アームド・コンフリクトAが手に入った事について、素似合と五月に話そうとした、慧夢の言葉が途切れる。

 正面方向から走って来る、一台のバスの姿を目にして驚き、慧夢は言葉を途切れさせてしまったのだ。


 慧夢の目線の先にあるバスは、車体は普通の黒いバスなのだが、フロントガラスがある筈の車体の前面に、巨大ないかめしい男の顔が付いているので、明らかにまともではないのが、一目で分かる。

 派手で異様な見た目のバスなので、通学中の生徒達が目にすれば、ちょっとした騒ぎになりそうなのだが、何の騒ぎにもならないどころか、慧夢以外は存在に気付きもしない。


 その異様なバスの姿が見えるのは、慧夢だけなのである。

 要するに、普通の存在ではなく、霊的な存在のバスなのだ。


(たまに夜に見かけるけど、あれ朝も走ってるのか……)


 左側の車道を走って来て、通り過ぎて行く異様なバスを目で追いながら、慧夢は心の中で呟く。

 慧夢は夜に幽体となっている時、その異様なバスの姿を、たまにではあるが目にした事があった。


 たまに見かける、明らかにまともではない、何らかの霊的な存在。

 ただ、これまで目にしたのは、幽体となっていた夜間くらいで、幽体になっていない日中に目にするのは、慧夢も初めてだったのだ。


 黒き夢に近付いた後にも、慧夢の霊力は強まり、幽体になっている時にしか見えなかった、様々な霊的な存在が、通常時でも見えるようになっていた。

 ただし、この段階では、薄く掠れた感じにしか見えなかったので、通常の存在では無い何かが存在するのに、気付ける程度でしかなかった(見慣れた夢世界は、判別出来たが)。


 でも、黒き夢から生還した後、慧夢の霊力は更に強まり、幽体にならずとも、夢世界や霊的な存在が、通常の物と同様に、はっきりと見える様になってしまった。

 故に、巨大な顔が付いている異様なバスの姿が、幽体になってない今、慧夢は見えてしまうのである。


「アームド・コンフリクトAが、どうかしたのかい?」


 慧夢の言葉が途切れたのに、不自然さを覚えたのか、やや訝しげに素似合は問いかける。


「――あ、アームド・コンフリクトAが、手に入ったんだ」


 目線を即座に素似合に移し、慧夢は問いに答える。


「ワーウォーの新作買うから、買わないって言ってたじゃん」


 素似合の言う「ワーウォー」とは、ワールド・ウォーズの略だ。


「買ってない、貰ったんだよ」


「貰ったって、誰に?」


「前に道で倒れてる人を、助けたって話しただろ? その人の妹さんに、お礼として貰ったんだ」


 慧夢の答を聞いて、素似合と五月は顔を見合わせる。


「それって、籠宮の叔母さんだよね? 昨日会った時、慧夢が籠宮の親父さんを助けた話、聞いたよ」


 素似合の言葉を聞いて、和美が朝食の時にしていた話を、慧夢は思い出す。

 礼を渡す為に、夢占家を訪れた志津子が、見舞いに訪れていた五月達と共に、自分を見舞ったという話を。


「迷彩のハンヴィー、たまに走ってるの見かけてたんだけど、籠宮の叔母さんのだったのには、驚いたよ」


 志津子だけでなく、志津子が乗っていたハンヴィーの姿を思い出しつつ、五月は続ける。


「籠宮と顔は似てるけど、趣味とか全然違いそうだね。迷彩のハンヴィーとか乗り回すくらいだし、ミリタリーマニアなのかな?」


「ハンドガンやアサルトライフルを、車内に飾ってるレベルの、ミリタリーマニアだよ……籠宮の叔母さん」


 五月と素似合は慧夢の返答を聞いて、大きな目を見開き、驚きを露にする。


「――いや、本物じゃないからな。モデルガンとかだぞ」


 慧夢が付け加えた言葉を聞いて、肩透かしを食った感じの表情を、五月と素似合は浮かべる。


「ハンヴィー乗り回す程のミリタリーマニアなら、本物の銃に手を出す可能性も、あるんじゃないかと、ちょっとだけ思っちゃった」


 五月の言葉に、素似合も首を縦に振り、同意を示す。


「ハンヴィーは軍用の本物だって言ってたけど、銃は偽物だよ。銃を撃つのは、ゲームの中だけで十分だって言ってた」


「ミリタリーマニアで、銃を撃つゲームか……。籠宮の叔母さん、ミリタリー系のシューティングとかやるんだ?」


 素似合の問いに、慧夢は頷く。


「FPS歴……十年くらいらしいから、俺等よりやり込んでるんじゃないかな。アームド・コンフリクトAもワーウオー3も買ったそうだし」


「じゃあ、僕等もオンライン上で、一緒にゲームして遊ぶ機会もあるのかもね……籠宮の叔母さんと」


「案外というよりは、たぶん遊ぶ事になるんじゃないかな」


 歩きながら話している内に、校門辺りに辿り着いた慧夢は、校門を通り抜けつつ話を続ける。


「アームド・コンフリクトAと一緒に入ってたメッセージカードに、『良かったらご一緒に』みたいな感じで、フレンド申請用のユーザーIDが書いてあったんで、今日帰ったら、フレンド申請するつもりだから」


 素似合と五月も、家庭用ゲーム機のオンラインサービスにおいて、慧夢をフレンドとして登録している。

 そして、多人数で遊ぶオンラインゲームでは、フレンド関係にあるプレイヤー達は集まり易い。


 つまり、慧夢と志津子がフレンドとなると、慧夢のフレンドである素似合や五月も、慧夢を介して志津子と一緒に、ゲームをプレイする機会が、訪れ易くなるのだ。


「成る程、それなら確かに、僕等も籠宮の叔母さんと、ゲームの中で……ご一緒する機会があるんだろうな」


 そう言いながら、素似合は五月の顔を一瞥する。

 半目の五月が、微妙に苦い表情を浮かべているのに、素似合は気付く。


 素似合の視線に気付いた五月が、気まずそうな表情を一瞬だけ浮かべた直後、突如……三人は背後から、声をかけられる。


「おはよう、夢占君! あと、素似合と五月も!」




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