218 五月も素似合も、大げさだなー。俺の身体は何の問題も無い、完全健康体だってのに
まだ濡れている、肩甲骨辺りまである長い髪を、バスタオルで荒っぽく拭きながら、トランクス一枚というラフ過ぎる格好で、慧夢は自室に入る。
慧夢は朝食の後、風呂場でシャワーを浴び、身体と髪を洗ってきたばかりなのだ。
ベッドの上には、代えの夏用の制服が、綺麗に畳んで用意してあった。
慧夢は心の中で和美に感謝しつつ、ベッドの枕元の方へ移動し、スマートフォンの充電状態を調べる。
(フルじゃないけど、今日だけなら余裕で持つだろう)
充電器を外してから、慧夢はスマートフォンを操作し、メッセージやメールなどをチェック。
五日以上もチェックしていなかった為、メッセージやメールは大量に溜まっていた。
慧夢はメッセージやメールに目を通しながら、急いで片っ端から返信する。
メッセージやメールの相手の殆どは、学校の友人であったので、メッセージやメールを返せなかった事を謝りつつ、今日から学校に復帰する旨の返信を。
数分かけて、全ての返信を終えた慧夢は、今日の時間割に合わせた教科書とノートを揃えて、スマートフォンと共に鞄の中に入れてから、制服を着始める。
半袖のシャツを着終えた頃、メッセージの着信音が、続け様に二度鳴ったので、鞄を開けてスマートフォンを手に取り、慧夢はメッセージを確認。
「五月と素似合からか……返信早いな」
慧夢は五月や素似合と、メッセージをやり取りするグループを組んでいる。
でも、グループの方ではなく、個別にメッセージをやり取りする方に、慧夢は返信したので、二人から届いたのも個別の方。
まずは僅かに先に届いた、五月のメッセージの画面を、慧夢は開く(以降、名前とセットの「」は、メッセージの文面)。
五月「やっと治ったんだ、よかったよかった! このまま慧夢が回復しなかったら、夏用の奴隷の調達に、困るところだったぞ」
慧夢「奴隷は止めろ、奴隷は。知らない人に見られたら、妙な勘違いされちまうだろ」
五月のメッセージに、慧夢は即座にメッセージで突っ込みを入れる。
夏用の奴隷とは、夏コミ用の同人誌に載せるマンガの、アシスタントという意味だ。
五月「素似合も今朝は朝練ないはずだから、一緒に学校行こう。病み上がりなんだし、何かあったら困るんで、一人で行くのは止めた方がいい」
慧夢「病み上がりとか大げさな、身体はもう何ともないから、大丈夫だって」
五月「とにかく、すぐに素似合と迎えに行くから」
問答無用と言った感じで、五月のメッセージは終わる。
「――ま、心配してくれてんだろう。あんまり病気で学校休んだり、しないからな……俺」
呟きながら、今度は素似合のメッセージを、慧夢はチェックする。
素似合「全快おめでとう、大事にならずに済んで良かった! 慧夢が何日も病気で休むなんて、記憶に無いくらいに珍しいから、心配したよ」
慧夢「大事とか大げさだって、ただの風邪なんだから」
素似合「風邪は万病の元というじゃないか、風邪から大事に至る事も多いんだから、軽く考えちゃいけない」
続け様に、素似合からのメッセージは届く。
素似合「とにかく、慧夢は病み上がりなんだから、今日は一人で登校しない方がいい。五月誘って、すぐに迎えに行くから!」
先程の五月と同様、素似合のメッセージも問答無用と言った感じで、五月のメッセージは終わる。
「五月も素似合も、大げさだなー。俺の身体は何の問題も無い、完全健康体だってのに」
呆れ顔で呟きながら、慧夢はスマートフォンを鞄に仕舞うと、まだ穿いていなかったズボンを穿きながら、独り言を続ける。
「病み上がりだと思われてるから、仕方が無いのかねぇ」
制服を着終えた慧夢は、木目調のカラーボックスの前に移動。
カラーボックスの上には鏡と櫛、ドライヤーや髪を縛るゴムが置かれ、鏡台としての機能を果たせる様になっている。
まだ湿っている髪を、ドライヤーで乾かしつつ、慧夢は大雑把に長い髪に櫛を通す。
「髪伸びたなー。夏も近いし、そろそろ切るか」
慧夢の長髪は、拘りがあってのものではなく、単に楽だから伸ばしっ放しにしているだけ。
髪を切りに行くのも面倒だし、ヘアスタイルを整えるのも面倒なので、伸ばした髪をうなじの辺りで、ぞんざいに結っているだけ。
恋愛に積極的ではなく、異性の気を惹こうという欲望が薄かったせいもあり、同年代の同性の友人達程に、慧夢はヘアスタイルに気を遣っていなかった。
母親似の女顔のせいで、長髪自体は似合っていたのだが。
「髪……もう少し、ちゃんとした方が、良いのかも」
普段は気にもならなかったヘアスタイルが、今朝は少しだけ気になってしまった慧夢は、そう呟きながらカラーボックスの前を離れて、ベッドの方に移動。
ベッドボード前の棚に置かれた目覚まし時計で、現在時刻をチェックし、時間に余裕があるのを確認。
その際、目覚まし時計の近くに置かれていた、ラッピングバッグが目に入り、慧夢は中身が気になってしまった。
ラッピングバックを手に取った慧夢は、リボンを解いて、中身を取り出してみる。