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206 何だこりゃ? えらい頑丈だな! ネックレスって、こんなに頑丈なのか?

 確認を終えた慧夢は、懐中時計をポケットに戻すと、ネックレスを左手に戻す。

 そして、片手だけで引き千切ろうとするが、上手く行かない。


(口で噛んで、引っ張ってみるか)


 慧夢は再びネックレスを口にくわえ、左手で引っ張って引き千切ろうとする。

 だが、思いのほかネックレスは丈夫であり、ネックレスを噛む歯が痛いだけで、ネックレスは引き千切れない。


 それでも強引にネックレスを引っ張ると、歯の間からネックレスは抜けてしまい、慧夢は音を立てる程に強く、歯を噛み締めてしまう羽目になる。


(何だこりゃ? えらい頑丈だな! ネックレスって、こんなに頑丈なのか?)


 口と顎に痛みを覚えながら、慧夢はネックレスを観察する。

 ネックレスは、ビーズ程の大きさがある銀色の金属製の球体を、太めのテグス糸で数珠繋ぎにしたものだった。


(頑丈な訳だ、テグスじゃねえか! しかも結構太い!)


 玩具の様な安物ではあるのだが、子供だった頃の志月の玩具である、クマのヌイグルミに装着する為に、陽志はなるべく頑丈なネックレスを選んでいた。

 数十キロの魚を釣り上げられる、海釣りに使われるテグス糸を使っているので、子供が乱暴に扱っても壊れ難いという宣伝文句の、頑丈なネックレスを。


 故に、このネックレスは、簡単には千切れないのだ。

 その事を、志月は表層的な記憶としては忘れているのだが、普段は意識出来ない深層には記憶されているので、それが夢世界のネックレスの強度に、反映されている。


(足で踏んで引っ張れば、切れるかも?)


 口で噛むのでは駄目なら、足で踏んだ上で引っ張ればいいのではと考えた慧夢は、ネックレスの留め具を外して、一本の紐の様な状態にしてから瓦の上に置き、右脚で踏み付ける。

 その上で、慧夢はネックレスを、左手で引っ張る。


 だが、金属製の球体は滑り易く、強く引っ張ると、踏んだ靴底から擦り抜けてしまい、その方法でもネックレスを引き千切れない。


「駄目だ! こりゃ、右腕が戻るか……刃物でもないと、破壊出来ないんじゃないか?」


 右腕が戻れば、両手の指にネックレスを巻きつけ、滑らない様にした上で握り締め、両手で引っ張って、引き千切れる筈。

 右腕が戻らずとも、刃物でなら切断出来るかもしれないと、慧夢は考えた。


(どうする? 右腕が戻るのを待つか? それとも、武器を手に入れるか? 庭にいる籠宮の兄貴に頼んで、刃物を屋根の上に投げてもらえば……)


 少しだけ悩んだ結果、右腕が戻る様子もないので、とりあえず刃物を屋根の上に投げるだけの余裕が、陽志にあるかどうかを確かめる為、慧夢は身を屈めて屋根の端まで移動。

 庭に目をやり、陽志の姿を確認しようとした慧夢は、庭の方から何かが飛んで来るのに気付く。


(何だ? 攻撃か?)


 庭からモブキャラクターが、何かを投げて攻撃して来たのかと考え、慧夢は身構えるが、すぐに攻撃ではないと気付く。

 飛んで来た何かは、かなり特徴的な形をしていたので、それが自分にとって、危険な存在では無いのが、慧夢には分かったのだ。


 庭の方から飛来した何か……それは、慧夢の右前腕。

 巨大ロボットが自分の手や腕を、ミサイル風に飛ばして攻撃する、アニメや特撮ドラマがあるが、そういったロボットが飛ばした手や腕の様に、慧夢の右前腕が、慧夢に向って飛んで来たのである。


 拳を前にして、手首から流れ出た血を、炎みたいに引き連れながら。


「――右腕の再生が、やっと始まったんだ!」


 待ちに待った右腕の再生が、ようやく始まったのだと思った慧夢は、思わず喜びの声を上げる。

 ただ、右腕の再生は今になって「やっと」始まったのではなく、実は少し前から始まっていた。


 慧夢の右前腕部分は、弓矢に射抜かれて木に固定されてしまっていたので、そのままでは移動が出来なかった。

 故に、まず右前腕部分は、一度ばらばらに自ら分解し、弓矢と木から離れたのである。


 大量の血、そして血塗れの骨と肉片の群と化した右前腕は、その場で再び一つとなって、右前腕の形に戻った。

 だが、その時既に慧夢は、屋根の上に移動済みであった為、右前腕は慧夢を追って移動を開始……今ようやく、慧夢の元に辿り着こうとしていたのだ。


 このタイミングで、程無く右腕を取り戻せると分かったので、慧夢は決断する。


(すぐに右腕は元通りになるんだから、両手で引き千切ろう)


 心の中で呟く慧夢の右腕に、まるで飛ばされたロボットの腕が、戻って来て合体するかの様に、右前腕部分が右腕の切断部分に戻って来る。

 手首が引き連れて来た血が、切断面に吸い込まれてから、右前腕は右腕の切断部分と結合、分かたれていた右腕は一つとなる。


(よし! 右腕戻ったっ!)


 慧夢は心の中で喜びの声を上げながら、右手を動かして、ちゃんと動くかどうかを確認。

 右手は問題なく、普通に動いた。


(あとは、ネックレスを切るだけだ!)


 留め具を外され、一本の紐の様になっているネックレスの両端を、慧夢は両手で持ち、指先に絡めた上で握り締める。

 指先に絡めたのは、滑るのを防ぐ為。


 これで、後はネックレスを引き千切れば、志月の黒き夢を終わらせられる。

 両手両腕に力を込め、ネックレスを引き千切ろうとした……まさにその瞬間、庭から上がった鋭い声が耳に届き、慧夢は思わず手を止めてしまう。




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