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204 あ、熱(あち)ッ! あちちち! 熱(あち)いっ!

「あ、あちッ! あちちち! あちいっ!」


 尻を焼かれた少年は、熱さと苦痛に苛まれ、悲痛な声を上げながら、その場でのたうち回り始める。

 傾斜している瓦屋根の上を、少年は尻を燃やしながら、転がり落ちて行く。


「まさに尻に火が点いた状態って……ふごっ!」


 慧夢の軽口が、苦しげな奇声に化ける。

 軽口を叩いている最中に、慧夢は右頬に激痛を覚えたのだ。


 激痛の原因は、赤いジャージの少女が放った、右の肘打ち。

 起き上がった少年に左腕を伸ばしたせいで、慧夢の上体は反り気味となり、意図せずに少女の身体を押さえ込む力が弱まってしまった。


 しかも、慧夢の目線も少年の方に集中してしまっていた為、少女の動きを視認出来ず、右頬に肘打ちを食らってしまったのだ。

 左腕を上げつつ上体を反らし気味の状態で、右頬に強烈な一撃を受けた慧夢の身体は、左側に転がってしまう。


 結果、慧夢が上から退いた状態となった少女は、身体の自由を取り戻し、ネックレスを手に入れる為に動き出す。

 既にネックレスまでは二メートル程と近いせいか、少女は立ち上がらず、四つん這いの状態で移動を開始。


 あっという間にネックレスに手が届く辺りまで近付き、少女はネックレスに右手を伸ばす。

 少女の右手の指先が、ネックレスに届く。


(取らせねぇよ!)


 左に転んだ慧夢も、焦りの表情を浮かべながら、すぐに瓦屋根の上を四つん這いで、少女の方へと移動。

 慧夢は少女の左足首を左手で掴むと、綱引きでもするかの様に、上体を起こして全力で引き寄せる。


 身体を起して後ろに反らせ、体重をかける形で左足首を引っ張った為、慧夢が少女を引き寄せた力は強力。

 右手の指先がネックレスに引っかかった状態の少女を、その身体ごと慧夢自身の元に、引き寄せただけでは済まなかった。


 勢い余って、少女の身体は慧夢に衝突、慧夢と少女は一塊ひとかたまりとなり、屋根の上を転げ落ちて行く。

 慧夢は何とか転がり落ちる自分を止めようと試み、左手と足を瓦に引っ掛けたりするが、ある程度減速するのがせいぜいで、転がり落ちるのを止め切れない。


(畜生! このままだと、屋根から落ちちまう!)


 屋根の上を転がりながら、慧夢が心の中で焦りの声を上げた直後、慧夢と少女の身体は、何かにぶつかって止まってしまう。


(な、何で止まったんだ?)


 慧夢は自分の身体を止めた存在が何なのかを、顔を上げて確認しようとする。

 そんな慧夢の目に映ったのは、ジャージの半分程が焼け溶けて、酷い火傷を負った状態の少年が、悲鳴を上げながら屋根から落ちようとしている姿。


 ジャージを燃やされた後、慧夢と少女より先に、屋根の上を転げ落ちて行った少年は、屋根から落ちる直前で、何とか踏み止まるのに成功。

 屋根の上を転がったお陰で、ジャージの火も消えたので、少年は体勢を立て直し、ネックレスを拾いに行こうとしていたのだ。


 その時、慧夢と少女が転がり落ちて来て、少年に衝突。

 転がり落ちながらも、ある程度の減速には成功していたせいもあり、慧夢と少女は停止する事が出来た。


 だが、少年の方はビリヤードの球の様に、慧夢と少女に弾き飛ばされる形で、屋根から落下する羽目になってしまったのだ。


(ネックレスは?)


 状況を理解した慧夢は、即座にネックレスを探し始める。

 屋根から落ちずに済んだ理由よりは、ネックレスがどうなったかの方が、慧夢にとっては重要だったので、慧夢は無駄な事を気にしたなと後悔しながら、先程までネックレスを持っていた、少女の右手を探す。


 今現在、慧夢は屋根の端っこ辺りに、足先を屋根の真ん中の方に向け、玄関側を向く形で倒れている。

 少女は慧夢の近くに倒れているのだが、慧夢の眼前にあるのは足なので、このままでは少女の右手は見えない。


 慧夢は即座に起き上がり、少し遅れて起き上がろうとし始めた、少女の右手を確認しようと動く。

 だが、上体を起こしたばかりの少女の右手に、ネックレスの姿は無い。


 少女自身も、自分がネックレスを手にしていないのに気付き、慌てた様子で辺りを見回し始める。

 転げ落ちる最中、少女はネックレスを落としたのだ。


(落としたのか? 何処に?)


 慧夢も周囲を見回し、ネックレスを探す。

 すると、今現在の慧夢から一メートル半程離れた玄関側、屋根のきわの瓦の上に落ちている、煌く銀色のネックレスが、慧夢の目に映る。


 少女が落としたネックレスは、屋根の際まで滑り落ちていたのだ。


(あった!)


 だが、ネックレスを発見したのは、慧夢だけではなかった。

 少女もネックレスが屋根の際にあるのに気付き、ネックレスに向って四つん這いで移動し始めていた。


(やばい! このまま取りに行っても、俺の方が遠いから、勝ち目が無い!)


 少女の方が慧夢よりも、ネックレスに近い側にいたので、同時にスタートを切れば、ネックレスに先に辿り着くのは、少女であるのは確実。

 その事に、慧夢は瞬時に気付いて、ネックレスを取りに行く選択肢を、とりあえず放棄。




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