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203 くそっ! 両腕があれば、このまま締め落とせるんだが、片腕じゃ無理だ!

 既にモブキャラクター達はネックレスまで、五メートル程の距離まで迫っていた。

 慧夢との距離も二メートル前後と、殆ど縮まってはいない。


 最も先行しているのは、慧夢から遠い側にいる、緑のジャージ姿の少年。

 慧夢に近い側にいる、赤いジャージの少女が、それに続いている。


 どちらも慧夢には見覚えがある、川神学園高等部のジャージだ。

 ジャージの色を見れば、今現在の学年は分かる為、緑は二年……赤は三年と、見知らぬ顔だが二人は上級生なのだろうなと、慧夢は思う。


 同じネックレスを目指して進んでいる為、二人のモブキャラクターと慧夢……この三人の間の距離は、近付きつつある。

 特に、モブキャラクターの二人の間は、一メートルも開いておらず、ほぼ横並びでネックレスを目指している。


 赤いジャージの少女と慧夢との間も、三メートル弱程度に縮まっていた。


(モブキャラクター同士は並んでるし、手前の奴までの距離は、俺から三メートル弱……だったら!)


 慧夢は屋根瓦を全力で蹴ると、モブキャラクター達に向ってジャンプ。

 ボールを持って走る敵選手に、タックルをかますラグビー選手の様に、慧夢は赤いジャージの少女にタックルをかます。


「きゃっ!」


 少女は驚きの声を上げながら、左斜め前にいる緑のジャージの少年の方に倒れ込み、巻き添えにして転倒する。

 慧夢はモブキャラクターにタックルして、将棋倒し状態にしようと目論み、成功したのだ。


 とりあえず先行する二人のモブキャラクターの動きを、慧夢は何とか止めたのだが、転倒させただけでは、すぐに起き上がられてしまう。

 慧夢自身も、倒れた状態から起き上がらなければならないので、二人のモブキャラクターより先に、ネックレスを目指せるという状況ではない。


 しかも、相手は二人いるので、一人が慧夢の妨害に専念する可能性もある。

 自分が不利な状況に変わりは無いというのが、慧夢の現状認識だ。


(くそっ! 両腕があれば、このまま締め落とせるんだが、片腕じゃ無理だ!)


 倒した二人のモブキャラクターを、このままネックレスに向えないようにしなければ、体当たりで倒したのも、結局は一時しのぎの時間稼ぎで終わってしまう。

 片手だけで、相手をどうにかする方法として、慧夢が真っ先に思い付いたのは、斧による攻撃。


 慧夢はズボンの後ろポケットに、左手を突っ込む。

 だが、そこに頼りにしていた斧は無い。


(そうだ、斧は投げちまったんだ!)


 口惜しげに舌打ちをする慧夢の左手に、斧では無い何かが触れる。


(何だこれ?)


 役に立つ何かなのかも知れないと思い、慧夢は手に触れた物をポケットから取り出して確認してみる。

 取り出した物は、青いライター……百円ライターだった。


(ライター? そうだ、ガソリンに着火する為に、ポケットに入れておいたんだ!)


 着火用のマッチとライターを、慧夢は制服のポケットの中に、それぞれ二つずつ忍ばせていたのを思い出した。

 気化したガソリンには、遠くからマッチを投げて火を点ける方法を採ったので、ライターの方は使われずに、左右の後ろポケットに入ったままだったのだ。


 そして、安っぽい青いライターと共に、起き上がろうともがき出した、少女が着ている赤いジャージが、慧夢の視界に映っていた。


(ライターと……ジャージ……)


 視界の中に、ライターとジャージを捉えた慧夢の頭は、自動的にライターとジャージの両方に関わる記憶を探し出す。

何時見たのかは忘れたが、とあるテレビ番組で目にした、実験の映像に関する記憶だ。


 着衣着火の事故が、どこかの学校で起こったのを伝えるニュース番組が、色々な服にライターで着火し、服の燃え易さを比較する実験を行い、放送していたのである。

 その色々な服の中に、学校の生徒が良く着ているタイプの、ありがちなジャージも含まれていた。


 袖にライターで点けられた火が、あれよあれよという間に肩まで燃え広がり、ジャージを燃え溶かしてしまう映像は、ジャージを学校で着る機会が多い慧夢の記憶に、焼き付けられていたのだ。

 同時に流れた、「ポリエステルと綿の混紡こんぼうは燃え易い」という意味合いの、脅す様なナレーションと共に。


 ジャージを着替えたり洗濯したりする際、洗濯やクリーニング用のタグを目にしていたので、学校指定のジャージがポリエステルと綿の混紡であるのを、慧夢は知っていた。


 ライターを手にした状態で、そんな記憶が蘇った慧夢は、二人のモブキャラクターの行動を、妨害する策を思い付く。


(火……点けちまえば、熱くてネックレスを取りに行けなくなるんじゃね?)


 モブキャラクターのジャージに、ライターで火を点けるという、思い付いた策を実行に移す為、まずは緑のジャージの少年に、慧夢は左腕を伸ばす。

 ライターを着火し、オレンジ色の炎を発生させた状態で。


 三人は将棋倒しになっていて、慧夢はうつ伏せになり、赤いジャージの少女に、身体の半分以上が乗ってる状態。

 だが、赤いジャージの少女は、緑のジャージを着た少年の脚だけに、上半身を乗せる形で、押し倒した状態だった。


 緑のジャージを着た少年の方が、赤いジャージの少女よりも、身体に乗られた部分が少ない。

 しかも、乗っていたのも味方である、赤いジャージ姿の少女であった為、自ら積極的に退こうと動いて、緑のジャージの少年が動き易い様にしていた。


 結果、緑のジャージを着た少年の方が、慧夢に身体で押さえ付けられている赤いジャージの少女よりも、先に動き出せる状態だった。

 故に、慧夢は緑のジャージの少年を優先し、ライターでの攻撃対象としたのである。


 膝立ちになり始めた少年の、ジャージの尻の辺りに、ライターの火が届く。

 ポリエステルと綿が混ざった緑の布地は、あっけない程に簡単に引火、ジャージは尻の辺りから、オレンジ色に燃え上がり始める。




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