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202 ――いや、ぼーっとしてる場合じゃないだろ! 屋根に上ってネックレスを壊さないと!

 広い敷地に建つ古めかしい屋敷は、平屋であり二階は無い。

 バスケットボールの試合が余裕で出来そうな程の広さがある、鈍色の瓦が波打つ屋根の上に、ネックレスは落ちたのである。


 夢の鍵であるネックレスが、屋敷の屋根の上に載っかってしまうという、予想だにしなかった状況に、屋根に載せた本人である慧夢は、しばし呆然としてしまう。

 木刀でネックレスを打ち返した後、庭で転倒した状態で。


 ネックレスを打ち返された志月は、ネックレスが宙を舞って屋根に落ちたのを、「何が起こったの?」と言わんばかりの表情で、目で追い続けた。

 その後、呆気にとられた表情で、屋根の上を数秒間……眺め続けるだけだった。


 慧夢にとっても志月にとっても、ネックレスが屋根の上に載ったのは予想外。

 そのせいで、二人の思考は混乱し、一時的に思考が空白状態に陥ってしまったのだ。


(――いや、ぼーっとしてる場合じゃないだろ! 屋根に上ってネックレスを壊さないと!)


 混乱状態から復帰した慧夢は、木刀を杖の様に使って立ち上がる。


「屋根に上がって、ネックレスを守って!」


 慧夢が動いた気配を察した志月も、混乱状態から復帰。

 志月は即座に、モブキャラクター達に支持を出す。


「急いで! 夢占君より先に屋根に上らないと、壊されちゃうから!」


 陽志に集まっていたモブキャラクター達が、陽志を抑え込もうとするのを止めた。

 牧羊犬にコントロールされている羊の様に、モブキャラクター達は屋敷の方へと押し寄せる。


 ネックレスが載ったのは、屋根の真ん中辺り。

 慧夢からもモブキャラクター達からも、距離的には大きな差は無いし、動き始めたタイミングも同じ。


 モブキャラクター達は、高い塀を乗り越えた時と同じく、踏み台となる者達と上がる者達の二手に、分かれる策を採った。

 踏み台となる者達が、屋敷の壁や窓を背にして中腰となり、腹の前辺りで両手を組んで、足場を作り出す。


「時代劇かよ!」


 時代劇に出て来る忍者や盗賊が、高い塀を乗り越える場面を思い出させる、モブキャラクター達を横目で見て、慧夢は突っ込みを入れつつ、屋敷の壁に辿り着く。


「まぁ、こっちも似た様なもんだけど!」


 そう言いながら、先端を少しだけ地面に刺し、慧夢は木刀を屋敷の壁に立て掛ける。

 その上で、数歩後ずさりしてから、慧夢は壁に向かってダッシュ。


 右足で木刀のつかを踏んで足場として、慧夢は上に向って思いっ切り跳ぶ。

 先端が土に刺さっているせいもあり、木刀は殆ど揺るがずに、慧夢が屋根に向かって跳躍する為の、足場としての役目を果たす。


 忍者刀を立て掛けて足場とし、高い塀を乗り越えたり、壁を上ったりする忍術を、慧夢は使ったのだ。

 時代劇に出て来る忍者が、屋敷に忍び込んだりする時に使う事が多い忍術なので、慧夢は「こっちも似た様なもん」と言ったのである。


 そんな忍術を慧夢が使えるのは、創作護身術の為に、忍術を研究対象とした時期があったから。

 忍者刀を使って行う、壁や塀を上る忍術の練習を、手に入りそうな色々な棒状の物を使って行った経験が、慧夢にはあった。


 故に、体重を支えられるだけの強度がある、棒状の何かがあれば、普通の人では梯子や人の助けがなければ上がれない様な、高い塀や壁などに、慧夢は素早く上れてしまうのである。

 基本的には、逃げる為に覚えた術だったのだが、ネックレスを奪いに行く為に、今回は役立った格好だ。


 木刀を足場に跳んだ慧夢は、左手で屋根瓦を掴むのに成功する。

 両腕が健在なら、そのまま懸垂でもするかの様に、慧夢は屋根に上ってしまえるのだが、片腕ではさすがに無理。


(そうだ、俺……今片腕しかないんだった!)


 慧夢は焦りながら、今度は左足で壁を蹴り、身体を跳ね上げる。

 その勢いで右脚を振り上げ、慧夢は右脚を屋根瓦に引っ掛けるのに成功。


(よしッ! 何とか足を引っ掛けられた! 右腕無いと厳しいわ、早く戻れっつーの右腕!) 


 左腕と右脚をつかって、屋根の端にしがみつき、そのまま必死で慧夢は屋根の上に這い上がる。

 ほぼ同時に、左側で瓦を踏む足音を、慧夢の耳は捉える。


 起き上がりつつ、慧夢は左側に目をやる。

 左側七メートル程の辺りで、既に二人のモブキャラクターが、屋根の上に上がっているのを、慧夢は視認。


 二人のモブキャラクターは、既に屋根の中央を目指し、覚束無い足取りで、瓦屋根の上を歩き始めている。

 傾いている上、波打っている瓦屋根の上は、歩き難いのだ。


 中央辺りを頂点として、緩やかに傾斜している、バスケットボールのコート程の広さが余裕である瓦屋根。

 その丁度真ん中辺りの……モブキャラクター達が進む先に、陽光に煌く小さな物がある。


(あれか! やばい、出遅れた!)


 慧夢もネックレスを目指し、慌てて歩き始める。

 だが、瓦屋根の上は歩き難く、このままでは二人のモブキャラクター達に、慧夢は追い着けない。


 モブキャラクター達は二メートル前後、慧夢よりもネックレスに近く、このままでは先を越されてしまうのは、明らかと言える状態。


(このままだと、先にネックレスを取られちまう!)


 焦りの表情を浮かべつつ、慧夢は自問する。


(どうすりゃいいんだ?)




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