196 敵の数が多くても大丈夫、良く分からないタイプの強さだが……君はかなり強い! さっきも続け様に何人も、倒してたじゃないか!
モブキャラクター達と戦闘中だった慧夢は、新たなる多数のモブキャラクター達の侵入に気付けずにいた。
慧夢を助けるべく、武器を調達して慧夢の所に駆け付けた陽志は、志月の前に現れたモブキャラクター達には気付けたが、塀を乗り越えようとしていた者達には、気付けなかった。
志月が庭から逃げなかったのは、基本的には多数のモブキャラクター達が援軍として駆けつけているのに、気付いていたからではある。
だが、門の辺りにモブキャラクター達が詰まってしまっていたり、屋敷の周囲もモブキャラクターだらけで、逃げ難かった事も、庭から逃げなかった理由だった。
塀を乗り越え始めたモブキャラクター達がいるのは、慧夢の目に映った、志月のいる方向だけでは無い。
慧夢の右側と背後……つまり、屋敷の建物がある左側以外にある、全ての方向の塀を、モブキャラクター達が乗り越え始めていたのだ。
物音から、志月がいる方向以外の塀の上にも、モブキャラクター達がいるのを察した慧夢は、素早く時計回りに一周し、周囲の塀の様子を確認。
「教室にいるクラスメートより多い、五十人はいるな?」
門から入れた、志月の前にいる十人に加え、三方向の塀の上に、それぞれ十人程のモブキャラクター達が上っていて、既に塀を乗り越え、庭への侵入を果たしている者達も、合計で十人程いた。
合わせて五十人程ではないかと、慧夢は大雑把に推測。
しかも、塀の外の道には、まだ沢山のモブキャラクター達がいて、道を埋め尽くしている。
庭に侵入して来るモブキャラクターの数は、更に増える可能性が高い。
一度に相手にするには、多過ぎるモブキャラクターの出現に、慧夢は驚き焦る。
これだけの数のモブキャラクター達に妨害されるのでは、目的の達成など無理なのではないかと、慧夢は思わず怯んでしまいそうになる。
新たに侵入して来たモブキャラクターである、草野球のユニフォームに身を包んだ少年二人による、金属バットによる攻撃を受けた慧夢は、何とか高枝切りバサミで攻撃をしのぎ続ける。
これまで通りの動きなら、打ち倒せただろう二人の少年相手に、慧夢が押されてしまうのは、怯んだ心が動きを鈍らせてしまうが故。
自分に襲い掛かって来た、スーツ姿の男のモブキャラクターを、日本刀で斬って捨てながら、陽志は慧夢の動きが鈍ったのを察し、慧夢の表情を確認。
「敵の数が多くても大丈夫、良く分からないタイプの強さだが……君はかなり強い! さっきも続け様に何人も、倒してたじゃないか!」
慧夢の様子を横目で見て、怯みかけたのを察した陽志が、励ましの声をかける。
慧夢の強さを「良く分からないタイプ」と陽志が表現したのは、慧夢の動きが、フェンシングをまともにやっている感じではなく、様々な武術の動きが混ざり合っている感じに見えたからだ。
「俺もこいつがあれば、半分くらいは何とか出来るさ! 俺に襲い掛かって来るのは、傷付けないように気遣ってるのか、素手の奴が多いし!」
こいつ……と呼んだ日本刀を、正眼(中段)に構え、迫り来るモブキャラクターを牽制しながらの陽志の言葉を聞いて、慧夢は気付く。
自分一人で、全てを相手にしなくても済む事に。
(――半分なら、何とかなるか?)
相手にしなければならない敵の数が、いきなり半減し、慧夢は心が軽くなった思いがする。
心の重荷が軽くなった慧夢は、思考の柔軟さを取り戻し、多数のモブキャラクター達が現れはしたが、自分達に同時に攻撃を仕掛けて来ているのは、その内の少数だけなのに気付く。
(そうだ! 考えてみれば数が多くても、俺を一度に相手に出来るモブキャラクターの数は、これまでと大して変わりはしない!)
敵の数が多くても、自分に直接攻撃出来る……自分が一度に戦う相手の数は、周囲にいる数体だけであるのに、慧夢は気付いたのだ。
無論、数の上で圧倒的に不利な状況ではあるのだが、目的の達成が不可能という程では無いと、慧夢は認識を改める。
慧夢の中から怯みが消え失せ、代わりに気力が全身に漲って来る。
気力は身体を突き動かす燃料、燃料が満ちた慧夢の身体は、鈍る前の動きの良さを取り戻す。
右斜め前にいた、草野球のユニフォームの少年の振り回したバットが、空を切った直後の隙を見逃さず、慧夢は高枝切りバサミで続け様に突きを放ち、反撃に転じる。
慧夢は高枝切りバサミの先端で、草野球のユニフォームを着た少年の腹部から胸部、喉という順に突き刺す。
苦しげな呻き声を上げながら、血のシャワーを噴出し、右斜め前にいた少年が崩れ落ちるのを、慧夢は待ちはしない。
突然の反転攻勢に戸惑いの表情を浮かべる、左前にいた草野球のユニフォームの少年の足元を左脚で払って転倒させると、倒した相手にとどめを刺す槍兵の様に、高枝切りバサミを少年の喉下に突き立てる。
苦しげに身体を海老反らせる少年から、慧夢が高枝切りバサミを引き抜くと、喉元の穴から血を噴出し、少年は動かなくなる。
その間に、腹部から胸部……喉という順に、続け様に高枝切りバサミで刺された少年は、完全に崩れ落ちて地に伏せ、動かなくなっていた。
電光石火の動きで、慧夢は襲い掛かって来た二人の草野球のユニフォーム姿の少年を、倒してしまったのだ。
押されていた姿が、嘘の様に。
慧夢は倒した二人の屍を越えて、前進を開始する。
その目にも表情にも、怯んだ様子は微塵も無い。
「大丈夫そうだな……」
青いジャージ姿の青年を斬り捨てた後、復活した慧夢の様子を視認した陽志は、安堵した風に呟いてから、こちらも前進を開始。
二人は申し合わせた訳でも無いのに、互いの間合いを適度に保ちつつ、ほぼ横並びで前進する。
その方が、慧夢からすれば右側、陽志からすれば左側からの攻撃を、警戒しないで済む。
その上、自分の真後ろは警戒し難いが、斜め後ろ……慧夢からすれば陽志の背後、陽志からすれば慧夢の背後は、警戒し難いという程でもないので、相手が背後から攻撃を受けそうになった場合、気付いて警告を出し易くもある。
そういったメリットに、慧夢も陽志も気付いていたので、特に口に出しもせずに、横並びでの前進を始めたのだ。
互いをカバーし合いながら、慧夢と陽志は襲い来るモブキャラクター達を撃退し、辺りを鮮血で赤く染め上げながら、志月に向って突き進んで行く。