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194 痛いじゃねえか! エロ本の裏表紙の通販で売ってそうな、インチキ臭い特殊警棒のクセに!

 通路にいたモブキャラクター達が、庭に向かってダッシュし、慧夢と志月の間に割り込んでくる。

 数は四人、鉄梃かなてこを手にした、灰色の作業着姿の中年男に、通販で売っている感じの特殊警棒を手にした、川神学園中等部の制服姿の少年、包丁を手にした割烹着姿の中年女に、慧夢同様に高枝切りバサミを手にした、臙脂えんじのジャージを着た初老の男という組み合わせ。


 まずはリーチの長い、高枝切りバサミを手にした初老の男が、先鋒となる。

 慧夢に向けて高枝切りバサミを伸ばすと、紐を引いて鋏の部分を開閉しつつ、慧夢の身体を切ろうとする。


 ジャキン……という金属の刃が合わさる音が、慧夢の耳元で響く。

 高枝切りバサミの鋏が、慧夢の右耳の近くで刃を鳴らしたのだ。


 咄嗟に左に避けなければ、慧夢は顔を突かれるか、右耳を切り落とされていたところだ。

 慧夢は鋏を避けつつ、高枝切りバサミで初老の男を突こうとするが、届かない。


 日本刀で鋏の部分だけでなく、先端部分を切り落とされてしまった、慧夢の手にある高枝切りバサミは、当初の三分の二程の長さしかない。

 完全な長さがある初老の男の高枝切りバサミより、リーチが短いのだ。


(リーチじゃ負けてるか! だったら……)


 慧夢はフェンシングのネット動画で目にした動きを真似て、高枝切りバサミを手元に引きつつ、角度を上向きにする。

 突くのではなく、防御用の動きだ。


 初老の男は、慧夢の動きの変化には構わず、高枝切りバサミで突いて来る。


「パラードっ(相手の剣を払う)!」


 鋭い声を発しながら、迫り来る高枝切りバサミのを、剣の様に立てた高枝切りバサミで、左に払う。

 パラードは、相手の剣を払う動きで、慧夢はネット動画で見た動きを、そのまま真似したのだ。


 その上で、慧夢は即座に右手を前方に突き出し、高枝切りバサミの先端を初老の男に向ける。

 腕を前に向ける、アロンジェブラの姿勢である。


「――からの……ファンデヴー(前に出て攻撃)!」


 既に何度も繰り返し、覚えてしまったファンデヴーで、慧夢は初老の男を攻撃。

 高枝切りバサミを払われたせいで、姿勢が揺らいだ初老の男の喉を、慧夢の高枝切りバサミの先端が貫く。


 悲鳴を上げられもせず、喉から血を噴出しつつ、崩れ落ちようとしている初老の男から、慧夢は急いで高枝切りバサミを引き抜く。

 制服姿の少年が右側、割烹着姿の中年女が左側に、それぞれ回り込んで、自分を挟み撃ちにしようとしているのに、慧夢は気付いたからである。


(警棒よりは、包丁がやばい!)


 慧夢は特殊警棒を手にした少年への対処は捨てて、包丁を振り下ろして来る、割烹着姿の中年女への対処に集中。

 鉄棒を握る様に高枝切りバサミを両手で持つと、その中央で包丁の刃を受け止める。


 刃とアルミの棒が打ち合う、甲高い金属音を耳にしながら、慧夢は右脚を振り上げて、割烹着姿の中年女の腹を蹴り跳ばす。

 不安定な姿勢の蹴りなので、倒せはしなかったが、慧夢は割烹着姿の中年女を、よろめかせて後退させるのには成功。


 直後、慧夢は右肩に、衝撃と激痛を覚える。

 制服姿の少年が、頭を狙って放った特殊警棒の打撃を、慧夢は右肩に食らったのだ。


 蹴りを放ったせいで、慧夢の頭の位置がずれた為、頭部への直撃は避けられた。


(痛いじゃねえか! エロ本の裏表紙の通販で売ってそうな、インチキ臭い特殊警棒のクセに!)


 かなりの激痛を右肩に覚え、慧夢は苦痛に顔を歪める。

 だが、警察官が使う本物の警棒ではなく、胡散臭い雑誌の通信販売で、中高生の少年が買う様な、出来の悪い特殊警棒なので、骨がやられる程のダメージを、慧夢は受けずに済んだ。


 それが分かっていたので、包丁を手にした割烹着姿の中年女への対処を、慧夢は優先したのである。


(警棒のガキは、まだ後ろにいる筈だ!)


 即座に慧夢は左回りに半回転し、制服姿の少年の姿を視認。

 二撃目を慧夢に加えるべく、特殊警棒を握った右手を振り上げている、制服姿の少年の姿が慧夢の視界に入る。


 打撃を食らった右肩は、まだ激痛により力が入り辛かったし、長い高枝切りバサミで攻撃するには、間合いが近過ぎる。

 慧夢は過去に創作護身術の参考にする為に、色々と覚えた様々な格闘技や武術の技の中から、この近い間合いで使えそうな技を思い出そうとする。


(両手は塞がっているし、蹴りの間合いには近いとなると……)


 使えそうな技を思い出した慧夢は、まずは高枝切りバサミで特殊警棒をガードする為、両手を掲げる。

 鐘の様な音が響き、衝撃が慧夢の両腕に伝わる。


 打撃を食らったばかりの右肩に、慧夢は強い痛みを感じる。


(――ここは頭突きだ!)


 特殊警棒を受け止めたまま、慧夢はお辞儀に似た動きで、制服姿の少年の顔面……鼻の下辺りを狙い、勢い良く自分の額の辺りで打ち付ける。

 いわゆる人中じんちゅうと呼ばれる、人体の急所を狙い、慧夢は頭突きを放ったのである。


 制服姿の少年は鼻を潰され、悲鳴を上げつつ激しく出血。

 左手で顔を抑えながら、よろめきながら後ずさりする。


(この間合いなら、蹴れる!)


 モブキャラクターにかける情けなど無いとばかりに、慧夢は右足で前蹴りを放ち、制服姿の少年の腹部を蹴り跳ばす。

 少年が後ずさりした為、間合いが少し開いたので、蹴るのに丁度良かったのだ。


 慧夢が蹴り飛ばした結果、慧夢と制服姿の少年との間合いは、更に開いた。

 高枝切りバサミで突くのに、程好い間合いに。


 右肩の痛みを堪えて、右手でしっかりと高枝切りバサミの柄をサーベルの様に握ると、慧夢は制服姿の少年に突きを放つ。

 慧夢は返り血を浴びながら、竹槍の如き先端部分で、身体中を滅多突きにする。


 あちこちから鮮血をシャワーの様に噴出し、制服姿の少年は仰向けに倒れる。

 霊体である慧夢に比べて、再生するまで時間がかかる、モブキャラクターである制服姿の少年は、これで暫くは何も出来ない。


(残りは二人! 何処だ?)


 慧夢は辺りを素早く見回し、灰色の作業着姿の中年男と、割烹着姿の中年女の姿を探す。

 別々の方向から襲い掛かって来る二人の姿が、慧夢の目に映る。


(ヤバい! 間に合わねぇ!)


 表情を引き攣らせつつ、慧夢は心の中で声を上げる。

 瞬時に判断すれば、何とか一人だけなら対処は出来るが、両方に対処するのは不可能。


 しかも、今回は包丁と特殊警棒ではなく、包丁と鉄梃という、どちらも一撃必殺の威力がある武器の攻撃。

 この場面では、間違っても食らいたくは無い攻撃である為、慧夢は焦る。



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