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193 今のに気付くなんて、勘は良いんだね。性格と口は悪いけど

 その場にいた三人の間で、志月が首にかけているネックレスが、夢の鍵だという認識が共有された。

 だが、認識は同じでも、夢の鍵を破壊したい慧夢や陽志と、守り通したい志月とでは、リアクションが異なる。


 真っ先に動き始めたのは、慧夢だった。

 十数メートル程離れた場所にいる志月に向かって、慧夢は猛然とダッシュする。


まずったな。つい興奮して……あのネックレスが夢の鍵だって、喋っちまった)


 慧夢は興奮の余り、夢の鍵がツッキーのネックレスだと口にしてしまったのを、激しく後悔する。

 ターゲットである夢の鍵がネックレスだと知れば、志月はネックレスを最優先で守ろうとする筈なので、慧夢は拙かったと後悔したのだ。


(ま、今更後悔しても遅いか。とにかく今は、あのネックレスを破壊する事に集中しないと!)


 そう決意しつつ、志月に急接近する慧夢は、おかしな事に気付く。


(何で逃げない?)


 逃げる様子を見せずに壁際に立ったまま、慧夢の方を余裕を持った表情で見ている志月の姿を目にして、慧夢は自問する。

 モブキャラクター達を鮮血で染めた、アルミの槍と化している高枝切りバサミを手にして、突撃して来る自分を前に、志月が逃げる様子を見せない事に、慧夢は疑念を抱いたのだ。


 疑念が慧夢の、突撃を止める。

 逃げる必要が無いと、志月が判断出来る何らかの理由、自分には気付けていない何らかの要素に、警戒すべきだと判断し、慧夢は足を止めると、庭に敷き詰められた砂利の上を滑りながら急停止。


 立ち止まった直後、慧夢の目の前を猛スピードで、左から右に何かが横切る。

 風を切る音と、おぼろげな残像を残すだけで、慧夢には何が横切ったのか、判別すら出来なかった。


 何かが飛来した方向、かなり左寄りの左斜め前に、慧夢は目をやる。

 すると、慧夢の目に、矢を放った直後と思われる姿勢をとっていた、弓道着姿の少女の姿が映る。


「――弓矢か! 危ねぇな、おい!」


 慧夢は眼前を高速で横切った物が、少女が放った弓矢だったのに気付く。

 もしも急停止しなければ、少女の放った弓矢に、自分が射抜かれていただろう事に気付き、慧夢は全身の肌が粟立つ思いをする。


 弓道着姿の少女がいるのは、屋敷の玄関や門と、庭を結んでいる通路。

 壁際にいて、慧夢の方を向いている志月は、目線を右に送るだけで、通路の全てを見渡せるので、弓道着姿の少女の存在にも気付ける。


 ほんの少し前に、弓道着姿の少女は、もう一人のモブキャラクターと共に、外から駆け付けていたのだが、志月は弓道着姿の少女だけを、通路の中で待機させていたのだ。

 味方のモブキャラクターが、慧夢と近距離で打ち合っていた上、射線上の付近に陽志がいた為、志月は少女に弓矢での攻撃をさせ難く、とりあえず伏兵状態にしておいたのである。


 慧夢が突撃して来た時点で、伏兵と化していた少女に、志月は小声で指示をだした。

 突撃して来た慧夢を、屋敷の陰に隠れたまま、横から射抜いて攻撃するようにと。


 単独で突撃して来た慧夢を、横から射抜くなら、射線上にいない陽志に当たる心配は無い。

 慧夢の位置からは、屋敷の陰にいる少女の姿は見えないので、少女は一方的に慧夢を射抜ける筈だった。


 実際、屋敷の端の辺りまで突撃してから急停止するまで、少女の姿は屋敷に隠されて見えず、慧夢は存在に気付けなかった。

 志月が逃げない不自然さに疑念を抱き、急停止しなければ、慧夢は弓矢で手痛いダメージを食らっていたのだ。


 霊体なので、すぐに元通りになるとはいえ、射抜かれたら激痛に苛まれるのは当然、再生されるまでに、志月に逃げられてしまう可能性が高い。

 夢の鍵がネックレスであり、志月が身に着けていると分かった以上、志月を見失う訳にはいかない状況なのだ……慧夢としては。


「今のに気付くなんて、勘は良いんだね。性格と口は悪いけど」


 伏兵の弓矢で慧夢を仕留め損なった志月は、忌々しげに呟く。

 だが、志月の表情には余裕があり、逃げようともしていない。


 志月に余裕がある理由に、慧夢は気付いていた。

 何故なら、弓矢を放った少女の後ろの方に、門から中に入って来ていた、数人の人影がいたのを視認していたからだ。


 弓道着姿の少女と違い、通りに控えていた訳ではない。

 弓矢が放たれた辺りのタイミングで、門から屋敷の敷地内に、数人のモブキャラクター達が突入して来ていたのである。


 慧夢が北側住宅街に突撃してから引き起こし続けた、一連の大破壊により、夢世界は混乱状態に陥っていた。

 志月も屋敷が爆発炎上した事にショックを受け、モブキャラクター達への指揮を放棄し、慧夢と陽志が会話を交わしていた所まで来てしまっていた(屋敷はすぐに優先的に再生されたが)。


 その為、会話の場となった吉村家の庭以外にいたモブキャラクター達は、何をしていいのか分からず、ただ辺りを徘徊するだけの状態となっていた。

 だが、徘徊中のモブキャラクターが二人、吉村家の敷地内に侵入し、庭にいる志月を発見。


 志月は二人の内、弓道着姿の少女だけを、通路に控えさせて伏兵とした。

 だが、もう一人には他のモブキャラクター達を呼び寄せるように、小声で指示を出していたのだ(ちなみに、陽志が慧夢に、志月の宝の候補を挙げ続けていた頃の話)。


 もう一人のモブキャラクターは、吉村家の敷地内を出ると、辺りを駆け回って、仲間のモブキャラクター達を掻き集め始めた。

 慧夢が引き起こした大破壊からの再生は、夢世界にとっても負荷が重かったらしく、まだ再生を終えていなかったり、動作不良状態になっていたモブキャラクターも多かった為、多数のモブキャラクター達を集めるのには、少しだけ手間取った。


 そして、仲間を集めに行ったモブキャラクターは、夢の鍵の正体が判明し、慧夢が志月に向かって突撃を開始したタイミングで、百人以上のモブキャラクター達を引き連れて、吉村家に戻って来たのだ。

 その一部が門から突入し、弓道着姿の少女の後ろにいたのである。


 狭い門から入れるのは、数人だけ。

 残りの百人程のモブキャラクター達は、屋敷の塀を取り囲み、壁を乗り越えて突入する準備を進めていた。


 弓道着姿の少女の後ろに、他のモブキャラクター達を集めに行ったモブキャラクターの姿を、志月は視認。

 援軍であるモブキャラクター達が、既に近くにいる事を知っていたので、志月には余裕があり、逃げる必要が無かったのだ。



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