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190 ヒーロー願望くらいあるんだよ、男の子なら誰だって!

「――ひょっとして、君……志月に惚れてるとか?」


 心に浮かんだ疑問を解消する為、躊躇い勝ちに、陽志は慧夢に問いかける。


「はぁ? んな訳ないだろ! あんな性格キツいブラコン女に、惚れる訳無いじゃん!」


 顔を歪め、明らかに嫌そうなトーンを帯びた口調で、慧夢は言葉を返す。


「いくら見てくれが良かろうが、ブラコン女が可愛く見えるのは、二次元の世界だけだっつーの! 好きか嫌いかで言えば、嫌いなタイプだ!」 


 慧夢の言葉が耳に届き、志月は複雑な表情を浮かべる。

 慧夢の発言は全体的には悪口なのだが、「見てくれが良かろうが」という外見を褒められた部分に、自尊心をくすぐられたせいだ。


「だったら、何故……君は自分の命をかけてまで、志月の命を救おうとしているんだ?」


 陽志は慧夢が志月の命を救おうとしているのに、とうの昔に気付いていたので、ただ救おうとするだけなら、今更疑問など浮かびはしない。

 だが、自分の命を失うリスクがあるとなれば、話は別。


 親しい訳でもない、好きでもない志月の命を、慧夢が自分の命をかけてまで救おうとしているのが、陽志には不思議だったのである。


「――優れた力を与えられた者は、その力を世の為に使わなければならない、例え命の危険がある場合であっても」


 訊ねる陽志に、慧夢は少しだけ気恥ずかしそうに答える。

 志津子から聞いて、そのまま心に刻まれたかの様に、記憶してしまっているフレーズだ。


 慧夢が口にしたフレーズを聞いて、はっとした表情を、陽志は浮かべる。

 同じ意味合いの話を、陽志は両親から何度も聞いていたのだ、危険地域での医療ボランティアを続ける理由として。


「他の人にない力を持っている俺にしか、救えない命があるのなら、それが誰であれ力を使って救う。ただ、それだけの話だ」


 そんな発言をする慧夢の姿が意外で、志月は驚いたのだろう。

 目を見開き口を半開きにした、呆然とした表情を浮かべるが、締りの無い自分の表情に気付き、すぐに志月は顔を引き締める。


「らしくない事言わないでよ! 命懸けで人助けとか、ヒーローみたいな真似するのが、似合うキャラじゃ無い癖に!」


 棘のある煽り口調の言葉を、志月に投げかけられ、慧夢は気恥ずかしさを覚える。

 普段の自分の言動やキャラから考えると、志月の言う通り「らしくない」真似を、キャラに似合ってない言動をしている自覚が、慧夢自身にもあったからだ。


「お前が思う俺のキャラに、似合う様な事ばかり、やってる訳がねぇだろ! お前が知ってる俺のキャラなんてのは、俺という人間の、ほんの一部でしかないんだからな!」


 ふと、風呂場で楽しげに女性アイドルグループの歌を歌っていた志月の姿が、慧夢の頭に浮かぶ。

 慧夢からすれば、志月のキャラに合わない姿を。


「俺が知ってるお前のキャラが、お前にとって……ほんの一部でしかないのと同じだ! 人間なんて誰だって、他人が思ってるキャラとは違うとこだらけさ!」


「――人に意外な面があるのは、確かなのかも知れないけど……」


 嘲り笑いを浮かべつつ、志月は肩を竦めて呆れてみせる。


「皮肉と毒舌で出来ていそうな人間の癖に、本当はヒーローに憧れてたりするのは、幾ら何でも痛いし、格好悪いんじゃない?」


「痛い? 格好悪い? それがどうした? 当たり前の事だ!」


 開き直ったかの様な、威勢の良い口調で言い返しつつ、慧夢は高枝切りバサミを手に身構える。


「ヒーロー願望くらいあるんだよ、男の子なら誰だって!」


「他人のプライベートな夢の中に入り込んで、好き勝手やってる夢占君に似合うのは、ヒーローよりも悪役じゃないかな? 悪役は倒されるものだよ、夢占君!」


 やや苛々した感じの表情を浮かべつつ、志月は慧夢を指差しながら、モブキャラクター達に命令を下す。


「さっさと夢占君を倒して、兄さんから離して! 兄さんが余計な事を教えちゃう前に!」


 慧夢の話に興味を惹かれていた志月の影響か、爺の攻撃の後は少しの間、攻撃を控えていたモブキャラクター達が、一斉に慧夢に攻撃を仕掛け始める。

 まずは再び、日本刀を手にした爺が、今度は慧夢に向かって右足で踏み込みながら、袈裟懸けに斬りかかる。


「ボンナリエルッ(跳んで後退)!」


 後ろに跳び退いて白刃をかわすと、慧夢は右手に持った高枝切りバサミを前に向け、アロンジェブラ(腕を前に向けろ)の構えを取ると、鋭い声を上げる。


「ファンデヴー(前に出て攻撃)!」


 慧夢は右足を踏み込んで、振り下ろした日本刀を引き戻している最中の、爺の胸の辺りを狙い、高枝切りバサミで突く。

 高枝切りバサミはリーチが長いので、後ろに跳び退いた後でも、ボンナバン(跳んで前進)を挟まずとも、余裕で爺の身体を捉える事が出来た。


 爺は咄嗟に日本刀で、高枝切りバサミの突きを払おうとしたが、間に合わない。

 先端が斬り落とされ、アルミ製の竹槍風の武器となった、高枝切りバサミに胸を突かれ、苦しげに呻きながらよろめく。


「ファンデヴー! ファンデヴー! ファンデヴー! ファンデヴーッ!」


 慧夢は右足で踏み込みつつ、続け様に爺を滅多突きにする。

 付け焼刃のフェンシング技ではあるのだが、慧夢の高枝切りバサミによる攻撃は、見事に爺にヒットし続ける。


 胸だけで無く、腹や太腿などを突かれた爺は、刺し傷からシャワーの様に鮮血を噴出し、仰向けに倒れる。

 まだ身体が苦しげに動いてはいるが、爺は身体が再生されるまで、戦闘が不可能な状態となったのは明らかだ。



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