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188 だったら、訊くなよ。自分の中で答が出てるなら、俺が何答えようが無駄じゃねぇか!

「チルドニュクスを飲んだ人間は、夢から目覚める為の機能が封印されて、目を覚ませなくり、眠ったまま十五日が過ぎると死ぬんだが、この封印こそが夢の鍵なんだ!」


 夢の鍵について、慧夢は手短に説明を続ける。


「夢の鍵は夢の世界の中で、何かに姿を変えて存在していて、破壊する事が出来る」


「つまり、その夢の鍵というのを壊せば、志月は目覚めて……助かるんだな?」


 陽志の問いに、慧夢は頷く。


「それで、夢の鍵はどこにあるんだ?」


「知らねぇよ! 何が夢の鍵で、どこにあるのか……知りたいのは俺の方だって!」


 語気を強めて、慧夢は続ける。


「夢の鍵の可能性がある物は、片っ端から破壊して回ったんだが、全部外れだった! ひょっとしたら、籠宮の家自体が夢の鍵なのかも知れないと思って、家ごと破壊してみたんだが、これも違った!」


 慧夢の「夢の鍵の可能性がある物は、片っ端から破壊して回った」という話を聞いて、陽志の頭に木刀を破壊していた慧夢の姿が甦る。


「君は志月の部屋で、木刀を斧で切断しようとしていたが、ひょっとしたら……あれは、木刀が夢の鍵の可能性があったからなのか?」


 陽志の問いに、慧夢は頷く。


「木刀だけじゃない、あんたを斧で襲ったのも、同じ理由だ。籠宮の夢世界に入る前の予測じゃ、あんたが夢の鍵の最有力候補だったからな」


「俺が? 何で?」


 驚きで声を上擦らせ、陽志は慧夢に問いかける。


「夢の主……夢を見ている者にとって、物であれ人であれ、宝物と言える程に大事な存在に化けているんだ。だから、後追い自殺する程に籠宮が大事に思っていた、あんたこそが夢の鍵なんだろうと思って、真っ先に壊したのさ。外れだったけどな」


「――俺は大して、大事な存在じゃなかったのか?」


 やや複雑そうな顔をする陽志の言葉を、慧夢は首を振って否定する。


「たぶん、本物のあんたが夢世界の中に紛れ込んで来たから、夢の鍵があんたに化けられなくて、他の物に化けたんだろう」


 慧夢の話を聞いて、ほっとした様な表情を陽志は浮かべる。


「とにかく、あんたの妹にとって宝といえる程に大事な物を、教えてくれ! 兄貴のあんたなら、俺が知らない籠宮の大事な物……夢の鍵かもしれない物を知っている筈だ!」


「それを破壊すれば、志月は夢から覚めて、死なずに済むんだな?」


 陽志の問いに、慧夢が頷こうとする直前、聞き覚えのある別の声が、慧夢に問いかける。


「それを破壊させなければ、私は夢から覚めないで、死ねるんだね?」 


 慧夢だけでなく、陽志も驚きの表情を浮かべ、声の主がいる方向を向く。

 二人の目に映ったのは、何時の間にか庭に入って来ていた志月の姿。


 再生が進みつつある、籠宮家の隣家の壁の近くで、志月は笑みを浮かべていた。

 偶然にも重要な情報を耳にした喜びが、笑顔となり表れているのだ。


 屋敷が元通りになり、冷静さを取り戻した志月は、陽志が姿を消しているのに気付いた。

 そして、はっきりと内容を聞き取れはしなかったが、慧夢と陽志の会話らしき声を耳にした志月は、隣家の庭を訪れて、夢の鍵に関する話を聞いたのである。


 夢世界で破壊された物の再生力には、上限の様な制限があり、一度に大量の物が破壊された場合、破壊された物が一度に再生されたりはしない。

 夢世界の主にとって重要な物から、徐々に再生されていく。


 籠宮家の屋敷だけでなく、周囲の屋敷の塀や壁なども、爆発により破壊されたが、まず真っ先に再生されたのは、籠宮家の屋敷(無論、中にいる家族も)。

 続いて、隣家の塀や壁が再生を開始、志月が庭に入った直後、隣家の庭の塀は再生が始まった。


 庭で再生が始まったのは、塀だけではない。

 庭の中に配備されていたが、爆発に巻き込まれて吹っ飛ばされ、籠宮家とは反対側の方にある壁に叩き付けられ、死亡状態となっていた五人のモブキャラクター達も、再生を開始したのである。


 再生中のモブキャラクター達から発生した、宙を舞うカラフルな粒子群が、慧夢の近くまで飛んで来た。

 そのお陰で、慧夢は背後を振り返り、モブキャラクター達が動き出す前に、再生に気付けた。


(この庭にもモブキャラクター連中がいたのか! あっぶねー……気付いてなかった!)


 慧夢は近くにいたモブキャラクター達に、気付いていなかったのに焦り、動き出す前に気付けたのには安堵する。

 更に、モブキャラクター達は、バットやゴルフクラブなどの、リーチの長い武器を手にしている事にも、慧夢は気付く。


(リーチが長い武器……斧じゃ不利か? 何か長い武器は?)


 周囲に目線を泳がせ、慧夢はリーチの長い武器として利用出来そうな物を探す。


「人が訊いてるのに無視とか、ホント失礼だよね……夢占君は」


 答を返さない慧夢を睨みながら、志月は不愉快そうに言葉を続ける。


「まぁ、答えなくても……さっきの夢占君の話は、そうとしか受け取れないんだけど」


「だったら、訊くなよ。自分の中で答が出てるなら、俺が何答えようが無駄じゃねぇか!」


 志月に言葉を返しながら、長いリーチの武器に対抗出来そうな物を探していた慧夢の視界に、屋敷の縁側の下に落ちていた、銀色の棒が映る。

 金属製の光沢があり、一メートル半程の長さがある。




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