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185 出来れば、もう少しガソリンが気化してから、火を点けたかったんだが……

(出来れば、もう少しガソリンが気化してから、火を点けたかったんだが……)


 そうは思えど、目の前にいる者達だけでなく、これから他にも押し寄せて来るだろうモブキャラクター達と戦いながら、気化したガソリンに点火するのは難しいのが現実。

 その現実に対処すべく、慧夢は即座に点火しようと意を決する。


 マッチを箱から取り出しながらも、居間の様子を窺う慧夢の目に、あちこちが凹み、窓のガラスが割れ、至る所が血に染まっているハンヴィーの姿が映る。

 そんなハンヴィーの姿を目にして、慧夢は少しだけ感傷的な気分になる。


「良く頑張ってくれたな、ありがとよ!」


 満身創痍のハンヴィーに声をかけてから、慧夢はマッチを擦る。

 慧夢は火が点いたマッチを居間に放り投げつつ、迫り来るモブキャラクター達に叫ぶ。


「食らえッ!」


 橙色の光の軌跡を描きつつ、ダイニングキッチンから居間に飛んで行ったマッチの姿を、慧夢は確認したりはしない。

 これから起こる筈の爆発に巻き込まれない為に、ダイニングキッチンから廊下に通じる出入口に向かって、慧夢はダッシュする。


 だが、慧夢が廊下に入る前に、マッチが気化したガソリンに辿り着いて点火。

 慧夢が思ってたよりも、気化したガスは慧夢に近付いていたのだ。


(やば……)


 やばい……と心の中で呟き終わる前に、猛スピードで突っ込んで来た自動車に跳ね飛ばされたかの様な衝撃を、慧夢は身体全体で受ける。


 抗い難い力の奔流に、腕と脚の関節が稼動範囲を無視して捻じ曲げられ、体中の骨が折れ、砕ける感覚。

 一瞬で鼓膜が破れ、耳の器官ごと破壊されたので、全く音は聞こえないのだが、全身が凄まじい音を衝撃として感じ取ってしまう。


 痛みを覚えるよりも前に、ダイニングキッチンに全身が叩き付けられた慧夢の視界が、真っ赤に染まる。

 それが自分の血なのか、居間で爆破されたモブキャラクター達の血なのか、それとも衝撃波と共に押し寄せた火炎なのかは、慧夢には分からない……判別する前に、両目が潰れてしまったから。


 叩き付けられたダイニングキッチン自体が、爆発の衝撃波に耐え切れない。

 一瞬で稲妻状の亀裂が走ったかと思うと、完成したパズルを放り投げたかの様に、ダイニングキッチンごとバラバラに破砕される。


 押し寄せる衝撃波と火炎により、砕け散ったダイニングキッチンや居間の破片群と共に、慧夢の身体は吹き飛ばされる。

 火炎に肌を焼かれるが、熱さなど感じている余裕すら無く、無数の破片群と同様に、屋外に向かって飛ばされて行く。


 屋敷の壁だけでは無い、屋敷を囲む塀までも衝撃波は破壊し、その破片を押し寄せる火炎が焼く。

 更には隣家の塀と屋敷の壁までもを、爆発は半壊させてしまう。


 手脚の一部を失い、肌と着衣を焼かれた慧夢は、二十メートル程の距離を飛ばされてから、隣家の庭に落下する。

 慧夢と一緒に飛ばされた、屋敷や塀の破片などの瓦礫だらけとなった、広い和風庭園の中で、慧夢は仰向けに倒れたまま、ピクリとも動かなくなる。


 その時の慧夢は、既に意識を失った状態を超えて、爆発に巻き込まれて即死したと言える状態だった……現実世界であったなら。

 夢世界なので、実際には死にはしないのだが、死亡として扱われる状態となった慧夢の身体は、程なく高速で再生を始める。


 死亡扱いでなくとも再生は始まるが、死亡扱いになった場合の方が、再生が早まる場合が多い。

 身体がダメージを負っても、死亡に至らない場合は、再生が遅れる場合があるので。


 千切れ飛んだ手脚の一部や、飛び散った肉片と血が、慧夢の身体へと戻り始める。

 血は体内へと吸収され、肉片や手脚の一部は、元の箇所にくっ付いてしまい、何事も無かったかの様な状態に、身体の各所が回復していく。


 潰れた目や耳、焼け焦げた肌、爆発でボロ雑巾の如き状態となった着衣までもが、まるで映像の逆回転でも見ているかの様に、高速で再生し続ける。

 慧夢自身の強力な霊力により再生されるので、同時に破壊された物や、死亡レベルで身体を損傷したモブキャラクター達よりも、再生速度は速い。


 身体の再生に伴い、慧夢は意識を回復し、潰されていた目が再生したので、真っ暗だった視界も回復する。

 灰色の煙にくすむ青空と、爆風で傾いた庭木などが、慧夢の目に映る。


(――死んでたのか、俺は?)


 視界だけでなく、意識がブラックアウトしていたのを自覚した慧夢は、そう自問する。

 爆発直後……僅かな間は意識と記憶があったが、凄まじい爆発の衝撃と苦痛により意識を失い、自分がどうなったのか、慧夢は正確には分かっていなかったのだ。


 慧夢は四肢を動かし、状態を確認してみる。

 両腕と右脚は再生を終えていたが、かなり酷い吹き飛ばされ方をしたのだろう、まだ脛の骨に肉片が集まっている途中の状態の左脚を見て、慧夢は自分が死亡状態であったのを確信する(無論、本当に死んでいた訳では無いのだが)。


(――ガソリンの爆発力、舐め過ぎてたな。即死同然だったから、痛みを感じた時間が短くて済んだのは良かったが、籠宮の家だけでなく俺の身体まで吹っ飛ばされるとは、計算外だ)


 予想を大きく上回るガソリンの爆発に、自ら巻き込まれて死亡状態に追い込まれるのは、慧夢にとっても計算外だった。

 そして、「籠宮の家」という言葉を、心の中で呟いた慧夢は、籠宮家の屋敷がどうなったか気になり始める。




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