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181 ――さすがはハンヴィー、こんな乗用車一台くらいなら、何とも無いぜ……俺と違って

 記憶違いではない自信があるので、慧夢は即座に、自動車が移動している理由を察する。


「――封鎖に使ってた車、動かしやがったな?」


 志月がモブキャラクター達を操作し、自動車の封鎖位置を変えたのだろうと、慧夢は推測する。

 慧夢の推測は、当たっていた。


 慧夢が屋敷を囲む塀を突き破り、庭を通路として利用する策で、道路封鎖を突破したのを知った志月は、その策に対抗する為、回避されるだろう封鎖用の自動車を動かしたのだ。

 ハンヴィーの動きから進行方向を予測し、ハンヴィーが通りそうな辺りに、自動車を移動させたのである。


「一台だけなら、押し退けられるんだが……」


 衝突を避ける為、一時停止させたハンヴィーの中で、慧夢は前方の様子を窺う。

 十数人のモブキャラクター達のせいで見辛いのだが、慧夢は青い自動車だけでなく、その奥に二台の色違いの自動車が存在するのを、視認出来た。


「三台……流石に無理だな」


 忌々しげに呟く慧夢の視界に映るのは、動きを止めたハンヴィーに襲い掛かって来る、十数人のモブキャラクター達。

 手にした金属製の棒などで、窓や車体を殴りつけてくるので、その音は喧しく、衝撃が車体を揺らす。


 ボンネットに上ろうとするモブキャラクターや、バックミラー越しに荷台に上がろうとしているモブキャラクターの姿も、慧夢の目に映る。

 だが、貼り付けた画鋲が効果を発揮し、モブキャラクター達は簡単には上る事が出来ない。


 画鋲に一応の効果はあったが、しのげるのは一時停止している短い間だけだろうと、慧夢は考える。

 早く移動しなければ、ボンネットや荷台に乗られてしまうのは避け難い。


「――だったら、遠回りになるが……別のルートで行くだけの話だ!」


 念の為、他にも通路に使えそうな屋敷の庭の場所までも、慧夢は記憶していた。

 その記憶を頼りに、慧夢は瞬時に予定外のルートを頭の中で組み立てる。


「ここからバックすれば、左側にある蔵作りの屋敷が、確か庭を通れる筈!」


 前を塞がれた為、一時停止させていたハンヴィーのシフトレバーをバックに入れ、慧夢はハンヴィーをバックさせる。

 荷台に上がろうと挑み、手を画鋲に傷付けられ、出血していた作務衣姿の初老男性のモブキャラクターが、バックし始めたハンヴィーに轢かれ、悲鳴を上げながら踏み潰される。


 他にもハンヴィーに襲い掛かろうと、後方に集まって来ていたモブキャラクター達が、次々とハンヴィーに撥ねられ轢かれ潰されて、ハンヴィーの車体と路上を鮮血で赤く染め上げる。


 突入直後、モブキャラクターを轢いた時には感じた嫌な感じなど、慧夢は既に感じてはいない。

 何度も何度も轢き続けている内に、否が応でも慣れてしまうのだ。


 左側の様子を確認しながら、慧夢はハンヴィーをバックで走らせ続ける。

 血肉を路上にぶちまけつつ、十数秒間バックで走りを続けた後、慧夢の視界に特徴的な屋敷が飛び込んで来る。


 黒い板張りの塀の向こうに見えるのは、白い漆喰と黒塗りの板を組み合わせた、厚い壁が特徴的な、土蔵風の建築法で建てられた、蔵作りの屋敷。

 この蔵作りの屋敷の庭は、壁を壊せば通路として利用出来るのを、慧夢は記憶していた。


 慧夢はブレーキを踏んでシフトレバーを切り替え、アクセルを踏み込んで、バックで走行していたハンヴィーを前進させつつ、ハンドルを左に切る。

 雷に似た音を立てながら、黒い板張りの塀が圧し折られ、ハンヴィーに踏み潰される。


 手入れの行き届いた庭木、その間を道の様に巡る飛び石、ししおどしや燈籠などが醸し出す、幽玄な雰囲気の和風庭園が、慧夢の前に姿を現す。

 その和風庭園を躊躇いもせず、慧夢はハンヴィーのタイヤで踏み躙り、無残な荒地の如き状態に変えながら、通り抜けて行く。


 そして、再び壁を壊して路上に出た慧夢は、籠宮家の屋敷に近付く方向である右に、ハンドルを切る。

 今度は前方に、道を塞ぐ自動車の姿は無い。


 当然、そのまま慧夢はハンヴィーを前進させ始めるが、その直後……前方二十メートル程の辺りの十字路に滑り込んできた、白い乗用車の左側面が、慧夢の視界に飛び込んで来る。

 ハンヴィーが左折する予定の十字路が、いきなり塞がれた状態だ。


「こっちのルート変更に合わせて、道路塞ぐつもりか!」


 慧夢が上げた声の通り、志月はハンヴィーが変えたルートに合わせて、自動車を移動させて、進路を塞ごうとしていた。

 だが、志月が下した命令が、自動車を運転するモブキャラクターに伝わるには、ある程度の時間がかかってしまう。


 その上、並の乗用車でハンヴィーを抑えるには、数台が必要となるので、一台を動かしている慧夢に比べて、当然の様に余計に時間がかかる。結果、慧夢のハンヴィーの動きへの志月側の対処は、遅れ勝ちにならざるを得ない。


 故に、今回ハンヴィーの道を塞ぐ為に、前方に回りこめた自動車は、白い乗用車一台だけ。

 複数の自動車を回り込ませる余裕が、志月側にはなかった。


 モブキャラクター達も路上に何人もいる為、見辛くはあるのだが、前方を塞ぐのが一台の自動車だけなのに、すぐに慧夢は気付いてしまう。


「一台だけなら、どうって事ぁねぇ!」


 慧夢は迷わずにアクセルを踏み込み、十字路に向かってハンヴィーで突撃。

 白い乗用車の左の横腹に、ハンヴィーは強烈な体当たりをかます。


 激しい金属音と衝突音が響き、ハンヴィーの車体も激しく揺れる。

 慧夢の頭も鞭打ち症になりかねない程に、激しく前後に振られ、首に激痛が走る。


 体当たりを食らった白い乗用車は、ドア部分が凹んだ上に外れるなど、左側面がグシャグシャになりつつ半壊。

 車体の前の部分は、十字路の向こう側の壁を崩しながらめり込み、真ん中と後部は十字路の先の路上に、押し出された状態となる。


 ハンヴィーもヘッドライトが割れ、フロント部分が凹みはしたが、走行に支障が出る様なダメージは負ってはいない。

 十字路から自動車も退けられたので、左折も可能だ。


「――さすがはハンヴィー、こんな乗用車一台くらいなら、何とも無いぜ……俺と違って」


 衝突の際、結構な痛みを覚えた首を動かし、慧夢は後を引く様なダメージが無いのを確認。

 その上で、慧夢はハンドルを左に切り、ハンヴィーを左折させる。



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