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180 ゾンビだったら、朝陽が上れば隠れてくれるってのに、ゾンビゲーより難易度高いじゃねーか!

 アクセルを踏み込んだままなので、パワーは十分に足りている。

 強力なパワーを持つエンジンが唸りを上げ、飛び散った塀の瓦礫や庭石のせいで、並のオフロードどこではない、凸凹でこぼこに荒れた状態となった庭を、ハンヴィーは平然と突き進み始める。


 庭木を圧し折り踏み潰し、池の水を跳ね飛ばし、庭を破壊し尽くしながら通り抜けたハンヴィーは、再び白い塀に体当たり。

 派手な破砕音を発生させつつ、塀を粉々に砕き、そのままハンヴィーは隣の屋敷の庭へと突入。


 庭木を圧し折り、燈籠を倒して踏み越え、二軒目の庭を通り抜けたハンヴィーは、塀に激突して破壊、今度は道路へと出る。

 道にいた数人のモブキャラクターの絶叫が、早朝の空に響き渡る。


 道路に出た際、ハンヴィーが道路にいたモブキャラクターを、轢いたのだ。

 ボンネットや前方の塀を、モブキャラクターの身体から噴出した鮮血が赤く染める。


 モブキャラクターの絶叫や血飛沫に、多少は嫌な気分を味わいながらも、慧夢は記憶の中にあるルートを思い出し、冷静にハンドルを右に切る。

 直進して塀を破壊しても、その向こう側には通路に出来る程の庭が無いので、この場は右折し、普通に道を走らなければならない。


 無論、普通と言っても、多数のモブキャラクターが埋め尽くしている道路。

 その多くはゴルフクラブやバット、鉄パイプなどの武器を手にしていて、慧夢の乗るハンヴィーを目にした途端、ゾンビ物のゲームに出て来るゾンビの様に、わらわらと襲い掛かって来る。


「ゾンビだったら、朝陽が上れば隠れてくれるってのに、ゾンビゲーより難易度高いじゃねーか!」


 文句を言いながら、慧夢は構わずにアクセルを踏み込み、ハンヴィーでモブキャラクター達を轢きまくる。

 轢く度に軽い衝撃がハンヴィーの車体を揺らし、響き渡る絶叫が空気を震わせ、飛び散る鮮血と肉片に、ハンヴィーは汚されていく。


 轢かれずにハンヴィーを避けたモブキャラクター達は、手にした棒状の武器で、ハンヴィーを乱打する。

 中にいる慧夢を攻撃する為に窓を狙うが、スチール製の蓋の防御能力は強力であり、棒状の武器による打撃は窓には届かず、下手な奏者が奏でる鉄琴の演奏の様な音を、空しく響かせるだけだ。


 車内に響く喧しい金属音に、頭が痛くなる思いをしながら、慧夢は愚痴る。


「丈夫だけど、音が喧しいのは計算外だったな……」


 これまでの自動車と違い、ハンヴィーの窓が簡単には破れないのを理解したのか、モブキャラクター達は動きを変えた。

 ハンヴィーの進行方向にいるモブキャラクター達が、数十人という規模で一団となり、アメリカンフットボール選手の様にスクラムを組み、人の壁となって道を塞ぎ始めたのだ。


 これまでのアタックでも、他の自動車で慧夢が苦戦した策である。

 これを何度か繰り返されると、モブキャラクターに力負けせずとも、道がモブキャラクター達の死体で埋まり、タイヤは血肉で滑る上、死体の山を乗り越える踏破性が、普通の自動車には無い為、突進を止められてしまうのである。


「またこれかよ! でも、これまでと同じ手が、通用すると思うんじゃねぇ!」


 声を上げながら、慧夢はアクセルを踏み込んで、ハンヴィーを人の壁に突進させる。

 これまでよりも鈍く重い衝撃が、ハンヴィーの車体を通して慧夢に伝わる。


 数十人の人の壁に衝突した衝撃で、ハンヴィーは減速するが、止まりはしない。

 モブキャラクター達の身体を圧し折り、踏み潰し、圧倒的パワーで死体の山を乗り越えて行く。


 減速するし揺れは激しいが、モブキャラクター達の壁では、ハンヴィーを止められない。

 モブキャラクター達は数枚の壁を形作り、ハンヴィーを止めようとするが、その全てがハンヴィーに打ち破られ、路上に敷き詰められる死体の山と化すだけである。


 何度も大量のモブキャラクターを轢いた為、血飛沫がボンネットを赤く染めるだけでなく、フロントガラスに赤い水玉模様を描いてを汚し、前方の視認性が部分的に悪くなる。

 フロントガラスを守るスチール製の蓋のせいで、ワイパーは使えないのだが、それは慧夢も承知の上。


 過去の経験から、血で汚れた窓をワイパーで拭っても、血がフロントガラスに薄く延ばされ、より視認性が悪くなるのを、慧夢は知っていた。

 故に、血飛沫でフロントガラスが汚れた部分は諦め、まだ見える部分から前方を見るというのが、慧夢の対処法である。


 数枚の人の壁を破り、また前方に人の壁が見えて来た時、慧夢は声を上げる。


「――ここで、左だ!」


 左折可能な十字路に、ハンヴィーが辿り着いた訳ではない。

 左にあるのは武家屋敷風の古い屋敷と庭を囲む、時代劇に出て来そうな黒い板塀だ。


 慧夢の記憶では、この塀の向こうには、通り道に出来そうな庭が在る筈なので、慧夢はハンドルを左に切ったのである。

 庭木を圧し折る時の音を、乾いた感じにした風な音を響かせながら、板塀は押し倒され……ハンヴィーに踏み割られる。


 武家屋敷風の屋敷に似合う、枝葉を丸く刈られた、いわゆる玉ものの庭木に、白砂で池が表現された枯れ池などがある庭が、ハンヴィーの前に姿を現した。

 枯れた趣のある庭を踏み躙りながら、ハンヴィーは突き進み、板塀を割って道路に出る。


「ここは右!」


 記憶を頼りにハンドルを切ると、いきなり視界に入って来たのは、一台の青い自動車。

 三十メートル程先に、青い乗用車が止まっていたのだ。


「え? ここは封鎖されてない筈なのに?」


 慧夢の記憶では、この道は自動車に封鎖されていない筈だった。

 存在する筈が無い自動車の出現に、慧夢は驚き焦り、心臓が止まりそうになる。




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