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171 うはははははははははははは! 追いつける訳ねーだろ! ざまーみやがれッ!

 慧夢はハンドルを切り、ハンヴィーを表玄関や正門がある方向に向ける。

 フロントガラス越しに、表玄関の方から迫り来る、バールや杖……医療用ドリルなどの、様々な武器を手にした三十名程のモブキャラクター達が、慧夢には見える。


 男女の看護士だけでなく、白衣姿の医師、更には病衣を着た患者らしきモブキャラクターまでが、慧夢を狙ってハンヴィーに襲い掛かろうとしていたのだ。

 前方だけでなく、後方や側面にいる先行した看護士達は、手にした棒状の武器で、ハンヴィーの窓を中心に殴りかかっている。


 運転席に響いて来る、爆竹が弾ける様な打撃音は、ガラスを狙った打撃であり、後方や側面の窓ガラスに、次々と皹が入り始めている。

 ハンヴィーの強固な窓ガラスであっても、連続で打撃を受け続ければ、割れてしまうのは確実。


 ガラスが割れてしまえば、中にいる慧夢も無事では済まないかもしれない。

 夢世界なので身体は再生するが、慧夢自身が捕えられるなどして、ハンヴィーの奪取に失敗してしまえば、今後の計画が台無しになるので、黙って窓を割られるのを待つ訳にはいかない。


 慧夢はチェンジレバーをドライブに入れて、アクセルを軽く踏み込む。

 大きくて重量のあるハンヴィーの車体が、ゆっくりと前進を開始。


 迫り来るモブキャラクター達を避けようともせず、慧夢はハンヴィーを前進させる。

 軽い衝撃と共に、前方に立ち塞がろうとしていたモブキャラクター達が、ハンヴィーに轢かれる光景が、慧夢の目に映る。


 轢いたモブキャラクターを乗り越え踏み潰した感覚が、ハンヴィーの車体とシートを通して、慧夢に伝わって来る。

 モブキャラクターとはいえ、余り心地良い感覚では無い。


「本物じゃないから気にしない……と!」


 不快ではあるが、気にしていたら逃げられないとばかりの口調で、慧夢は自分に言い聞かせる。

 その間にも、まだハンヴィーの周囲にはゾンビの如く、モブキャラクター達が駆け寄り、ハンヴィーに襲い掛かる。


 病院の敷地内では、徐行するしかないので、ハンヴィーはモブキャラクター達を振り切れないのだ。

 モブキャラクター達が振り下ろす棒状の武器に、車体は打ち付けられまくり、ハンヴィーの車内は打撃音が響きまくっている。


 特に狙われまくっている、運転席がある左側の窓は、既に一部が欠け始めている。

 前に立ちはだかったモブキャラクターは轢いてしまえる為、現時点ではフロントガラスは、僅かに皹が入る程度の打撃しか受けずに済んでいるが、このまま攻撃を受け続けたら、フロントガラスもダメージを受け、運転し辛くなるだろう。


 ハンヴィーが破壊されたと、夢世界で判定される状態になる程のダメージを受けたなら、ハンヴィーは粒子化した上で再生される筈。

 だが、再生する迄の間、慧夢はハンヴィーから放り出され、モブキャラクター達に無防備な姿を晒す羽目になる。


 そうなれば、慧夢は捕えられてしまうに違いないので、この場で破壊されるレベルのダメージを、ハンヴィーに受ける訳にはいかないのだ。


「割れるんじゃねえぞガラス! 根性見せろよ!」


 耳障りな打撃音に煩わされながら、慧夢は自分が直接攻撃を受けるレベルで、ガラスが破損しない様にに祈りつつ、ハンヴィーを徐行させ続け、何とか正門前まで辿り着く。

 慧夢は即座にハンドルを右に切り、ハンヴィーを右折させて幹線道路に出る。


「――良し、ここまで来れば!」


 病院の敷地内を出てしまえば、徐行する必要は無い。

 慧夢はアクセルを踏み込み、ハンヴィーを加速させ始める。


 ハンヴィーに纏わり付き、棒状の武器で殴りかかって来ていたモブキャラクター達が、シャワーに洗い流される泡の様に、ハンヴィーの車体から引き剥がされていく。

 全力疾走しながらハンヴィーに追いすがろうとするモブキャラクター達だが、徐行を止め加速状態に入ったハンヴィーに、追いつける訳が無い。


「うはははははははははははは! 追いつける訳ねーだろ! ざまーみやがれッ!」


 サイドミラーは割られているし、フロント以外の窓ガラスは皹だらけである為、バックミラーも使えない。

 後ろの様子はミラーで確認は出来ないのだが、打撃音は止んだので、既に周囲にいたモブキャラクター達を振り切ったと確信し、慧夢は声を上げたのだ。


 だが、自分の考えが甘かった事を、慧夢はすぐに思い知る。

 突如、ハンヴィーの車体が、強烈な衝撃を受けたのである。


 金属棒で窓や車体を殴られた程度の衝撃ではない、もっと質量のある物が、ハンヴィーに後方からぶつかった感じの衝撃だと、慧夢は感じた。

 衝撃だけでなく、同時に鈍い金属音が響き渡り、五月蝿いディーゼルエンジンの音が響く中でも、慧夢の耳に届いた。


「――今のは、まさか!」


 夢世界での車の運転中、事故に遭うのが初めてではない慧夢は、その衝撃が何なのかを、即座に悟る。




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