168 胸と尻……どうせ触るなら、どちらを先に触るべきか?
(まずは、白衣から……)
白衣のポケットに、次々と右手を挿し込み、慧夢は中を探るが、キーらしき手触りの物は無い。
(だったら、ズボンの方か?)
縛られたままの両手による志津子の抵抗を、左手だけでいなしつつ、慧夢は右手を黒いパンツのポケットに移動させる。
まずは右前のポケットの中から、慧夢は探り始める(慧夢の言う「ズボン」と、地の文の「パンツ」は同じもの)。
「ん!」
志津子が頬を紅潮させつつ、恥ずかしげに呻き声を上げる。
パンツの前のポケットは、股間に近いので、布越しとはいえ股間の近くを触られた感じになり、強引な性的行為を受けたかの様に、志津子は反応をしたのだ。
その恥ずかしげな呻き声を耳にして、ようやく慧夢は自覚する。
モブキャラクターとはいえ、女性を押し倒して縛り上げ、身体の敏感な部分に手を這わせるという、現実世界でいえば確実に性犯罪になるだろう行為を、今……自分がしてしまっている事を。
(そういえば、俺の手……かなりやばいとこにある気が……)
布越しとはいえ、女性の敏感な部分に限りなく近い辺りの感触を、指先が覚えているのに気付き、慧夢の中で猛烈な羞恥心と罪悪感が、一気に膨れ上がり始める。
「いや、違うから! これは痴漢行為とか……そういうのじゃないから!」
モブキャラクターとはいえ、現実世界で見知っている志津子相手なせいもあり、慧夢は顔を赤らめながら、思わず弁解を口にしてしまう。
恥ずかしさを覚えつつも、キーを探さない訳にはいかないので、パンツの右前のポケットの中を、次に左前のポケットを、慧夢はまさぐるのだが、結局キーは見付からない。
「このポケットじゃないとしたら、ズボンの後ろポケットと……ブラウスの胸ポケットか」
まだ慧夢が探っていない、志津子の着衣のポケットは、それだけだった。
(――あれ? ズボンの後ろのポケットも、シャツの胸ポケットも、拙くね?)
志津子の白いブラウスの胸ポケットを見ながら、慧夢は戸惑う。
ブラウスの胸ポケットは、豊かな胸の膨らみの上に存在している。
(胸に触らずに中探るの、無理……だよな?)
白衣にも胸ポケットや内ポケットがあったのだが、白衣はめくって胸から離した上で、ポケットの中を探る事が出来た。
無論、ブラウスもボタンを外して、めくれない訳ではないのだが、そうすれば確実にブラジャーを露出させる状態になり、触れるのとは別の問題が発生する。
(胸ポケットは、とりあえず後にして、ズボンの後ろポケットの方は……)
続けて、慧夢は目線をパンツの後ろポケットの方に移そうとする。
だが、志津子は仰向けになっている為、パンツの後ろポケットは志津子の尻に敷かれた状態になっていて、慧夢には殆ど見えない。
ポケット自体は見えないのだが、尻に敷かれている状態を見れば、そのポケットの中を探る為に、志津子の尻を確実に触る羽目になるのが、慧夢には良く分かった。
(後ろポケットもかよ!)
ブラウスの胸ポケットも、パンツの後ろポケットも、胸や尻という触り辛い箇所に触れず、中を探るのが無理である事に、慧夢は気付いた。
だが、慧夢はキーを探す為に、志津子の着衣のポケットを、探らなければならないのだ。
(胸と尻……どうせ触るなら、どちらを先に触るべきか?)
そんな選択肢が頭の中に浮かんだ直後、慧夢は慌てて選択肢を修正する。
(いや、違うだろ! 胸ポケットとズボンの後ろポケット、どちらを先に探るべきかだろ! 触るのは仕方なくで、触るのが目的じゃないんだから!)
胸ポケットを先にするか、後ろポケットを先にするか、慧夢は殆ど迷わずに即断。
(胸ポケットが先だ! その方が、身体をひっくり返す回数が、確実に一回で済む)
先に後ろポケットを探ろうとすれば、まず一回ひっくり返してから、後ろポケットを探り、それが外れだった場合、もう一度ひっくり返して、胸ポケットを探らなければならない。
でも、先に胸ポケットを探れば、それが外れでも、後ろポケットの為に一回だけ、ひっくり返せばいいのだ。
(よし、まずは胸ポケットを……)
慧夢は志津子の左胸に、右手を差し伸べる。
豊かな胸を鷲掴みにしようとしている様にしか、見えない動きで。
モブキャラクターの志津子も、自分が胸を触られそうになっていると判断したらしく、痴漢に胸を触られそうになっている感じの反応を見せる。
慧夢の右手を避けるべく、志津子は縛られたままの両手を突き出し、慧夢の右手を払おうとする。
縛られているせいで、動きが不自由な状態では、両手であっても慧夢の片手に及ばない。
慧夢は左手だけで志津子の両手をさばいて、右手を胸ポケットに伸ばす。
そして、なるべく胸に触らない様に、胸ポケットの布地を摘み上げてから、指先を胸ポケットに差し込んで、慧夢は中を探ろうとする。
探り始めた直後、結局は慧夢の右手は、志津子の柔らかな膨らみに触れてしまう。
「んッ!」
その時、志津子が恥ずかしげな呻き声を上げつつ、身を捩る。
胸に触れられた志津子が、激しい抵抗を示したのだ。
(え?)
結果、慧夢はバランスを崩して、胸ポケットから右手が抜けてしまい、前のめりに倒れ込む羽目になる。
結果、覚えのある柔らかさを、慧夢は顔で感じる事になる。
(――むにょん?)
柔らかさを擬態語として表現した慧夢は、同じ擬態語を以前も心の中で表現していたのを思い出す。
志津子の夢の中で、志津子の胸に顔を埋めた時の記憶を。
目に映るのも、以前と同じ白い布地、温かく柔らかい胸の感触も同じ。
自分が志津子の胸に、再び顔を埋めてしまったのを、慧夢は即座に悟る。
現実世界で知り合っている女性を、押し倒してベルトで縛り上げ、その胸に顔を埋めている状況となると、本物ではなくモブキャラクター相手であるとはいえ、慧夢は罪悪感を覚えてしまわざるを得ない。
無論、相当な恥ずかしさも、慧夢は覚えてしまっている。