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167 これくらいの痛み、堪えろ! 傷なんて、どうせすぐに治るんだから!

(いた!)


 右斜め前に、慧夢は志津子を視認する。

 志月の夢世界における志津子は、右側の壁の前にある机に向い、椅子に座ってパソコンを操作していた。


 志津子が座る椅子を見ながら、慧夢は心の中で呟く。


(さっき軋んだのは、あの椅子か)


 慧夢は右後ろにいるので、完全に志津子の視界の範囲外。

 殆ど音も立てなかったせいもあり、志津子が慧夢に気付いた様子は無い。


(これは……チャンスだ!)


 隙だらけの志津子の様子を見た慧夢は、覗くのを止めて、音を立てぬ様に気をつけながら、リュックの中から細くて黒い革ベルトを取り出す。

 自分のベルトではなく、凍り付いた領域にいたモブキャラクターから、奪い取った物だ。


 志津子本人がキーを持ち歩いている場合、キーを奪うには抵抗を封じる為に、最低でも両手を拘束する必要がある。

 その為に、拘束具として丁度良さそうなベルトを、慧夢は凍り付いた領域で調達し、リュックに放り込んでおいたのである。


 革ベルトを手にしたまま、慧夢は音を立てぬ様に深呼吸をする。

 その上で、ドアを開き切って部屋の中に侵入すると、気配を消しつつ忍び足で、暗殺者にでもなったかの様な気分で、志津子の背後に迫る。


 慧夢はパソコンのモニターに映らぬ様に腰を落とし、息を止めて志津子の後ろに立つ。

 白衣に黒のパンツという、飾り気の無い格好は、現実の志津子と変わり無い雰囲気を醸し出している。


 志津子には、慧夢に気付いた様子は無い。


(まずは一気に後ろに引き倒し、馬乗りになって有利な体勢を取ってから、右肘で口元を抑えて、大声を出せないようにしつつ、ベルトで右腕を縛る)


 まずは志津子を拘束しなければ、キーを探して奪うのは難しい。

 志津子を拘束する為の動きを、慧夢は心の中でシミュレーションする。


(次に、左肘で口元を抑えつつ、今度は左腕を縛る。その後はリュックからタオル出して猿轡した上で、身体を探ってキーを探す……と)


 シミュレーションを終えた慧夢は、即座に思い描いた行動を、実行に移し始める。

 志津子の両肩に両手をかけると、椅子ごと一気に引き倒す。


「えっ?」


 間の抜けた驚きの声を上げながら、志津子が後ろにひっくり返る。

 椅子が邪魔して、受け身など取り様も無く、耳障りな椅子が倒れる音と悲鳴を響かせながら、志津子はフローリングの床に仰向けに倒れる。


 既に息を止めてはいない慧夢は、仰向けに倒れた志津子の腹部の上に跨ると、肘打ちを食らわす様に、右肘で志津子の口元を抑える。

 そして、右手と左手で素早く志津子の右手首を、ベルトで縛ってしまう……ここまではシミュレーション通り。


 すぐに慧夢は、志津子の口元を抑える肘を、右から左に入れ替える。

 だが、この段階となると、ショックから回復した志津子の抵抗も激しくなり、簡単に動きを抑え込めはしない。


 身体が慧夢より大きい志津子は、女性であっても、慧夢より非力とは言えないのだ。


(駄目だ、腕だけじゃ押さえ込めない!)


 慧夢は左腕で志津子の頭部を押えるのを諦め、身体を時計回りに九十度近く回転させ、志津子の頭や胸……右腕に、左脚を載せる形で押え付ける。

 右手で志津子の左腕を押さえ込み、自由になった左手で、志津子の右腕を縛ったベルトの端を掴むと、左手首に回そうとする。


(痛っ!)


 突如、激痛が慧夢の左脚に走る、志津子に左の脛を噛まれたのだ。

 慧夢を退けようとする志津子に、慧夢は手痛い……いや、脚痛い反撃を食らったのである。


(これくらいの痛み、堪えろ! 傷なんて、どうせすぐに治るんだから!)


 結構な痛みを覚えはしたが、慧夢は堪えて、志津子の左手首にベルトを回す事に成功。


(良しッ! 後はベルトを引っ張れば……)


 慧夢は全力で、ベルトの端を引っ張る。

 すると、ベルトに縛られている右手首に、ベルトが一回りしている左手首が、引き寄せられて行く。


 ベルトが引き絞られ、手錠の様に志津子の両手首を、拘束する状態になる。

 慧夢は即座にベルトを堅く結んで、その拘束が解けない状態にして、志津子の両手の拘束は成功する。


 続けて、慧夢はリュックから白いタオルを取り出すと、志津子の頭の上から右脚を退かし、大声を上げようとする志津子の口に、素早くタオルを噛ませる。

 そして、頭の後ろにタオルを回して縛り、猿轡にして志津子の口を完全に封じる。


(後は、脚だ!)


 慧夢は志津子の上で身体を下にずらし、太腿に跨る姿勢を取る。

 慧夢は志津子の太腿に跨る事により、脚の動きを体重で封じたのだ。


(これで……十分だろ)


 声を上げられないように猿轡をして、ベルトで両手を拘束し、両脚を押さえつけてしまえば、志津子の抵抗は封じたに等しい。

 慧夢は志津子を拘束する段階から、キーを探す段階へと移行する。


 空いた両手で志津子の着衣のポケットを、慧夢は調べるつもりなのだ。

 寝技で相手を攻め立てようとするプロレスラーの様に、慧夢は志津子の身体に右手を伸ばす。



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