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166 ダンボール箱でもあったら、隠れたまま進んで行けるかな? 流石に無理か

 慧夢はリハビリ運動用の器具を避け、無人の理学療法室の中を、出入口に向かって移動。

 緊張の面持ちでドアを少しだけ開けて、ドアの外の様子を覗き見て確認。


 白衣姿の病院スタッフ二人に、水色の病衣姿の入院患者が一人、慧夢の視界に映る。

 外から見た印象通り、病院内のモブキャラクターの数は少ない。


 裏口から覗いた際に目にした待合室は、割と多かったので、例外と言えるが。


(これなら、モブキャラクターが背中向けてる時を狙えば、何とか見付からずに移動できそうだ)


 目に映る女性看護士のモブキャラクターと、四十代程の細身の男性入院患者のモブキャラクターの両方が、自分に背を向ける状態となったのを見計らい、慧夢はドアを開いて理学療法室を出る。

 慧夢は左折すると、病院の裏口と思われる方を目指し、忍び足で移動を開始。


(確か階段は、こっちにもあったよな)


 霊体の状態で、籠宮総合病院の中を飛び回った時や、志津子の夢世界で志津子から逃げた時、志月の夢世界で大志と陽子を破壊しに来た時などに、慧夢は病院内に存在する階段の位置を、把握していた。

 志津子の夢世界で利用したり、大志と陽子を破壊した時に利用した、待合室に繋がる中央の階段は、モブキャラクターに見付かり易そうなので、慧夢は今回は利用を避ける。


 病院の一階の廊下は、大雑把に「中」の字を描く感じで、配置されている。

 真ん中の直線が、表玄関と裏口を繋ぎ、その中央には広い待合室があり、そこには階段だけでなく、エレベーターまでも併設されているのだ。


 建物内を一週する廊下、「中」の「口」の部分で言えば、右下の角に相当する辺りと、左上に相当する辺りにも、階段は存在する。

 慧夢が目指しているのは、理学療法室から近い、右下の階段である。


 慧夢が侵入した理学療法室は、建物の右側にある。

 故に、「中」の「口」で言えば右下にある階段が、待合室に繋がらない階段では最寄だった為、慧夢は目指したのだ。


 廊下を移動中、いきなりドアを開けて、若い男性看護士のモブキャラクターが現れ、慧夢は驚きの余り、心臓が止まりそうになる。

 だが、素早く近くにあった給湯室に隠れ、事無きを得る。


 胸を撫で下ろしながら、慧夢は看護士が歩き去るのを待つ。


(ステルスゲーム状態だな、こりゃ……)


 敵の施設に侵入し、敵キャラクター達に見付からぬ様に、視界を避けたり物陰に隠れたりして、暗殺や破壊……奪取などの目的を果たすアクションゲームが、いわゆるステルスゲーム。

 慧夢も好んでプレイする、ゲームジャンルの一つである。


 籠宮総合病院という施設に侵入し、モブキャラクター達に見付からぬ様に、視界を避けたり物陰に隠れたりしながら、ハンヴィーのキーの奪取を目指す……。

 そんな今の自分の状況は、ステルスゲームの様だなと、慧夢は思ったのだ。


(ダンボール箱でもあったら、隠れたまま進んで行けるかな? 流石に無理か)


 ダンボール箱に隠れるのが、お約束のネタと化している、有名なステルスゲームに絡めた冗談を、心の中で呟きつつ、慧夢は看護士が去ったのを確認。

 給湯室を出て、再び廊下を歩き出し、階段に辿り着く。


 階段辺りには、人の姿も気配も無かった為、慧夢は階段を上がり始める。

 慧夢は時折、立ち止まっては聞き耳を立て、足音がしないのを確認しては、また階段を上がり続ける。


 そんな事を繰り返しながら、慧夢は最上階へと近付いて行く。

 途中で一度だけ、上から下りて来る白衣姿の男性医師を避ける為、慌てて階下に引き返して、身を隠したりはしたものの、何とか誰にも見付からずに、慧夢は最上階に辿り着いた。


 息を潜めて階段近くの壁に隠れつつ、慧夢は志津子の部屋に繋がる廊下の様子を確認。

 人がいないのを確認してから、志津子の部屋に向かって速足で歩いて行く。


 目的地が近付いて来たので、慧夢の緊張の度合いは高まる。

 霊体となって目にしたり、志津子の夢世界で目にした事がある、志津子の部屋のドア……飾り気の無いクリーム色のドアを目の前にして、立ち止まった時には、背中に嫌な汗をかいているのを、慧夢は自覚する。


 慧夢はドアに耳を当てて、中の音を聞き取ろうと試みる。

 最初は何の音もしないので、誰もいないのかなと思い、失望しかけた慧夢は、金属の軋む音を聞き取り、驚きと興奮で総毛立つ。


(――いる! 中にいる!)


 聞き取った音は、パソコンが置かれた机とセットの、椅子が軋んだ音だと、慧夢は推測した。

 つまり、志津子は椅子に座り、机に向っているのだろうと、慧夢は考えたのだ。


(鍵は?)


 ひんやりとするドアノブに右手をかけ、慧夢は捻ってみる。

 ドアノブは引っかかり無く回り、微かな金属音を立てる。


(そういえば、籠宮の親父が部屋に来た時も、鍵……開いてたな)


 志津子の夢世界に入った時、施錠されていなかったのを、慧夢は思い出す。

 仮眠を取る時などは施錠するが、それ以外だと仕事で部屋を訪れる病院職員もいる為、現実世界でも志津子は施錠しないのだ。


 ドアノブを握る手が、汗ばんで滑る。

 慧夢は右手の汗をズボンで拭ってから、再度ドアノブを右手で握って捻ると、少しだけドアを開いて中を覗き込む。



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