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163 ハンヴィーなら、ゾンビ……じゃなくって、モブキャラクター共が押し寄せようが、轢いて踏み越えて行けるんじゃないか? 何せ、『オフロードの王』だからな!

「いや、そもそもモブキャラクターの壁や山を、パワーで押し退けて突破する以外にも、方法が有るんじゃないのか? 例えば、その壁や山ごと乗り越えちまうとか……」


 過去にゾンビが大量に出て来るゲームで、押し寄せて来る山の様なゾンビの群を、轢いて押し退けるだけでなく、踏破性(悪路を踏み越え進む性能)の高いオフロード系の自動車などで、轢いて乗り越えて行くパターンのプレイを経験していたのを、慧夢は思い出したのだ。


「踏破性が高い車なら、前を塞ぐモブキャラクター共なんか、踏み越えて進んで行けるかもしれない。ゾンビゲーとかに出て来る、オフロードカーや軍用車両みたいなのなら……」


 そう呟いた直後、はっとした表情を慧夢は浮かべる。

 ゾンビが大量に出て来るゲームなどに良く出て来る、踏破性が非常に高い自動車が、志月の夢世界の中に存在する可能性に、気付いたのだ。


「――ハンヴィーだ! 籠宮の叔母さんのハンヴィーが在るかもしれないんだ、この夢世界には!」


 最近のゾンビを倒す類の、FPSやTPSなどのシューティングゲームには、軍隊が関わる作品が多く、ハンヴィーなどの軍用車両も頻繁に登場する。

 故に、その類のゲームに関して考えた直後だった今回の慧夢は、この夢世界にも存在し得るハンヴィーを、連想出来たのである。


 ハンヴィーは並の自動車に比べればハイパワーではある、特にV8のディーゼルエンジンを積んでいるので、馬力以上にトルクにおいて。

 だが、バスやトラックどころか、一部のハイパワーな乗用車にすら、スペック上のパワーでは劣る。


 しかし、オフロード使用を前提とした軍用車両故に、踏破性や突破力においては、スペック上のパワーでは負ける自動車を、遙かに上回る。

 相当な悪路や障害物だろうが、そのまま回避しないで強引に走り抜けてしまえる、踏破性や突破力の高い自動車なのだ。


「ハンヴィーなら、ゾンビ……じゃなくって、モブキャラクター共が押し寄せようが、轢いて踏み越えて行けるんじゃないか? 何せ、『オフロードの王』だからな!」


 踏破性の高いハンヴィーなら、人の壁や山となり立ち塞がる、膨大なモブキャラクターという障害物ごと、踏み越えて先に進めるだろうと、慧夢は考えた。


「しかも、籠宮の叔母さんのハンヴィーには、荷台もある! あれなら屋敷の一軒や二軒、焼き払えるくらいのガソリンを、余裕で積める筈だ!」


 ハンヴィーの後部には、様々なバリエーションがあり、荷台があるトラックタイプのばかりでは無い。

 だが、志津子と食事をして、家まで送って貰った際、自転車をハンヴィーの荷台に載せて貰ったので、志津子のハンヴィーが荷台のあるトラックタイプであると、慧夢は知っていた。


 ほんの少し前まで、浮かない顔で籠宮家の屋敷の様子を窺うだけだったのが嘘の様に、慧夢の表情は活気を取り戻していた。

 刻々と夢世界が終わる時が迫る中、何をどうすればいいのかすら分からなかった状況から、新たなる策に向けて、やるべき事が出来たのだから、慧夢が活気を取り戻すのは当然だろう。


「ガソリン缶を積んだハンヴィーで、モブキャラクターの群を突破して、籠宮家の屋敷に辿り着いて放火! 屋敷が夢の鍵でなければ、屋敷にいる筈の籠宮の兄貴に接触し、情報を得る! これで決まりだ!」


 新たなる策を口に出して確認してから、慧夢は双眼鏡を使って遠くを見る。

 だが、慧夢が見ようとしているのは、籠宮家の屋敷や北側住宅街では無い。


 現在地点から見ると、住宅街より更に遠く、少しだけ右側に見える辺りに建っている、灰色の七階建ての建物。

 古びた団地の様に素っ気無い佇まいだが、大学病院程に大きい籠宮総合病院を、慧夢は双眼鏡で見始めたのだ。


 現実世界同様、ハンヴィーは籠宮総合病院の駐車場に在る確率が高いのが、見始めた理由。

 無論、この場からは駐車場の様子など見えない、あくまで目標の様子を、大雑把に確認する為に、慧夢は見ているのである。


「人が動いてる……凍り付いてはいないみたいだ」


 以前、志月の両親を破壊する為に行った時、籠宮総合病院は凍り付いていた。

 その時は志月が学校に行っていたので、志月との距離が開き、籠宮総合病院は凍り付いていたのだ。


 だが、今は志月が籠宮家の屋敷にいる為、志月との距離が余り開いていないので、籠宮総合病院は凍り付いていない。

 病院の窓に、動く人影が見えたので、慧夢は籠宮総合病院が凍り付いていないと、気付けたのである。


 ただ、慧夢の視界に映った人影の数は、多くは無かった。

 籠宮総合病院だけでなく、その周囲の様子も、慧夢は確かめてみたのだが、人気ひとけや車の数はまばらであり、人で溢れ返っている北側住宅街とは、かなり様相が異なっている。


「凍り付いていた方が楽だったんだが、動いてやがる。でも、屋敷の周囲みたいに、モブキャラクターだらけって感じでも無さそうだし、これなら何とかなる筈だ!」


 慧夢は双眼鏡を覗くのを止めて、言葉を続ける。


「まずは、ハンヴィーが本当に存在するかどうかの確認。そして、確認が出来次第……ハンヴィーの入手だ!」


 やるべき事が決まってしまえば、慧夢の行動は早い。

 近くに置いてある青いリュックに双眼鏡を仕舞うと、他にも色々な道具が入っているリュックを背負って、階段に通じるドアに向かって歩き出す。


 観測所として利用している雑居ビルの屋上を後にして、籠宮総合病院に向う為に……。




    ×    ×    ×



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