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160 ここまでガチガチに守りを固められて、篭城されるとは……籠宮を明晰夢状態にしたのは、失敗だったか?

 過去に入った経験がある、ゾンビだらけの夢世界で、ゾンビを轢きまくった時の事を思い出しつつ、慧夢はモブキャラクター達を轢きまくった。

 だが、ゾンビだらけの夢世界よりも、立ち塞がるモブキャラクター達の数は多過ぎた。


 数え切れない程のモブキャラクター達が道を塞ぎ、フロントガラスは轢かれたモブキャラクター達の血に塗れ、慧夢は前が見えなくなった。

 血糊や肉片はタイヤを滑らせ、ハンドルを取られた。


 そんな運転し辛い状態で、道を数百人のモブキャラクター達に、塞がれてしまったのだ。

 人の壁……というよりは山の如き塊となり、道を塞ぐモブキャラクター達に、慧夢の乗用車はパワー負けしてしまったのである。


 結果、突進を止められた慧夢は、何とか乗用車をバックさせ、血肉が至る所に飛び散る、地獄の様な光景の中を逃げ出し、凍り付いた領域まで逃げ切るのに成功した。

 モブキャラクター達に、車のフロントガラスや窓ガラスを叩き割られ、飛び散った破片で結構な怪我をしてしまったが、怪我はすぐに治るので、苦痛以外の問題は無い。


 乗用車による侵入を、慧夢は何度か試みたが、その度にモブキャラクター達の数の力に負けた。

 そこで、乗用車でパワー負けするなら、ハイパワーの大型車ならどうだろうと考えた慧夢は、凍り付いた領域の街中で見つけたバスから、運転手と乗客を降ろし、バスによる侵入を試みた。


 だが、特殊大型という特別な免許が必要となる、大型車両であるバスの運転は難しかった。

 練習はしたものの、まともに運転する事自体が難しく、籠宮家の屋敷に辿り着くどころか、凍っていない領域まで辿り着く事すら出来ず、挫折してしまったのだ。


 籠宮家を直接目指す以外の方法も、慧夢は試してみた。

 例えば、電話やメールなどによる連絡方法などを。


 だが、以前は市外との通信だけが、障害を起こしていたのだが、今では市内でも大規模な通信障害が発生している状態となっていたので、慧夢は陽志と電話などで連絡を取れなかったのだ。

 明晰夢状態となった志月が、慧夢の電話などによる陽志へのコンタクトを警戒し、夢世界における通信障害設定の規模を、引き上げたのである。


 そんな流れで、現時点まで慧夢が考え付いたあらゆる手段が、失敗に終っていた。

 あと二時間半で最終日に突入しそうな段階、かなり手詰まりな状態で、慧夢は雑居ビルの屋上で、籠宮家の屋敷や北側住宅街の様子を双眼鏡で観察しつつ、次なる策を練っている最中なのだ。


「ほんとまぁ、どうすりゃいいんだか?」


 双眼鏡で籠宮家や周囲を観察しつつ、慧夢はげんなりとした口調で愚痴を吐く。


「夢の鍵が何なのか、見当すらつかない上、情報を得る為に籠宮の兄貴に接近しようにも、屋敷に近づけすらしないんじゃ、どうしょうもねぇや」


 明らかに手詰まりの状態が、長い間続いてしまっているので、慧夢は焦りや苛立ちを覚えざるを得ない。


 焦りや苛立ちが、思考の邪魔になるのは分かっているのだが、完全に抑え切れるものではない。


「せめて籠宮か兄貴のどちらかが、屋敷から離れてくれたら、どうにかなるんだが……」


 志月が明晰夢状態となってから、屋敷の周辺は常に凍り付かない状態となっている。

 つまり、この数日の間、志月は屋敷から離れていないのだ。


 陽志が屋敷から離れた姿も、慧夢は確認出来ていない。

 おそらくは、慧夢と陽志の接触を警戒する志月により、陽志は屋敷の敷地内から出られない状態にされているのではと、慧夢は考えている。


「ここまでガチガチに守りを固められて、篭城されるとは……籠宮を明晰夢状態にしたのは、失敗だったか?」


 慧夢の頭に、後悔の念が湧き上がる。


「いや、でも指輪が夢の鍵かどうか確かめる為には、あれは仕方が無かったよな。大本命が外れだったと分かったのは、それはそれで収穫の筈だ」


 今更後悔しても仕方が無いとばかりに、慧夢は思考を切り替える努力をする。


「問題なのは、夢の鍵の候補すら分からない現状の方。それを解決するには、とにかく情報が必要」


 慧夢は双眼鏡を覗いたまま、独白を続ける。


「何とか籠宮の兄貴と接触しないと……」


 双眼鏡のレンズ越しに見える北側住宅街は、今も多数のモブキャラクター達に埋め尽くされている。

 既に、志月の日常を再現する為に配置される、普通の人間のモブキャラクターの様な動きではなく、古いゾンビ映画やゾンビゲームに出て来るゾンビの群の様に、余り動かないか、ゆっくりと徘徊している程度の動き。


 だが、侵入者である慧夢の存在を捉えると、モブキャラクター達の動きは一変する。

 最近の映画やドラマ、ゲームなどに出て来るタイプの、動きの速いゾンビの様に、慧夢を素早い動きで襲撃して来るのだ。


「――ホント、ゾンビゲーみたいだな」


 倒しても時間を置くと復活して、モブキャラクターの数は一定の数が維持される事も、慧夢にゾンビ退治系のゲームを思い出させた。

 慧夢は左手で持つ双眼鏡を、顔の前から除けて、溜息を吐く。


「いや、ゲームの方がマシか……ゲームなら、もっとマシな武器を使って、ゾンビ連中と戦えるんだし」


 慧夢も武器を使わない訳ではない。

 夢世界に持ち込んだ斧を中心に、夢世界で調達したバットや包丁、凍りついた領域にいた警官から盗んだ拳銃など、様々な物を武器として、モブキャラクター達相手に戦い続けて来た。


 その武器の一つである、前回の突入の際に、弾丸を撃ち尽くしてしまった拳銃を、右手でポケットから取り出しつつ、慧夢は愚痴る。



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