表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/232

153 おーい、起きないとパソコンの中のエロいものを、先生がいるのにチェックしちゃうぞ! 学校の先生だけでなく、籠宮総合病院の先生もいるのにだぞ!

 夕陽に染められ、普段よりも赤味が強い慧夢の部屋に、和美は四人を案内する。

 慧夢がベッドで眠っているだけで、寂しげだった六畳の部屋は、一気に賑やかな状態となる。


「――どうぞ、ゆっくりしていってね……といっても、寝顔見るくらいしかする事なくって、困るだろうけど」


 和美は微笑みながら、言葉を続ける。


「それじゃ、お茶淹れて来るから」


「あ、どうぞお構いなく!」


 伽耶と志津子は、ほぼ同時に全く同じ言葉をかけてしまう。

 それが気まずかったのか、二人は顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる。


「丁度……貰い物の紅茶とお菓子があるんで、遠慮なさらず」


 笑顔で言い残すと、和美は慧夢の部屋を後にして、ドアを閉める。

 階段を降りる音が、部屋の外から響いて来る。


「おばさん、少し顔色悪くなかった?」


 五月の問いに、素似合が答える。


「慧夢の看病疲れかもね」


 そんな会話を交しつつ、五月と素似合はベッドの傍に移動。

 そして、素似合と五月は、慧夢の寝顔を見下ろし始める。


 伽耶と志津子も、ベッドの傍に移動し、慧夢の寝顔を見始める。


「ホントに眠ってるな」


 ベッドの上で毛布から顔だけを出し、仰向けの状態で眠っている、慧夢の寝顔を見下ろしながら、素似合が呟く。


「余り良い夢、見てないみたいだね」


 ややしかめた感じの慧夢の寝顔は、夢見が悪い様に、素似合には見えたのだ。


「――きっと悪夢でも見てる人の夢の中に、入っちゃったんじゃない?」


 慧夢の頬を指で突っつきながらの、五月の言葉を聞いて、志津子は驚きの表情を浮かべ、思わず言葉を漏らしてしまう。


「――人の夢の中に、入っちゃったって……」


「あ、今のは……この子が良く言う冗談ですから、気にしないで下さい」


 志津子が五月の言葉を真に受けたのだと、伽耶は受け取ったので、五月の発言について、志津子に説明する。


「夢占君は、何故か人の夢の中に良く出て来るんですけど、その理由は夢占君が人の夢の中に入り込める、特殊能力の持ち主だからなんだって、この子は冗談で主張してるんです」


 伽耶の説明を聞いて、むしろ志津子は驚きが増したという感じで、呆然とした表情となる。

 何か……確信を得たかの様な表情だ。


「酷いな先生、冗談半分なんですから、一応半分は本気ですよ」


 慧夢の頬を、パン生地の柔らかさを確かめるかの様に、指先で弄りながら、五月は続ける。


「――慧夢が人の夢の中に出まくる理由、他に考え付かないし。仲が良い私達の夢ならまだしも、そうでもない連中の夢にまで、良く慧夢は出て来るから……夢の中に入れるって考えた方が、すっきりするんだけど」


「まぁ、人の悪夢に入り込んでるかどうかはともかく、夢見が悪そうなのは事実だから、起こした方が良いのかも」


 苦しげにも見える慧夢の顔を、心配そうに見下ろしつつ、素似合は毛布越しに慧夢の身体に両手を置くと、揺さ振り始める。


「慧夢、悪い夢見てるなら……起きろ! 眠たいなら、その上で寝直せば良いんだから! 一回起きろ!」


 素似合に続き、五月も慧夢の身体に手を伸ばし、一緒になって揺さ振り始めつつ、慧夢に声をかける。


「おーい、起きないとパソコンの中のエロいものを、先生がいるのにチェックしちゃうぞ! 学校の先生だけでなく、籠宮総合病院の先生もいるのにだぞ!」


 二人がかりで揺さ振りつつ声をかけても、慧夢には目覚める様子は無い。

 素似合と五月は、慧夢を起こすのを諦め、両手を慧夢から離す。


「――慧夢が起きない以上、仕方が無い。これはパソコンの中身のチェックをするしかないね!」


 五月はベッドの傍から、慧夢の机の所に移動すると、椅子に座ってノートパソコンを開く。

 そして、慣れた手付きで、慧夢のノートパソコンの起動作業を始める。


「さっき駄目だって言ったろ、人のパソコンの中を覗いたら!」


 やや慌てた感じで、伽耶は五月を窘める。


「これは慧夢の為だって、言ったじゃないですか! 慧夢が性犯罪とかに走らない為の、予防的措置なんですから!」


 言い訳を口にしながらも、五月はあっさりと慧夢のノートパソコンのパスワードを探し当て、起動に成功する。

 ノートパソコンのモニターに、様々なフォルダやファイルが表示されていく。


 普段の伽耶なら、慧夢に匹敵する毒舌どころか、下手すれば体罰にならない程度の腕力を使い、生徒の不適切な行為を制止するところ。

 だが、今回の伽耶は、そういった強引なやり方で、五月を制止しようとはしない。


 慧夢に対する個人的な興味が強い為、本音を言えば五月と素似合が漁ろうとしている、慧夢のノートパソコンの中にある物が、伽耶も相当に気になってしまっている。

 その抑え難い興味が、五月に対する制止の勢いを弱め、曖昧な制止にしてしまっていた。


 伽耶以外の大人である志津子も、本来なら初対面の未成年であれ、他人のパソコンの中身を覗こうとしている人間を見かければ、強く止めるタイプの人間である。

 それでも五月を止めないのは、志津子も慧夢に強い興味を抱いているからだ。


 大人二人も、慧夢に対する好奇心に負けてしまった。

 結果として、慧夢のパソコンの中身は、四人の来客の前に、晒される羽目になる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ