表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
151/232

151 男友達の部屋に行けばエロ本を探し、女友達に行けば下着を探すのが、お約束のイベントという奴ですから

「ここんとこ部活忙しかったし、慧夢ん家行ったの……先々週以来だ。五月は?」


 三人が校門を出てから、数分が過ぎた頃合。

 歩道を歩きつつ、素似合は五月に問いかける。


「私もマンガの方で忙しかったし、あんたと一緒に行ったのが最後。その後、慧夢にウチに来て貰って、アシスタントして貰ったりはしたけど」


 五月と素似合の会話を聞いていた伽耶は、気になる様子で二人に訊ねる。


「お前等、普段から夢占の家に行ってるのか?」


「――腐れ縁の幼馴染で、五月なんかは親同士も仲が良いから、子供の頃から行き来はしてるかな」


「エロ本の隠し場所を常に把握してる程度には、慧夢の部屋には遊びに行ってますね」


 しれっとした口調の五月の言葉を聞いて、伽耶は少しだけ恥ずかしそうに呟く。


「男の子の部屋で、エロ本って……」


「男友達の部屋に行けばエロ本を探し、女友達に行けば下着を探すのが、お約束のイベントという奴ですから」


「お約束のイベント?」


 五月からすれば、フィクションなどで有り勝ちなネタを揶揄したギャグであり、そんな真似をするのは慧夢や素似合相手くらいなのだが、伽耶にはギャグの意味が通じていない。


「まぁ、慧夢がパソコンを買って貰ってからは、エロ系はパソコンの中に入るデジタルのが増えたけど、そっちはそっちで把握済みって奴で」


「――把握済みって、どうやって?」


 伽耶の問いに、五月が平然とした顔で答える。


「慧夢がトイレとかで部屋から出てる間に、パソコンの中覗いて。あいつのパソコンのパスワード、大抵その時にはまってる二次元キャラの名前だから、隙が有れば簡単に覗けるんで」


「駄目だろ、人のパソコンの中を覗いたら!」


「パソコン内のエロいものチェックも、お約束のイベントの延長な上、性犯罪を誘発しかねない異常なエロに、幼馴染が手を出さない様、密かに見守る為……つまりは慧夢の為にやってる事なんで、良いんですよ」


 当然と言わんばかりの口調で、五月は自身の行動を正当化する。

 もっとも、エロ系のコンテンツのせいで、慧夢に限らず人が犯罪に走るなどと、五月は欠片も思ってはいないので、単なる口から出任せレベルの言い訳なのだが。


 五月にしろ素似合にしろ、慧夢の部屋やパソコンの中から、エロ系のものを漁るのは、あくまで興味本位の行動でしかない。


「幾ら夢占の為でもな……」


 伽耶のたしなめの言葉に、素似合の大声が重なる。


「そういえば、この前チェックした時は、女教師物も結構あったな」


「え?」


 女教師という言葉に反応し、伽耶は驚きの表情を浮かべつつ、目線を五月から素似合に移す。


「慧夢の奴、女教師趣味……というか、年上趣味にでも目覚めたのかねぇ」


 素似合は冗談めかした口調で、伽耶に問いかける。


「案外、当摩先生とか……慧夢の好みだったりするのかも?」


 素似合に問いかけられた伽耶は、一瞬だけ表情を嬉しそうに綻ばせるが、すぐに表情を引き締め直し、口を開く。


「いや、そんな事は無いだろ。それに、仮に何かの間違いで、そうだとしても……流石に教師と生徒というのは、色々と問題あるじゃないか。年齢だけでなく、その……社会的な立場とかな」


「無用な心配だよ、そもそも慧夢は二次元の女にしか興味無いんで、現実の女である先生に、そういう種類の興味は持たないから」


 事も無げな口調で、五月は言い切る。


「――夢占がオタク趣味なのは知ってるけど、そこまで酷くはないだろ。普段、興味ない様な事を言っていても、年頃の男の子なんだし、現実の女にだって興味はあるさ」


 興味は持たれないと断言されたのが、少しだけ気に障った伽耶は、五月に反論する。


「あいつの場合、現実の女に興味が無い訳じゃないんじゃないかな」


 五月とも伽耶とも違う意見を、素似合は口にする。


「昔……拗らせた女性不信が、まだ少しだけ残っているから、現実の女を恋愛対象にするのに、やや抵抗があるくらいの話で」


 慧夢が何らかの理由で、過去に酷く人間不信……特に女性不信を拗らせていた時期があるのは、幼馴染である素似合や五月だけでなく、中等部からの付き合いである伽耶も知っていた。

 故に、そうなのかも知れないと思い、五月と伽耶も特に言葉を返さない。


「まだ時々、女の子相手に口の方が暴走する時があるとはいえ、相当にマシにはなってきたから、そう遠くない内に彼女の一人くらい出来ても、おかしくは無いと思うけど」


 すると、今度は先程とは違い、五月が反論の為に口を開く。


「それは無いんじゃないの? 女性不信が治ったところで、彼女になりそうな相手が、慧夢にいる訳じゃないんだし」


「――どうかな? あいつ目付きは悪いけど見た目が悪い訳じゃないし、口は悪いけど性格が悪い訳じゃないから、意外と僕等が知らない所で、色んなフラグ立ててたりするのかもよ」


「死亡フラグならともかく、恋愛関連のフラグを慧夢が立ててる光景は、想像で……」


 五月が口にしようとした、「想像出来ない」という言葉は、突然の轟音に掻き消される。

 ガードレールの向こうの車道を、かなり喧しい音を立てながら、一台の車が通り過ぎたのだ。


「エンジン音、五月蝿い車だな。街乗りの自動車に、あんなハイパワーなエンジン要らないだろうに」


 走り去って行く車に目をやりながらの、不愉快さを隠さない伽耶の言葉。


「街乗りじゃなくて軍用だから、確かに街中で走られると五月蝿いね、ハンヴィーは」


 ミリタリー系のゲームなどに出て来た為、素似合は五月蝿い車が、ハンヴィーという軍用車両なのを知っていた。


「軍用なのか、道理で……迷彩塗装な訳だ。まぁ、ジャングルならともかく、むしろ街中まちなかじゃ目立ってるけど」


 進行方向にある十字路で左折したハンヴィーを見ながら、伽耶は感想を口にする。


「最近、たまに見かけるな、あの迷彩塗装のハンヴィー。嫌いじゃ無いけど、街中で乗り回すのは、正直間抜けだよね」


 五月の微妙に刺のある言葉に、素似合と伽耶は頷く。

 そして、その間抜けな運転手が、どんな奴なのかという話題に花を咲かせながら、三人はハンヴィーが左折した十字路に辿り着く。


 既に遠くまで走り去っただろうと思いながらも、三人は申し合わせた様に左折路に目をやる。

 すると、走り去っていなかったハンヴィーの姿を、三人の視界は捉えてしまう。


 十字路を左折すると、近くに小さなコインパーキングがある。

 そのコインパーキングに、ハンヴィーは駐車していたのだ。


 ハンヴィーのドアを開けて、運転手が姿を現していた。

 グレーのマニッシュなサマースーツに、白いブラウスという出で立ちの、黒いビジネスバッグを左手で提げている、背の高い女である。


「――女だ」


 運転手は男だと思い込んでいた三人の中で、特に目が良い素似合が、意外そうに呟く。


「誰かに似てる気がするけど……」


 二十メートルは離れているので、目が良い素似合でも、はっきりと顔が視認出来る訳では無い。

 ただ、素似合には何となく、そんな気がしたのだ。


 女は左折したばかりの十字路の方……つまり三人がいる方向に歩いて来たので、知り合いでも無い他人を、三人も立ち止まって眺め続ける訳にもいかない。

 三人は女から目線を慌てて外すと、進行方向に向かって歩き出す。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ