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148 夢占君と初めて会った時、どうしても初対面だとは思えない……どこかで会った気がしてたのは、現実に出会う前に、夢の中で会っていたからだったんだ!

「――志月と同じ年頃の男の子に、痴漢される夢を見て、結構自己嫌悪に陥ったんだっけ?」


 自分の性的経験が歳相応ではない事に対する、潜在的な劣等感のせいで……などと、目覚めた後に夢判断をした記憶が甦り、志津子は自己嫌悪に陥りそうになるが、即座に思考を切り替える。


「あの夢を見たのは、確か……兄さんが事故に遭うより前。つまり、まだ夢占君と私が、知り合う前じゃない! だから、夢を見た時の私は、夢占君の名前を知らなかったのね……」


 そして、慧夢に押し倒された記憶が夢だったと気付いた志津子は、心の中で引っかかり続けていた、別の疑問についての答にまでも辿り着く。


「夢占君と初めて会った時、どうしても初対面だとは思えない……どこかで会った気がしてたのは、現実に出会う前に、夢の中で会っていたからだったんだ!」


 現実世界で志津子が慧夢と初めて会った時、既に二日程が過ぎていた為、夢の記憶は記憶の海に沈んでいて、思い出せはしなかった。

 それでも、夢の中で受けた慧夢の印象は強く、出会った事があるという印象だけは、その時の志津子にも残っていたのだ。


「初対面の筈なのに、初めて会った気がしないケースは、決して有り得ない訳じゃない。本人が気付いていないだけで、夢に出て来る前に何処かで顔を見かけて、無意識の内に記憶していた場合とか……」


 そういった形で夢に出て来た人間と、夢を覚えている間に現実世界で出会えば、現実には会った事が無いのに、夢の中に出て来た人間と、現実に出会った様に思い込んでしまう。

 この類のケースが珍しくは無いのを、心理学を学んでいた志津子は知っていた。


 これまでの志津子なら、自分が経験した事を、同様のケースだと考えたに違いない。

 慧夢が夢に出て来る前に、自分が現実の方で慧夢の顔を目にして、無意識の内に記憶していたのだろうと。


 だが、夢占幻夢斎や夢占流についての記憶が蘇った、今の志津子は違う考え方をした。

 志津子は画像を次々と開き、自分の記憶が正しいと確認出来る、記事の文章を探す。


 探していた文章は、記事の最後の方にあった。


「――夢占流の夢占い師が活躍した記録は、この明治時代の事件についてのものが最後。それ以降、夢占流は鳴りを潜めているが、霊力が夢占一族の子孫に受け継がれるものである以上、現代にも夢占流の霊力を受け継いだ夢占い師が、存在している可能性は高い……」


 記事をまとめる感じの文章を、志津子は音読する。


「もしもあなたが、夢や眠りに関する深刻な問題に遭遇し、医者も科学者も太刀打ち出来ない時には、夢占という苗字の人間を探すと良いのかもしれない。夢占の夢占い師なら夢の中に入り、その問題を解決してくれるかもしれないのだから……」


 今で言えばオカルトマニアとでも言うべき人間が、過去の資料を掻き集めて書いた記事なのだろう。

 江戸時代から明治時代に至る迄、夢占家では無い人々が残した、夢占流に関する記録をまとめた記事には、幻夢斎だけでなく子孫である夢占流の夢占い師に関するエピソードも、幾つか記されていた。


 一連のエピソードは、夢占流の霊力は子孫に受け継がれている事と、夢占流の夢占い師が、夢や眠りに関するトラブルの解決を、霊力を用いて行い続けていた事を示していた。


「夢占って苗字は相当に珍しいから、夢占君が夢占幻夢斎の子孫で、霊力を受け継いでいるのかも? だとしたら、実際に出会う前に……夢占君が私の夢に出て来ていたのは、夢占君が霊力を使って、私の夢に入っていたからだって事に……」


 通常の志津子であれば、心理学などの医師としての職業上の知識が邪魔をして、夢の中に入る霊力を持つ人間がいて、自分の夢の中に入っていただろうという考えには、至れなかっただろう。

 だが、今の志津子は、通常の状態ではなかった。


 志月の永眠病相手に、尽くせるだけの手を尽くしても、医師としての志津子は、太刀打ちが出来なかった。

 そんな絶望的な状況に追い込まれていたが故に、その状況を覆せる存在を信じたいと、志津子は思ってしまったのだ。

 その思いのせいで、志津子は通常なら信じないだろう、他人の夢の中に入る人間の話を信じ、通常なら辿り着く筈が無い、自分の夢の中に他人が入っていたという考えに、辿り着いた。

 現実世界で知り合う前に、慧夢が自分の夢の中に入っていたのが、知り合う前に慧夢が夢に出て来た理由だと、志津子は考える様になったのである。


 慧夢との一連の会話を、志津子は良く覚えていた。

 兄を救ってくれた恩人である上、初対面とは思えず、趣味も合っていた慧夢に、志津子が好印象を抱いていたせいでもあるが、理由はそれだけではない。


 志月や永眠病についての興味深い話を、慧夢がしていたのも、会話を良く覚えていた理由の一つだ。

 慧夢が語った情報に関しては、その後ネットで調べたりもしたし、「永眠病にかかってる人を、眠りの世界から呼び覚ます方法」に関して言えば、実際に試した程なのだから。


 様々な処置の邪魔になる為、枕元には置かれていないが、実はベッドの下のスペースに、志月の大事な宝物の幾つかが、志津子の手により置かれている。

 無論、慧夢が話を聞き出す為に口にした出任せなので、何の効果も無かったのだが。



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