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146 例の夢占という苗字について分かった事

 疲れた顔で自室に戻った志津子は、気だるげな動きで白衣を脱ぐと、仕事机の椅子の背もたれに、白衣をかける。

 普通ならハンガーにかけて、白衣用のクローゼットに仕舞うのだが、その気力が無いのだ。


 椅子に近付いた為、机の上のスマートフォンが、志津子の目に映る。

 脳磁計室へは携帯電話の類の持込が禁止されているので、志月の検査を行う前に、机の上に置いておいたのである。


 すぐにでも仮眠を取りたい程度には疲れていたので、志津子はスマートフォンを無視して、ベッドに向かおうとする。

 でも、重要な連絡が来ていたらまずいと思い直し、志津子は机の方に戻ると、スマートフォンを手に取ってから、再びベッドの方に向う。


 志津子は倒れ込む様に、仰向けでベッドに寝転ぶ。

 スプリングが軋む音を立てながら、ベッドが弾んで揺れる。


 スマートフォンを操作し、志津子はメールやメッセージのチェックを始める。

 特に重要ではないメッセージやメールが殆どだったので、眠たげな目で流し読みを続けていた志津子の目が、一つのメールのタイトルを目にして、見開かれる。


「例の夢占という苗字について分かった事」


 メールの主は医大時代からの親友で、東京の大学病院で精神科の医師を務めている、甲斐かい千鶴ちづる

 メールには数枚の画像も、添付されていた。


「分かったんだ、夢占について!」


 志津子は驚きの声を上げる、まるで眠気など忘れてしまったかの様な声のトーンで。

 友人からのメールは、「夢占」という苗字について訊ねた、志津子のメッセージへの返答である。


「川神学園高等部、一年三組の夢占慧夢です」


 夢占家の前で慧夢が自己紹介をした際、指差した「夢占」という珍しい苗字の表札を目にした時、志津子は何かが引っかかった風な表情を浮かべた。


(夢占……珍しい苗字だけど、聞き覚えがある気がするな。最近じゃない、結構前だ……)


 かなり以前に、夢占という珍しい苗字に関わる話を聞いた記憶が、志津子にはあったのだ。

 でも、何時……誰に、どんな話の流れで聞いたのかを、志津子は思い出せなかった。


 夜が明けた六月九日の午後、千鶴と息抜きとしてのメッセージのやり取りをした際、思い出せずに気になっていた夢占という苗字について、志津子は尋ねてみたのだ。

 最近ではなく、かなり以前……医大時代に耳にした事があった様に思えたので、同じ医大だった千鶴なら、知っているかもしれないと思ったからである。


 だが、その時にやり取りしたメッセージでは、千鶴も夢占という苗字には、聞き覚えがある様な気もしたが、それが何故だかは分からないという答だったのだ。

 故に、千鶴から夢占という苗字に関する情報を得られるとは、志津子は既に期待していなかったし、志津子自身も志月の事が有り忙しく、思い出せない記憶について、気にする余裕も無くなっていた。


 ところが、その答が今になって、千鶴からのメールによって、もたらされようとしているのだ。

 メッセージではなくメールなのは、答に関係がある大きめの画像が複数、添付されているからだろうと、志津子は推測する(画像多く送るなら、メールの方が良いので)。


 何故、自分が夢占という苗字に、聞き覚えがあるのか?

 その疑問についての興味が、志津子の心の中で甦った。


 眠気を忘れたかの様に、志津子はメールを開いて読み始める。



(差出人)甲斐千鶴


(件名)例の夢占という苗字について分かった事


(本文)


この前のメッセの時には思い出せなかった、夢占って苗字が何だか思い出したよ。


ぶっちゃけ、覚えてる人に会ったんで、私も思い出しただけなんだけどw



昨日、静間しずまちゃんがウチの病院に仕事で来たんで、久し振りに話したんだ。


その時、志津子の話も出たんで、静間ちゃんにきいてみたら、覚えてたんだ夢占の話。



夢占って苗字、志津子と私も藤間ちゃんと一緒に受けてた、心理学の碇屋いかりや教授の講義に出て来たんだよ。


ちゃんとした心理学の話というより、関連するオカルト染みた雑学的な話だから、普通なら忘れちゃうんだろうけど、静間ちゃん碇屋ゼミだったでしょ。


藤間ちゃんも碇屋教授と同じで、オカルトというか超心理学系の話が大好物だったし。



碇屋教授が普段の雑談でも、結構話してた話題だった上、夢占に関する資料も、講義を受けただけの私達と違って、スライドじゃなくて本物の方を見せて貰ってたんで、良く覚えてたみたい。



藤間ちゃん、趣味の関係で碇屋教授と今でもやり取りしてるっていうんで、夢占関連の資料、碇屋教授にコピー貰えるっていうから、頼んでおいたんだけど、その資料の画像が、ついさっき送られて来たんだ。



私達も講義でスライドを見た奴だから、志津子も見覚えがあるだろうし、夢占が何だか思い出すと思うよ。


分かると思うけど、添付してある画像が、その資料だから。



思い出せないで気になっていた事が、思い出せたのは嬉しいんだけど、びっくりするくらい胡散臭い、荒唐無稽な話だよね。


ま、画像の記事が載ってたの、今でいえば下衆い週刊誌みたいな感じのカストリ雑誌だったらしいし、胡散臭いのは当たり前か。



そういう訳で、夢占という苗字について分かった事でした。



P.S.


今は色々と大変らしいけど、無理し過ぎないようにね。


志津子は真面目だから、つい無理し過ぎちゃうタイプだし。


問題片付いたら、食べ放題の店にでも行こう。



    ×    ×    ×



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