14 苦しげな呻き声も、そそるものだけど……そろそろ悲鳴とかも、聞いてみたいわね
「――苦しげな呻き声も、そそるものだけど……そろそろ悲鳴とかも、聞いてみたいわね」
プレイに変化を求め始めたのか、そう呟いてから、エドナは慧夢のボールギャグを外す。
左手でボールギャグを持ち、慧夢の唾液に塗れたボール部分を、アイスキャンディでも舐めるかの様に、美味しそうに何度か舐めてから、エドナはボールギャグを胸の谷間に、仕舞い込む。
(チャンスだ! 今の内に……こいつを目覚めさせないと! こんな変態の夢に、朝まで付き合わされるのなんざ、お断りだからな!)
エドナがボールギャグを外した理由が、「そろそろ悲鳴とかも、聞いてみたい」というのは、慧夢としては悪い冗談でしかない。
だが、ボールギャグを外され、声が出せる様になったのは、慧夢にとってはチャンス到来と言える状況だった。
慧夢は夢世界の中に入ってしまうと、夢世界の主が目覚めるまで、夢世界から抜け出せはしない。
そして、声が出せる様になれば、慧夢にはエドナを目覚めさせ、エドナの夢世界から抜け出せる可能性がある。
夢世界の主を、夢から……眠りから覚めさせる方法は、二つある。
一つは、今現在……夢世界の主が、夢を見ているという真実を、伝える方法だ。
殆どの場合、現実の本人と同一人物という形で、夢世界に主は参加している。
「お前がいる、この世界は……ただの夢だ! 目を覚ませ!」
こんな感じの言葉をかけて、この世界が夢であるという真実を、夢世界の主に伝えるのだ。
自分が夢を見ている事に気付いてしまうと、見続けるのが空しくなってしまうのか、五割くらいの確率で、夢世界の主は夢から覚め、目覚めるのである。
だが、半分くらいの夢世界の主は、これだけでは目覚めない。
夢だという真実を信じなかったり、夢だという真実を理解した上で、明晰夢として夢を見続ける選択をしてしまい、目覚めないのだ(夢だという認識があるまま、見る夢が明晰夢)。
もう一つの方法は、夢世界に参加している主に、強い衝撃を与える方法。
簡単に言えば、夢世界の主を、殴ったり蹴ったりして、強いダメージを与えると、夢世界の主は九割くらいの確率で、目を覚ましてしまうのである。
どちらの方法も、一つだけでは、確実に目覚めるとは言えない。
だが、二つの方法を併用すると、ほぼ確実に夢世界の主は目覚め、慧夢は夢世界から解放される。
故に、長時間居続けるのが厳し過ぎる、酷い悪夢に入ってしまった場合、慧夢は二つの方法を併用して、夢世界の主を強制的に目覚めさせ、夢世界から抜け出すのだ。
昨日の居眠りの際、素似合にした様に。
今現在、手足は拘束されたままなので、夢世界の主に衝撃を与える方法は無理。
でも、喋れる様になったので、この世界が夢だと伝える方法は可能。
とりあえず、使える状態になった方法の使用を、慧夢は即断。夢世界の主を見上げ、慧夢は訴える。
「おい、エドナさんとやら! この世界は……あんたが見てる夢なんだよ!」
いきなり、この奴隷は何を訳の分からない事を言い出すんだとでも、言わんばかりの不思議そうな目で、エドナは慧夢を見下ろす。
「少し考えてみろ! こんな南国のビーチリゾートみたいなとこで、SMプレイするなんて事が、現実に有り得る訳が無いだろ! これは夢なの、夢! あんたが今、マンションの寝室で見てる、夢なの!」
慧夢に言われて、エドナも少し今の状況の異常さに気付いたのか、辺りの景色を見回し、状況を確認する。
青い空と海に、白い砂浜……そして、砂浜の上で繰り広げられる、SMプレイという、常識的には異常と思える状況を。
「――言われてみるまで、気付かなかったけど、かなり変な状況ね。確かに、現実じゃなくて夢なのかも……」
「だろ? だから、さっさと目を覚ませ! こんな異常な夢なんて見てないで!」
必死で訴えかける慧夢の顔を、エドナは不思議そうに首を傾げつつ見下ろす。
「――何で? 別に覚めなくてもいいじゃない。こんな楽しい夢なら……むしろ目覚めないで、ずっと楽しんでいたいくらいよ」
そんなエドナの言葉を聞いて、慧夢は悟る。
(やばい、こいつ……明晰夢のまま、夢を見続ける選択しやがった!)
明晰夢のまま、夢を見続ける選択をした夢世界の主は、強い衝撃を与えなければ、目覚めさせられない。
だが、それは今の慧夢には不可能なので、慧夢は完全に手詰まりといえる状況。
「まぁ、ずっとは無理にしても、朝までは楽しめる訳よね、夢なんだし」
朝まで楽しむつもりの、様々なプレイを想像しているのか、淫らさを感じさせる笑みを、エドナは浮かべる。
「いや、俺にとっちゃ楽しい夢どころか、ただの悪夢だから! 見続けたかったら、一人で見続けてくれ!」
慧夢は焦りの表情を浮かべ、強い口調で訴え続ける。
「SMプレイの夢を見続けたいなら、頼むから一回目覚めて、誰か別の人を奴隷役にして!」
「――駄目! 夢の続き見るのって、難しいじゃない。一回目覚めて、また眠っても……今度見る夢は、また別の夢なんだろうし」
「きっと、その別の夢の方が、もっと素敵な夢になるんじゃないかな? 俺よりも遥かに……あんた好みの奴隷が現れて、好みのプレイが楽しみ放題の、素敵な夢になると思うよ! だから、ほら……希望を胸に抱いて目覚めようよ!」
「奴隷の好みという意味なら、君は……かなり好みのタイプだから、私としては君で十分なんだよねぇ」
左手で慧夢の頬を撫でながら、エドナは続ける。
「君みたいな反抗的な子の方が、お仕置きして屈服させて、躾けるのが楽しいだろうし」
「――目付きの事なら、別に反抗的だから、こんな目してるんじゃなくて、元からなの! お仕置きしても改善の余地とかないんで、期待しないで! 俺はお仕置きされて躾けられて伸びるタイプじゃなくて、ご褒美貰って甘やかされてこそ、伸びるタイプなんだよ!」
「ご褒美? ああ、そういえば……お仕置きばかりで、ご褒美あげるの忘れていたな」
楽しい悪戯を思い付いてしまった、悪ガキの様な笑みを浮かべつつ、エドナは続ける。
「ご褒美あげるから、口を開けなさい」
嫌な予感がしたので、開けろと言われて開ける訳が無い。慧夢は貝の様に口を閉じた。