133 ゾンビより気持ち悪いな、痛そうな反応を示す分!
カジュアルな服装の大学生風の青年と、作業服姿の工員風の中年男が、ガードレールを乗り越えて歩道に移動すると、慧夢を背後から襲撃。
残りの七人……様々な年齢の、スーツ姿のサラリーマン風の男達は、サイクルレーンを移動して慧夢に迫りつつ、ガードレール越しに慧夢の身体を捕らえたり、殴ったりしようとする。
(こいつらは作り物だ、遠慮する事はねぇッ!)
畳まずに握ったままだった斧で、自分に伸びてくるモブキャラクター達の腕を、慧夢は勢い良く薙ぎ払う。
モブキャラクター達の前腕や手首などを、慧夢の斧は斬り裂いたり、斬り落したりする。
鮮血が飛び散り、慧夢も生温かい返り血を浴びる。
現実で返り血など浴びた経験は無いが、血の感触などから本物としか思えない程のリアルさを、慧夢は覚える。
モブキャラクター達は悲鳴を上げながらたじろぐが、傷付いて血だらけになりながらも、慧夢に襲い掛かるのを止めない。
慧夢に襲い掛かり消し去って欲しいという、志月の意志……命令に行動を縛られているが、身体を傷付けられた場合の反応自体は通常時と変わらず、傷付けば苦痛を感じる反応を見せるという感じ。
(ゾンビより気持ち悪いな、痛そうな反応を示す分!)
傷付いても退かず、追いすがり続けるという意味では、映画やゲームに出て来るゾンビ風ではある。
だが、夢世界におけるモブキャラクター達は、傷付けられても悲鳴を上げたり痛がったりはしないゾンビと違い、人間同様に苦痛に顔を歪め、悲鳴を上げたりする反応を見せる。
故に、本物ではない作り物の人形の様な存在だと思い込もうとしても、慧夢としては気分が悪くなるのを避け難い。
だからと言って、捕まる訳にも攻撃を受ける訳にもいかないので、迫り来るモブキャラクター達を、慧夢は斧で薙ぎ払わざるを得ないのだが。
慧夢が自転車のサドルに跨ったまま斧を振り回し、辺りを血の海に変えながら、襲い来るモブキャラクター達を斬り裂きまくった結果、十人のモブキャラクター達は腕を中心に、身体を酷く損傷。
モブキャラクター達は戦闘能力を失い、慧夢を襲えない状態に追い込まれる。
(今だ! こいつらが復活する前に、逃げないと!)
血の鉄臭い臭いに辟易しながら、慧夢は再びペダルに足をかける。
血のせいで滑りが増した為、二度足を滑らせるが、三度目にペダルを漕ぎ出すのに成功、慧夢は自転車で走り出す。
程無く身体の各所を破壊されたモブキャラクター達は、粒子化を開始し、身体を修復してしまう筈。
その前に逃げないと拙いと、慧夢は考えたのだ。
モブキャラクター達が粒子化による修復を開始する前に、慧夢の自転車は逃げ始めるのには成功した。
だが、この場に存在し……志月の命令に従うモブキャラクターは、慧夢が斧でダメージを与えた十人だけではなかった。
慧夢がモブキャラクター達に襲われている間にも、幹線道路を走って来て、志月の近くで停車する自動車の台数は、増え続けていたのだ。
志月が立っている辺りを中心として、幹線道路の上りにも下りにも、合計二十台程の自動車が停車し、渋滞を起こしているかの如き様相となっている。
志月の近くに停車していた、十台近くの自動車に乗っていたモブキャラクター達は、降車して慧夢に襲い掛かった為、中には誰もいない。
だが、この場に辿り着いて停車したばかりの、十台程の自動車には、モブキャラクター達が乗ったままだった。
そんな自動車に乗ったままのモブキャラクター達に、志月は命令を下す。
必死でペダルを漕ぎ、自転車に乗って遠ざかって行く、慧夢の背中を指差しつつ。
「――逃がさないで、ちゃんと仕留めて!」
仕留めた……つまり、殺したり壊したりしても、志月の意志とは無関係に、幽体である慧夢は復活してしまう事も、それ以前に慧夢が幽体である事も、志月は知らない。
夢の中でまで相性が悪いものの、他のキャラクター同様に本物ではない、夢の中で再現されているキャラクターだと、志月は思い込んでいる。
故に、夢の中にいる慧夢を破壊してしまえば、復活を自分が望まない限り、慧夢は消え去った状態になると、志月は考えている。だからこそ、志月は慧夢を仕留めようとしているのである。
そんな志月の命令に従い、自動車に乗っていたモブキャラクター達が、行動を開始。
自動車を降りずに運転して、慧夢の追跡を始める。
幹線道路にアイドリング状態で停車していた自動車達が、次々と動き始めて方向を変えると、慧夢が逃げ去った市の北側郊外に向かって走り始める。
左側通行のルールなど無視し、十台以上の自動車がエンジン音を唸らせなながら幹線道路を走り、自転車で歩道を走る慧夢を追う。
見た目こそ普通の乗用車や、軽トラックなどの小型の業務用車両ばかりなのだが、交通ルールを無視して爆走する光景は、まるで暴走族の様。
自動車である為、当然の様にスピードは自転車よりも速く、このままでは慧夢が自動車の暴走集団に追いつかれるのは、時間の問題といった状況。