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129 夢占君こそ、何で斧なんて持ち歩いて、人を襲ってるの? 目付きの悪さは前から犯罪者レベルだったけど、とうとう本物の犯罪者になった訳?

 振り向かれ気付かれはしたが、今更……慧夢の右腕は止まらない。

 志月の左手首を狙い、慧夢は勢い良く斧を振り下ろす。

 志月の悲鳴と同時に、悲鳴に似た急ブレーキの音が響き渡り、志月の自転車が急減速。

 志月はブレーキをかけて、斧を避けようとしたのだ。


 斧の刃は狙いを外し、自転車の籠の一部を切断する。

 慧夢も即座にブレーキをかけたのだが、右手は斧を持っていた為、左ブレーキだけしかかけられなかったので、減速が志月の自転車より遅れてしまった。


 三メートル程の間合いが開いて、二台の自転車は急停止した。

 すぐさま慧夢は自転車から降りてガードレールを乗り越えると、志月に駆け寄って行く。


 志月の方は焦りと驚き……恐れなどの感情が入り混じった、複雑な表情を浮かべつつ、矢張り自転車から降りる。

 乗ったまま再スタートして逃げる前に、明らかに慧夢に追いつかれると察した為、自転車から降りて防御もしくは反撃した方が良いと、判断したが故に。


 慧夢は志月の左手首を狙い、斧で斬り付ける。

 だが、志月が鞄を手にして盾とした為、慧夢の斧は防がれてしまう。


「ち……ちょっと、いきなり何なの? 気でも違ったの?」


 声を上擦らせながらの志月の問いを無視し、慧夢は右手を振り上げ、前回を上回る勢いで斧を振り下ろす。

 志月は再び鞄で防ぐが、今度の斧による攻撃の威力は前回以上で、その黒い鞄をチョコレートケーキを切り分けるナイフの様に、切断してしまう。


 鞄は切り裂かれたが、その中の何かに斧は止められ、刃は志月には届かない。


(何だ? 斧でも斬れないものが……)


 鞄の切断された部分から、その何かが姿を現し道路に落ちる。

 志月は反射的に、その何かを拾い上げ、利き腕の左手で持つ。


 その何かとは、包丁……出刃包丁。

 白木で出来た牡蠣色の鞘を左手で握り、右手で同じ色の柄を握って鞘から抜くと、志月は刃を慧夢の方に向け、短刀を手にした侍の様に身構える。


「――何で包丁持ち歩いてんだよ?」


 普通、女子高校生が持ち歩いている訳が無い出刃包丁を、志月が持ち歩いているのが不思議で、つい慧夢は問いかけてしまう。


「今日……部活で魚料理作ったから」


 志月の返答を聞いて、慧夢は志月が料理研究部だったのを思い出す。


「夢占君こそ、何で斧なんて持ち歩いて、人を襲ってるの? 目付きの悪さは前から犯罪者レベルだったけど、とうとう本物の犯罪者になった訳?」


 問いかけながら、志月の目線は周囲に泳ぐ。

 助けを求められる人間がいるかどうか、探しているのだが、生憎と周囲に人気は無い。


 そして、目線が自分から外れた隙を、慧夢は見逃さない。


「どちらかといえば、犯罪というよりは人助けなんだけどね!」


 慧夢は言い放つと、志月の左手首を狙い、斧で斬りかかる。

 だが、志月が咄嗟に後ろに飛び退いた為、慧夢の斧は空を斬る。


 ただ攻撃を受け続ける程、志月は弱気な性格では無い。

 斧よりも刃渡りが長い出刃包丁を短刀の様に扱い、反撃を開始。


 出刃包丁の刃渡りは、携帯用の斧より長く、斬るだけでなく刺したりも出来る。

 志月は背が慧夢より高いので、リーチという意味でも少しだけ長い。


 逆に、動き……特にフットワークの方は、慧夢の方が良い。

 特に前後に移動するステップは素早く、上手く突きによる攻撃に対応出来ている。


(フランスパン護身術の為に、フェンシング動画見て動きを真似してなかったら、やばかったなこりゃ……)


 手にしているのは斧なので、フェンシングの突きをメインとする攻撃法の応用という意味では、余り役には立たない。

 だが、前後に素早く動いて短刀の間合いから逃げつつ、攻撃の為に前に踏み込むのには、付け焼刃とはいえフェンシングの動きは役立っていた。


 リーチや刺撃を使える点において勝る志月と、フットワークで勝る慧夢の戦いは、結果として五分といえる状況。

 慧夢は中々、志月の懐に飛び込んで、左手首を斬り落せない。


 そうして斬り合っている内に、街道を走る自動車が停止し始める。

 サイクルレーンで斬り合う二人の存在に、自動車に乗っていたモブキャラクター達が気付き始めたのだ。


 モブキャラクターの動きが視界に入り、慧夢は焦り始める。


(やばい、このままだとモブ連中に邪魔される!)


 この段階に至れば、志月は慧夢を完全に敵だと看做している筈。

 そんな場にモブキャラクターが来れば、志月を守る為の行動を取る可能性が高い。


 そうなれば、志月の指輪を奪って破壊するという慧夢の目論見は、達成が困難になってしまう。

 慧夢としては、それは避けたい。



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