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126 あ、これクマのヌイグルミか! あの……ツキノワグマじゃないけど、ツッキーとかいう名前の!

(あ、これクマのヌイグルミか! あの……ツキノワグマじゃないけど、ツッキーとかいう名前の!)


 毛だらけの玉の様な物は、一メートル程の大きさがある、やや色褪せた茶色いクマのヌイグルミだった。

 志月が「ツッキー」という名前を付けて、大事にしているという奴だ。


 ベッドボードの上にも、小さなツキノワグマのヌイグルミが二体並んでいるのだが、ツッキーはベッドの右隣の床に、座布団を敷いた上に置かれている。

 足を前に伸ばして、座っている感じで。


(ベッドボードの上に置くにはでかすぎるから、床の上に置いているのか)


 大事なので身近に置きたいのだが、大きさ故にベッドの上には置けず、床に置かれている。

 でも、そのまま置くのはしのびないのか、座布団を敷いた上に、壁に寄り掛かる形で、ツッキーは置かれていたのだ。


 そして、その場にあった夢の鍵候補は、ツッキーだけではなかった。


(――これ木刀じゃん!)


 ツッキーの近く……ベッドの右下に目線を移動させた慧夢は、隠される様に置かれていた、三本の木刀の存在にも気付いたのである。


(ツッキーに木刀! これで籠宮の叔母さんから聞いた宝物で、部屋に置きっ放しにされてそうなものは、全部見付かったみたいだな!)


 とりあえず、慧夢は可能性が高そうなツッキーから、斧による破壊を試みる。

 斧の刃をツッキーの首に当てて、抉る様に動かして穴を開けると、穴に両手を突っ込んで左右に引っ張り、引き千切って首と胴体を分離させる。


 血や内臓の様に、やや黄ばんだ中綿なかわたが周囲に飛び散る。

 更に、慧夢はツッキーの胴体に手を突っ込み、中綿を掻き出す……ツッキーが空っぽになる程に。


(これで、どうだ?)


 既に破壊は十分だろうと認識した慧夢は、手にしていたツッキーの残骸を座布団の上に放り投げると、成り行きを見守る。

 だが、今度も夢世界の崩壊の兆しは見えず、数十秒が過ぎてからツッキーの残骸だけが粒子化し、元の姿に戻るだけであった。


 ツッキーが夢の鍵では無かった事に失望しつつ、慧夢は残りの候補である木刀の破壊を試みる。

 ベッドの上にあった枕の上に、木刀の半分を載せて左手で押さえ、右手に持った斧を木刀の押えていない方に振り下ろす。


 そうすれば、木刀が切断されても、落ちるのはベッドの上。

 木刀が床に落ちて音を響かせ、階下にいるかもしれない陽志に気付かれる可能性が低い。


 慧夢は斧を振り下ろし続けるが木刀は堅く、余り音を立てない様に気遣いながらでは、ろくに切れ目も入らない。

 何度斧を振り下ろしても駄目なので、つい斧を振り下ろす勢いが増してしまう。


(ちょっと音が響き過ぎかな? いや、これくらいなら下までは聞こえないだろう。後は木刀だけなんだし、多少……音が響く危険を冒しても、ここは木刀を破壊すべきだ)


 そう考えた慧夢は、増したままの勢いで、斧を木刀に振り下ろし続ける。

 結果、響く拍子木の様な音は強まるが、何とか一本目の木刀の切断に成功。真っ二つにされた木刀の成り行きを見守りつつ、慧夢は二本目の破壊に取り掛かる。


 ところが、夢世界は崩壊の兆しを見せぬまま、程無く真っ二つにされた木刀は粒子化し、何事も無かったかの様に元の姿に戻ってしまった。


(一本目は駄目か。二本目は?)


 落胆しながらも斧を振り下ろし続け、何とか二本目を切断し終えた慧夢は、三本目の切断に入りつつ、二本目の木刀の様子を観察。

 だが、二本目も外れであり、夢世界に変化は無く、木刀は切断前の姿に戻ってしまう。


(何だこれ? 三本目……えらい堅いじゃないか!)


 他の二本と違い、三本目は相当に堅い木材で作られているらしく、かなり勢い良く斧を振り下ろしても、切断する事が出来ない。

 何とか四分の一程、切れ目を入れるのがせいぜいといったところ。


 中々に切断出来ない木刀相手に、慧夢の焦りは増し、それに比例して斧を振り下ろす勢いも、更に増してしまう。

 慧夢は先程までとは違い、下まで響かないと思われるレベルで、斧で木刀を切りつける音を、抑える事に失敗してしまった。


 更に勢いが増したとはいえ、決して大きな音を立てた訳では無い。

 普通なら階下にいる陽志でも、聞き逃していたかも知れない程度の音。


 だが、不審な出来事が続いていた為、やや神経が過敏になっていた陽志は、その音を聞き逃しはしなかった。

 庭から居間に戻っていた陽志は、二階から僅かに響いて来る、何かを叩く様な連続した音を耳にして、二階に誰かがいるのではと思い始めていた。


 思い始めてはいたのだが、気のせいや聞き違いである可能性も、音の原因が鼠や家鳴りの可能性もあるので、二階に侵入者がいるという確証が、陽志にある訳ではない。

 確証が無い段階で、警察を呼ぶ訳にもいかないと考え、とりあえず陽志は確証を得る為、二階の様子を探りに行こうと決意。


 音を立てぬ様に忍び足で、居間から玄関ホールに移動すると、傘立てに立ててあった木刀を手に取る。

 そして階段の方に移動して立ち止まり、二階を見上げつつ聞き耳を立てる。



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