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125 何か良い匂いがするな、素似合や五月の部屋と違って

(何か良い匂いがするな、素似合や五月の部屋と違って)


 数少ない入った事がある、幼馴染である少女の部屋では嗅いだ覚えが無い匂いに、慧夢の心は僅かにざわつく。

 甘くて爽やかな、柑橘類を思わせる匂いだ。


 とりあえず物色し始めた箪笥の上を目にして、慧夢は匂いの原因に気付く。

 箪笥の上には、フルーツアイスのカップを逆さに置いた感じの形の、室内用芳香剤が置かれていた。


(成る程、これシトラスの匂いなんだ。部屋の匂いとか気を遣うのね、籠宮は)


 殆ど男の部屋と変わらない匂いの素似合の部屋や、本屋や図書館と似た匂いがする程度に本だらけの五月の部屋しか、慧夢は女の子の部屋は知らない。

 匂いからして女の子っぽい感じがする志月の部屋は、慧夢には不慣れで微妙に居心地が悪い。


(ま、余計な事は気にしないで、さっさと夢の鍵候補を壊しまくろう)


 とりあえず、箪笥の上で目立つ存在感を放っている、ツキノワグマを象った茶色いマトリョーシカに、慧夢は手を伸ばす。

 手に取ったマトリョーシカの上下を引っ張って分離させると、中に入っていた少し小さいツキノワグマのマトリョーシカが姿を現す。


(うん、マトリョーシカだ。でも、ロシアならツキノワグマじゃなくてシロクマとかじゃないのかな……なんて事は、どうでもいいから壊そう!)


 慧夢はマトリョーシカを手にしたまま、志月のベッドの前まで移動。

 ポケットから取り出した斧を右手に持ち、ベッドの上に置いたマトリョーシカに振り下ろす。


 パキン……という音を立てながら、マトリョーシカはあっさりと砕け、破片がベッドの上に飛び散る。

 わざわざベッドまで移動したのは、破片が床に直接落ちると、階下にいるかもしれない陽志に、音が響いて聞こえてしまう可能性があると、慧夢が警戒した為。


 十秒程、慧夢はマトリョーシカの破片を眺めつつ様子を見るが、夢世界が崩壊する兆しは無い。

 その代わりに、壊したばかりのマトリョーシカだけがカラフルな粒子群となり、崩れ始める。


(これは外れか)


 元の形に戻り始める粒子群を眺めつつ、慧夢は肩を落とす。

 再生を終えたマトリョーシカを手に取ると、慧夢は箪笥の前に移動。


 慧夢はマトリョーシカを元の場所に戻し、その近くに置いてあったマグカップを手に取る。


(次は、これだ)


 マグカップはツキノワグマの頭を象った、実用性を無視したデザイン。

 本来は胸の辺りにある三日月風の斑紋が、マグカップの底の近く、ツキノワグマの頭の下の方に描かれる形のデザインになっている。


 可愛いのか不気味なのか判断に困るマグカップを手に、慧夢はベッドの前まで移動する。

 今度もベッドの上に置いたマグカップに、慧夢は斧を振り下ろす。


 濁った音を響かせつつ、慧夢はツキノワグマの頭をかち割る。

 粉々に砕けた茶色いマグカップの破片の様子を、慧夢は眺め続けるが、今度も粒子群となって分解してから、元の姿に戻ってしまう。


 マグカップを元の位置に戻した慧夢は、箪笥の引き出しの中から見つけ出した、指輪などのアクセサリー類を、机の引き出しの中から三日月模様の九谷焼のコンパクトミラーを探し出し、続け様にベッドの上で破壊。

 どれも夢の鍵では無かった為、今度は本棚からツキノワグマ関連の本を探し出すと、慧夢は次々と破り始めた。


 ツキノワグマの写真やイラストが印刷されていた紙が、大雑把に破かれて紙片となり、本棚の前に散らばる。

 だが、それらは片っ端から粒子群に分解した後、元の本の姿に戻ってしまい、夢世界が崩れ去る事も無い。


(ツキノワグマ関連が駄目なら、本好きで兄貴から色々貰っていたらしいし、他の本も試してみるか……)


 メインの本棚だけでなく、学習机の上にある小さな本棚にあった、ツキノワグマと無関係な本も、慧夢は片っ端から破いてみる。

 だが、それらも全て夢の鍵ではなく、元通りに戻ってしまった。


(本は駄目か。これで、籠宮の叔母さんの話に出て来た奴で、籠宮が身につけてる指輪を覗いて、まだ試していないのは……)


 慧夢は室内を見回しつつ、その試していない物を探す。

 すると、ベッドの向こう側に、茶色い毛だらけの玉の様な何かが見えるのに、慧夢は気付く。


 ベッドの上に物を置いて、壊しまくっていた時から、何となく目に入ってはいたのだが、何だか良く分からない物だったので、慧夢は確認してもいなかったのだ。


(そういえば、あれ何なんだろ?)


 慧夢はベッドの向こう側に移動し、その何かの正体を確認する。



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