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124 籠宮の叔母さんが言ってた、籠宮の「宝物」も、この中にあるんだ

(二階だけでも六部屋って、旅館じゃあるまいし!)


 周りを見回し、大雑把に部屋数を数えてから、慧夢は志月の部屋と、玄関側の左端にある部屋の位置を確認。

 まずは玄関側の左端にある部屋に、慧夢は向う。


(とりあえず、あの部屋の窓の鍵を開けておこう。そうすれば、次に忍び込む時に、窓を割らずに済む)


 二階の中央にある廊下を通り、慧夢は目指す部屋の前に移動。

 廊下の左右に夫々(それぞれ)三つの部屋があり、旅館風の見た目であるが、旅館とは違ってドアには鍵が無い。


(鍵が無くて良かった。鍵があって施錠されてたら、窓割るしか無くなるからな)


 慧夢は心の中で安堵しつつ、木造で和風の横開きのドアを開け、目指す部屋への侵入を果たす。


(物置状態だな、どうりで人が出入りしない訳だ)


 畳敷きの六畳程の和室には、段ボール箱や木箱が、あちらこちらに置かれていた。

 本や雑誌の類、古びて傷だらけのスーツケースなどが、ぞんざいに積まれたりもしていた。


 出入りする場合の為に、足場は確保されているので、窓がある所まで歩けない訳では無いのだが、歩き難い。

 歩けば埃も舞い上がるし、空気自体も淀んでいるので、長居はしたくない部屋だと思いながら、慧夢は部屋の中を歩いて行く。


(土足で歩いても気がひけない程度に、埃だらけだね……この物置みたいな部屋は)


 窓がある壁まで辿り着いた慧夢は、窓を開けて部屋の空気を入れ替えたい誘惑に駆られそうになるが、陽志に気付かれる可能性が高まるのを警戒し、誘惑を抑え込む。

 窓の鍵だけを開けると、すぐに部屋を出てドアを閉める。


(――これで、一階の屋根に上れば、窓を割らずに屋敷の中に侵入出来る。今回だけで夢の鍵候補を確かめ終わらなかった場合は、ここの窓から入ればいい)


 周囲を見回しつつ、慧夢は心の中で続ける。


(次は籠宮の部屋だけど……あそこかな?)


 慧夢の目線の先にあるのは、物置状態の部屋とは反対側の端、庭に面している側にある、志月の部屋のドア。

 慧夢は外から屋敷を覗いて、志月の部屋の位置は把握していた。


 忍び足で廊下を歩き、慧夢は志月の部屋の前に辿り着くと、音を立てぬ様に気づかいながらドアを開け、緊張しつつ中を覗き込む。

 慧夢の目に、白い光景が飛び込んで来る。


 和室なのだが、それでいて家具などは洋風。

 ベッドのシーツや布団も白なら、箪笥や化粧台、机や椅子なども白で統一されている。


 陽光を柔らかに殺ぐカーテンも白いレース、白くない和室としての要素が残っている部分は、枯草色の塗壁ぬりかべと、柳茶色やなぎちゃいろの畳くらいだろう。

 そんな白い部屋の光景に、慧夢は既視感デジャヴを覚えた。


(ああ、杉山の夢の中で見た、籠宮の部屋に似てるんだ。確かあの部屋も、病室みたいに真っ白だったもんな)


 慧夢は絵里の夢の中で目にした、舞台上に再現されていた志月の部屋を思い出す。

 明確に記憶している訳ではないのだが、白い物で埋め尽くされた部屋だったのは覚えていたのだ。

 厳密にいえば、舞台セットとして再現されていた、絵里の夢の中での志月の部屋は、現実同様に再現されていると思われる、志月の夢の中で再現された部屋とは、似てはいるが細部が異なる。

 絵里の夢の中では壁なども白かったし、幾つかの物が欠けていたのだ……例えばクマ関連のグッズなどが。


 志月の部屋に入った慧夢の視界には、部屋のあちらこちらに飾られているクマ関連のグッズの姿が、飛び込んで来たのだ。

 音を立てぬ様にドアを閉めてから、慧夢は部屋の中を見渡しつつ、呆れ気味の半目の表情を浮かべ、心の中で呟く。


(ツキノワグマ好きで、グッズ色々持ってるのは知ってたが、ここまでとは……)


 慧夢が目にしている志月の部屋には、様々なクマ関連のグッズがあった。

 言うまでもなく、本物の志月の部屋に近いのは、絵里の夢世界で目にした方ではなく、今慧夢が目にしている、志月の夢世界の方。


 絵里の夢世界で再現された志月の部屋に、クマ関連グッズが存在しなかった理由は、慧夢には分からない。

 絵里がクマに興味が無いせいなのかもしれないし、舞台上でのシリアスな会話に、ファンシーな感じのが多い、志月所有のクマ関連グッズが似合わないと判断し、舞台セットから削っただけなのかもしれない。


 志月や志津子などの、現実世界が余りにもリアルに再現される夢世界の方が、むしろ珍しい存在。

 現実と似ていても色々と違ったり、変だったりする絵里の夢世界の方が、普通の夢世界なのだと言える。


(籠宮の叔母さんが言ってた、籠宮の「宝物」も、この中にあるんだ)


 慧夢は志津子から聞いた、志月の様々な宝物についての話を思い出しながら、志月の部屋の中を、物色し始める。

 女の子の部屋の中を物色するという行為に対し、仄かな背徳感を覚えつつ。



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