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123 ま、駄目元で試して見るか

 数奇屋門を出た辺りで、慧夢は一度立ち止まり、門の方を振り返りつつ、聞き耳を立てて気配を探る。

 自分を追いかけて来る足音もしなければ、近付いて来る気配も無い。


(――? 俺に気付いた訳じゃないのかな?)


 とりあえず、慧夢は自転車を停めてある辺り……塀の向こうに籠宮家の庭がある道に移動し、自転車を踏み台にして、庭の中を覗き込む。

 庭の中にいるかもしれない陽志に、気付かれぬ様に気配を消しつつ。


(何だ、観葉植物に水やる為に、庭に出ただけかよ!)


 陽志は如雨露じょうろで、観葉植物に水をやっていた。

 慧夢から見て縁側の左側にある棚に、植木鉢などに植えられた観葉植物が並んでいるのだが、その観葉植物に水をやる為に、陽志は庭に出たのだった。


(驚かすなよ、全く……)


 自分が見付かった訳ではないのを確信し、慧夢は胸を撫で下ろす。

 そして、安堵したせいか、目に映る光景を冷静に分析する余裕が生まれ、縁側の窓が開けっ放しになっているのに気付く。


 更に、数奇屋門の方を振り返った際、木造の門の脇に設置してあった、呼び鈴のボタンを目にしたのを思い出す。

 開け放たれた窓と呼び鈴のボタンが、慧夢の頭の中で繋がる。


(あれ? 今……呼び鈴のボタン押して呼び出したら、窓を開け放しにしたまま、籠宮の兄貴が玄関の方に来て、その隙に窓から屋敷内に侵入出来たりしないかな?)


 呼び鈴が庭にいる陽志には聞こえないかもしれないし、窓を閉められてしまう可能性もある、インターホンが居間の近くにあって、窓が開いていても侵入出来ないかもしれない。

 慧夢は色々と考えを巡らせた上で、意を決する。


(ま、駄目元で試して見るか)


 慧夢は早速、自転車から飛び降りると移動を開始。

 数奇屋門の前で立ち止まると、一度深く深呼吸し、心を落ち着かせた上で、呼び鈴のボタンを押す。


 門の外にいる慧夢ですら聞き取れる、かなりやかましい呼び鈴の音が、屋敷中に響き渡る。

 音自体は有り勝ちな奴だが、広い屋敷中に響く音量に設定されているせいか、音量が並では無いのだ。


 当然、呼び鈴の音は庭にいる陽志の耳にも、届いたのだろう。

 屋内にあるインターホンの場所まで、移動するのが面倒だとでも言わんばかりに、庭から大きな陽志の声が響いて来る。


「ちょっと待って下さい! 今行きます!」


 直後、先程慧夢が庭から玄関に移動した、屋敷の周りの通路を、人が速足で歩いて来る気配を、慧夢は察する。

 家の中に入るのが面倒だったのか、陽志が庭から直接、門の方に向っているらしい事に、慧夢は気付く。


(窓を閉めた音はしなかった! チャンスだ!)


 慧夢は脱兎の如く駆け出し、自転車を停めた場所まで移動。

 自転車を踏み台にして塀を乗り越え、籠宮家の庭に飛び降りる。

 音がしなかったので、予想はしていたのだが、窓が開けっ放しになっている光景が、慧夢の視界に飛び込んで来る。


(戻って来る前に、中に入らないと!)


 門の外に誰もいないのに、陽志はすぐに気付いて、庭に戻って来る筈なので、時間は僅かしか無い。

 玄関に通じている通路がある、庭の右端の方を気にしながらも、慧夢は慌てて庭の中をダッシュすると、開いたままの窓から縁側に上る。


 ぎしり……と、古びた板張りの縁側が、嫌な音を立てる。


(やばい! いや、でも気付かれる程の音じゃない!)


 慧夢は冷や汗をかきながら、縁側で周囲を見回す。

 そして、音を立てぬ様に忍び足で、縁側の右端まで移動すると、左側に曲がる。


(この先に、玄関と階段がある感じだったんだが……)


 屋敷の中の様子を、外から窺っていた時、階段は玄関の近くにあるらしいのを、慧夢は察していた。

 縁側の右端を左に曲がった先に、その玄関と階段がある筈だと、慧夢は考えているのだ。


(廊下長いな、おい! 学校のプールくらいの長さあるぞ!)


 広い屋敷を横切る廊下は長い。その長い廊下の中央辺りが玄関ホールとなっていて、土間から見て対面の、やや右側にずれた辺りに、二階へと通じる階段がある。

 玄関と階段の位置は、ほぼ慧夢の想定通り。


 忍び足……それでいて足早に、慧夢は階段を目指して廊下を進んで行く。

 呼び鈴が悪戯だと思い込んだ陽志が、口にしている文句らしき声が、庭の方から聞こえて来る。


(あっぶねー! もう少し遅れたら、見付かってたかも!)


 陽志が庭に戻る前に、庭からの死角となっている廊下に入れた事に安堵しつつ、慧夢は廊下を進み続け、階段の前に辿り着く。


(何せ古い屋敷だから、階段も音を立てない様に、静かに上らないと)


 慎重に右足で階段を上り始めるが、慧夢が階段を踏むごとに、僅かにではあるが板は軋む。

 陽志が庭にいれば聞こえはしないだろうが、陽志が何時いつ屋敷内に戻るか分からないので、慧夢は油断出来ない。


 そして、慧夢は何とか陽志に気付かれずに、二階へと辿り着く。



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