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122 ま、どういう理屈で籠宮の兄貴の周りに、凍らない領域があるのかは、情報が足りない段階で考えても無駄か

 凍りつかない領域の操作に加えて、志月の無意識的な部分は、夢世界における志月本人のキャラクターだけでなく、家族や友人などのキャラクターの言動までも操作した。

 周囲のキャラクターの言動により、経験した死の記憶や、目にしてしまった凍りついた領域に関する記憶を、陽志に夢だと思い込ませようとしたのである。


 結果、志月の無意識的な部分の目論見は、基本的には成功した。

 違和感が完全に払拭された訳では無いのだが、陽志の霊魂は自分の死や目にした異常な光景を、自分の夢だったのだろうと思う様になり、志月の幸せな夢世界を壊し得る存在では無くなった。


 志月の無意識的な部分に、この様な事が出来たのは、チルドニュクスが夢世界に作り出した、夢の鍵の助力があったからである。

 夢の鍵は、夢世界の一部機能を封印するだけでなく、夢の主に幸せな夢を見せる為に、夢の主の無意識的な部分に、夢世界を限定的な範囲ではあるが、コントロール出来る力を与えるのだ。


 このコントロールは、志月や陽志が川神市の外部と、何らかの形でアクセスしようとした際にも行われ、夢世界に様々な現象を引き起こす。

 例えば、インターネットや電話で外部と連絡を取ろうとすれば、通信会社のトラブルが発生し、それは不可能な状況となる。


 川神市から外に出ようとすれば、交通機関が事故を起こし、出るのは不可能になる。

 陽志が電車で、川神市を出ようとした時の様に。


 テレビやラジオなどの一方通行のメディアは、一応機能しているのだが、放送されている番組は、志月が過去に見たり聴いたりした番組や、番組を元に再構成されたものばかりだ。

 こういったコントロール下にある夢世界に、陽志は違和感を覚えながらも、自分が夢世界に紛れ込んだ死霊である事には気付かずに、居続けているのである。


 現時点では夢世界の維持管理を担当する、志月の無意識的な部分とだけ、夢の鍵は協力している。

 故に、それらの裏工作の如き作業に、志月の意識的な部分は、これまでの所は気付いてはいない(無意識的な部分からの影響で、陽志を騙すのに協力するが、それは意識t気な部分の願望に沿っている為、影響を受けている自覚を持たない)。


 つまり、夢世界における志月のキャラクターと同一化している、意識的な部分の志月は、自分が夢を見ている事にすら気付かず、生きている(という設定の)陽志との生活を、夢世界の中で楽しみ続けているのだ。


(ま、どういう理屈で籠宮の兄貴の周りに、凍らない領域があるのかは、情報が足りない段階で考えても無駄か)


 答が出ないだろう問題よりも、優先して考えるべき問題が、慧夢にはあった。


(それよりも、どうやって籠宮の兄貴に気付かれず、屋敷の中に忍び込むかを考えた方がいい)


 屋敷の中に存在する、夢の鍵の候補を破壊するには、まず屋敷に忍び込まなければならない。

 観察も大事だが、何時までも観察ばかり続けても、先には進めない。


 策を立てて行動に移さなければ駄目なので、慧夢は屋敷内に入る方法について、思考を巡らす。


(多少強引だけど、音を立てない様に気をつけて、窓を割って強引に入るか? 窓自体は時間が経てば修復される可能性もあるし、籠宮の家族が使わなそうな部屋の窓なら、修復されなくても、気付かれない可能性も高い筈)


 夢の主が破壊される事を望まない物は、キャラクター同様に、時間が過ぎれば再生する可能性が高い。

 故に、陽志に窓ガラスを割る音を気付かれなければ、破壊した窓ガラスも元に戻る可能性が高く、割れた窓を発見されて、侵入に気付かれる可能性は低い。


 あくまで可能性が「高い」だけなので、再生しない場合もある。

 そんな場合でも、この夢世界での籠宮家の者達が、余り出入りしない部屋なら、割れたままの窓ガラスが見付からず、侵入に気付かれる可能性は低いのではと、慧夢は考えた。


 そして、昨夜以降の籠宮家の観察により、慧夢は籠宮家の人間が出入りしない部屋の見当をつけていた。


(二階の玄関側の左端にある部屋、夜も朝も……誰も入らなかった。あそこの窓なら、割っても気付かれる可能性は低いかも。位置的にも居間から遠いし、音も聞こえ難いだろうし……えッ?)


 二階にある部屋の窓を静かに割り、侵入する方向で考えをまとめていた慧夢は、胸を鷲掴みにされたかの様なショックを受けつつ、心の中で驚きの声を上げる。

 慧夢が驚いた理由は、居間の中にいた陽志が突如立ち上がり、縁側の方に歩いて来たのを目にしたからだ。


(やばい、気付かれたか?)


 縁側の窓越しに居間の中を覗き込んでいた慧夢は、驚き焦りつつ縁側の窓の前から退避。忍び足かつ早足で玄関の方に逃げ去る。

 直後、遠ざかる庭の方で窓を開く音がするのを、慧夢は背中越しに耳にする。


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