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121 どうしたもんかね?

 籠宮総合病院を後にした慧夢は、籠宮家を訪れた。

 慧夢の目的は、屋敷内にある夢の鍵の可能性が高い物の破壊。 

 大志と陽子は病院、志月は学校に行っているので、屋敷内にいる可能性があるのは陽志だけ。

 陽志が屋敷にいなければ、どこかの窓を破って侵入し、夢の鍵候補を探し出して破壊しまくる所なのだが、物事はそう簡単には行かない。


 慧夢にとっては残念な事に、屋敷内には今回も陽志がいた。

 昨日とは違い、縁側の窓を閉めたまま、陽志は居間で読書中。


 窓を閉めて、ダイニングキッチンではなく居間で読書をしているのは、陽志が昨日と同じ状況での読書を、無意識的に避けているせいだ。

 夢だと思い込んではいるものの、昨日の慧夢による襲撃の記憶による、影響といえる。


(どうしたもんかね?)


 昨日同様、慧夢は庭に忍び込んで、窓から屋敷内を覗き込んでいた。

 無論、陽志の死角に入る様に、注意しながら。


 玄関など他の入り口の施錠は完璧、窓を破れば音で陽志に気付かれる可能性が高いので、今の所は屋敷内に侵入出来る状況では無い。

 仕方なく、慧夢は暫くの間、陽志の観察を続ける事にした。


 結果、慧夢は昨日は気付かなかった、自分と陽志の違いに気付く事が出来た。

 慧夢と陽志は同様に、夢世界の外から紛れ込んだ存在であり、凍った領域でも自由に動けるのだが、その上で状況には違いがあるのに慧夢は気付いたのだ。


 その違いとは、陽志の周囲には……僅かではあるが、凍っていない領域が存在している事。

 今の状況で言えば、屋敷自体は凍っている領域の中にあるのだが、陽志がいる居間の中だけは、凍っていないという感じ。


 その事に慧夢が気付いたのは、居間の壁に掛けられた時計が時間を刻んでいるのに、気付いたせいだった。

 慧夢も凍った領域の中で何かを操作すれば、その物を動かせるのだが、居間の時計は陽志が操作せずとも動き続けていた為、居間が凍っていないのに、慧夢は気づけたのである。


(どういう事だろう? 幽体と違って霊魂の周囲は、凍らないのか? それとも、籠宮の兄貴が不信感を抱かない様に、籠宮の夢世界や夢の鍵が、籠宮の兄貴の周囲だけは、凍らない様にしているのか?)


 慧夢は理由を色々と考えてみるが、答は出ない。

 答えを出すには情報も時間も足り無すぎるので、それは当たり前といえるが、慧夢の推測は割と正解に近いものだった。


 実際は、霊魂が夢世界に紛れ込んだ場合、幽体である慧夢同様に行動出来る場合が多い(霊力が低い霊魂には、夢芝居能力が低い者同様、自由自在とは行かない場合もあるが)。

 その上で本来なら、夢世界に霊魂が迷い込んだ場合、夢の主と一定以上に離れたら、霊魂自体は行動可能であっても、その周囲の領域は凍りつく筈なのだ。


 それでは何故、陽志の周囲に、僅かに凍らない領域が確保されているのかといえば、それは志月の幸せな夢世界を守る為。

 陽志が死の自覚を持てば、この世界が現実では無いのにも気付くだろうし、そうなれば志月は幸せな夢世界を楽しめなくなってしまう。


 死霊……霊魂となり、志月の夢世界に入った直後、死んでいる筈の自分が、志月達と普通に暮らしている事に、陽志は違和感を覚えた。

 志月が学校に行っている間、自分の周りの世界が凍り付いている光景も、陽志は目にしてしまっていた。


 異常な状況を認識した陽志は、当然の様に混乱した、志月の望んだ陽志と過ごす、幸せな夢世界を壊しかねない程に。

 この段階で志月の無意識的な部分……夢世界を作り出し維持している部分が、陽志が自分の望み通りに動く人形……つまり、自分が作り出したキャラクターでは無いのに気付いたのだ。


 そこで、志月の無意識的な部分は、陽志を騙し切る事を決めた。

 まずは陽志が凍りついた領域を目にしないで済む様に、自分の意識的な部分が同一化している、夢世界の志月のキャラクターの様に、周囲が凍りつかない設定にしたのである。


 二つのキャラクターの周囲を凍らない様にするのは、夢世界にとってはイレギュラーな設定であり、夢世界の負担は軽くは無い。

 その結果、志月のキャラクター程の範囲は確保出来ず、陽志の目が届く狭い範囲に限定された上で、陽志の周囲の領域は凍りつかなくなった。


 要するに、「籠宮の兄貴が不信感を抱かない様に、籠宮の夢世界や夢の鍵が、籠宮の兄貴の周囲だけは、凍らない様にしているのか?」という慧夢の推測は、だいたい当たっているのだ。

 根拠となる情報が少ない為、慧夢自身は確信するには至らない、ただの推測でしかなかったのだが。


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