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113 スケベな目的で覗こうというんじゃなくて、あくまで人命救助の為、仕方が無く覗くんだからな

 そして、入浴中の志月を覗いた方が良い理由が、今の慧夢にはあるのだ。


(指輪……外していないとは思うんだが、外して入っていたとしたら、入浴時に脱衣所から持ち出して、籠宮に気付かれない様に、破壊出来るかもしれない)


 テレビ番組か何かで、女性タレントが入浴中や洗顔……水仕事の時などに、指輪を外すという話をしていたのを、慧夢は聞いた事があった。

 指輪の金属の種類によっては、変色などのトラブルの原因になり得るというのを、女性タレントは入浴や水仕事の際、指輪を外す理由として挙げていた。


 母親の和美が米を研ぐ時に指輪を外していたのを、目にした経験もあった為、水や湯を扱う時に、女性は指輪を外す可能性があると、慧夢は考えているのだ。


(指輪を外しているかどうか、確認したいけど……覗きはまずいだろ! しかも、クラスメートの裸を!)


 現実世界における常識的なモラルが、慧夢を抑制しようとする。

 だが、そもそも現実世界ではない夢世界で、そんなモラルに縛られる方が馬鹿らしいという考えが、慧夢に覗きをそそのかす。


(籠宮の兄貴を斬殺する様な真似しといて、今更クラスメートの裸を覗く位の事で、罪悪感とか覚える必要ないだろ! この世界は現実じゃないし、籠宮も本物同然とはいえ、身体の方は夢世界が作り出した、偽物なんだし!)


 頭の中で、現実世界における常識的なモラルを持った慧夢と、目的を果たす為なら、現実世界のモラルに反する行為でも、やるべきだと考える慧夢が、争い始める。

 少しの間、頭を抱えて悩んだ挙句、慧夢は答を出す。


(もう人殺しまでやってるのに、今更覗き程度に罪悪感とか覚えてるのは、確かに馬鹿らしいか。入浴時に指輪をどうしてるか知るのは、夢の鍵を破壊する為には重要、ここは覗いておくべきなんだ)


 心の中で何も引っかからない訳では無かったが、そう決意した慧夢は、すりガラスを濡らす為の水を調達する為、移動を開始。

 庭の近くにある水道まで移動すると、右手で蛇口を捻り、器とした左掌に水を注ぐ。


 水を零さぬ様に浴室の近くに戻ると、慧夢は右手の指先を左掌の水に浸し、面格子の中に突っ込む。

 右手の指先を筆、水を墨として、慧夢は窓に水を塗る。


 慧夢の顔と同じ面積程の、すりガラスの外側の水を塗られた部分から、曇りが消える。


(スケベな目的で覗こうというんじゃなくて、あくまで人命救助の為、仕方が無く覗くんだからな)


 心の中で自分に言い訳をしつつ、慧夢は背伸びをして、濡らした部分から浴室を覗き始める。

 心の中の言い訳とは裏腹に、思春期の少年として当然といえるレベルの、性的な好奇心は持ち合わせている為、慧夢の胸は当然の様に高鳴ってしまう。


 だが、窓から覗いた光景は、その高鳴りを裏切るものだった。

 すりガラスの内側も水蒸気で曇っている為、まだ完全に透けているとは言えない状態だったので。


 肌色の人影は視認出来るが、その姿は朧気おぼろげであり、性的な好奇心を満たせる代物では無い。

 無論、指輪をはめているかどうかの確認も、出来はしない。


(そっか、風呂場には水蒸気もあったんだ。これじゃ駄目か)


 期待が裏切られ、がっかりと慧夢が肩を落とした直後、すりガラスの内側を水滴が流れ、水蒸気で曇ったすりガラスに、数条の線を描く。

 ガラス窓に付着した水蒸気が水滴にまで育ち、すりガラスの内側を流れたのだ。


 そして、水滴が流れた部分は水蒸気の曇りが流されてしまい、完全に透けた状態になった。

 しかも、水滴は幾つも流れ落ちた為、すりガラスの透けた部分は、慧夢が浴室を覗くには、十分な面積となってしまった。


 慧夢の目に、浴室の光景が飛び込んで来る。

 浴室は四畳半程の広さがあり、一般家庭並みといえる夢占家の浴室の、倍はある広さ。


 浴槽も壁も、床に敷かれたすのこに至るまでが檜作り。

 経年劣化のせいか、一部に黒ずんだ染みに見える部分はあるが、清潔感と上品さは保たれている。


 それなりの宿代を取る旅館の浴室と言われても、信じてしまいそうな籠宮家の浴室は、慧夢にとっては珍しい存在。

 本来なら慧夢は浴室自体にも、多少なりと興味を惹かれても、おかしくは無い場面。


 だが、慧夢の興味は浴室には、一切惹かれなかった。

 慧夢から見て浴室の左側に据え付けられている浴槽に、窓の方を向いて座りながら、湯に浸かっている志月の裸体の方に、慧夢の興味は完全に惹き付けられてしまったので。



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