表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/232

112 ほんとまぁ、ろくに知りもしないで……思い込んでる事が多いもんだ。いや、でも……考えてみれば、籠宮に限った事じゃないか

 残響音リバーブのかかった楽しげな鼻歌が、屋敷の中から聞こえて来る。

 浴室に入ったばかりの志月の鼻歌が、壁一枚隔てた屋敷の外にいる慧夢に、聞こえて来るのだ。


 夕食の後の一時間程、籠宮家の四人は居間で過ごしていたのだが、大志から順に風呂に入り始めた。

 そして、最後に志月が風呂に入る段階となり、慧夢は情報収集の為に、風呂場の近くに移動した訳である。


 無論、浴室を除く気は慧夢には無いし、浴室自体も面格子や透けないガラスを窓に使用するなど、覗けない様にする為の対処も為されている。

 あくまで独り言を盗み聞く程度のつもりで、慧夢は浴室の外に移動し、壁によりかかりながら、志月の鼻歌を耳にしていた。


 湯船に浸かる音がして以降は、鼻歌ではなく、志月は歌詞を口ずさみ始めた。


(何て曲だっけ、これ? 確かアイドルが歌ってる、何かのCMで流れてる曲だったと思うけど)


 女性アイドルグループの曲だというのは分かるのだが、タイトルまでは慧夢には思い出せなかった。


(――それにしても、アイドルの歌を楽しそうに歌うキャラだったのね、籠宮って。知らなかった)


 女性アイドルグループなどは、ファンの男子生徒まで一まとめにして、馬鹿にしていそうだというのが、志月が勝手に抱いていた志月のイメージだったのだ。

 それが、風呂に入りながら、楽しそうに女性アイドルグループの歌を歌ったりしたものだから、慧夢は意外に思ったのである。


(ほんとまぁ、ろくに知りもしないで……思い込んでる事が多いもんだ。いや、でも……考えてみれば、籠宮に限った事じゃないか)


 人は知れば知る程、意外な面を目にする事ばかり。

 関係が深まるなどして、相手の事を良く知る様になれば、自分が最初に思っていたイメージと違う色々な面を、目にする様になるのは当たり前の事。


 慧夢の場合は、相手との関係が深まる以前に、夢の中に入ったり、入る前後に幽体として寝室に忍び込んでいる時に、そのイメージと違う意外な面を、知ってしまう場合も多い。

 一見、魅力的な大人の女性である志津子が、全く男性に縁が無く生きて来たのを、知ってしまった時の様に。


 夢世界の中で聞いた「乙女」の意味を、夢世界から出て幽体となった状態で、志津子の独り言を聞いて知った時の事を思い出し、慧夢は心の中で呟く。


(籠宮の叔母さんも、色々と意外な事だらけの人だったな)


 慧夢は夢世界に入った相手と、その後現実でも深く関わり合いになる事が多い。

 その後、志津子とは現実でも関わり合いが出来てしまい、慧夢は他の意外な面をも知る事になった。


 軍用車両を街中で乗り回すレベルの、重度のミリタリーマニアだったり、異常な大食いだったりするという、見た目からは想像出来ない意外な一面を。


(案外、この夢世界から出られたら、現実世界で籠宮と、深く関わり合いになったりするのかもな。いや、それは無いか……)


 慧夢が心の中で呟いた直後、浴室からシャワー音らしき大きな音が響いて来たので、慧夢は反射的に目線を右上にある、浴室の窓に移動させてしまう。

 木目調の色合いの面格子に覆われた、すりガラス製の窓なので、目線を移動させても明るい窓が目に入るだけで、中の様子は見えたりはしないのだが。


(身体か頭を、洗い流してるってとこか……)


 浴室の窓を見上げつつ、心の中で呟いた慧夢は、中が見えない様に曇っているガラス窓が、すりガラスらしい事に今更気付く。

 その微妙にザラついた表面を、検めて見詰めたせいで。


(フロストガラスじゃなくて、今時すりガラス使ってんの? 古い屋敷だからか?)


 風呂場など覗かれたら困る窓に、昔は良くすりガラスが使われていた。

 だが、汚れ易い事などから、同様に人目を程良く遮れる曇っているガラスである、フロストガラスなどが使われる場合が増えた。


 籠宮家が古い屋敷である為、すりガラスが昔のまま、使い続けられているのではと、慧夢は考えたのだ。

 そして、慧夢の頭の中に、すりガラスに関する雑学が、浮かんで来る。


(あれ? 確かすりガラスって……ざらついてる面にセロハンテープ貼ったら、透けて見えるんじゃなかったっけ?)


 すりガラスは表面が凹凸している為、光が乱反射して透明度を落している。

 ところが、セロハンテープを貼ると、表面の凸凹が消えてしまい、乱反射効果も抑えられるので、透けて見える様になってしまうのを、慧夢は思い出したのだ。


(まぁ、セロハンテープ無いから、実行は無理だけど……)


 心の中で呟いた直後、慧夢の頭に関連する雑学が、更に浮かんで来る。


(いや、無理じゃない! 確か水で濡らすだけでも、同じ効果があるんじゃなかったか?)


 要は表面の凸凹を消せばいいので、水で濡らせば凹の部分に水が入って凹凸が消え、セロハンテープを貼った場合と同様に、すりガラスは透けてしまうのを、慧夢は思い出した。

 そして、セロハンテープと違って水は即座に入手が可能なのを、慧夢は知っていた。


 庭の植物に水をやったりする為の物だろう、建屋の外側……庭の近くに蛇口があるのを、慧夢は籠宮家の敷地内をうろついている間に、見つけていたのだ。

 つまり、慧夢は浴室の中を覗こうとすれば、覗ける状態なのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ