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11 いや、むしろ……余り外人の夢には入った事が無いからこそ、今後の参考にする為にも、入ってみるべきなのでは?

「――あれとか、良さそうかも」


 飛び始めて七分程が過ぎた頃、程良い光の強さであり、海を思わせる青い色合いの光の渦を、慧夢の目は捉える。

 右斜め下に見える、モナカアイスを思わせるデザインのマンションの最上階から、青い光は漏れていた。


 最上階と言っても、高さ規制が厳しい住宅街のマンションなので、三階でしかなく、大した高さでは無い。

 慧夢は青い光の渦を目指し、獲物を見つけた猛禽類の様に、降下して行く。


 誰かがエアコンを動かしているのだろう、室外機の音が五月蝿いマンションの屋上から、水面に沈む様に、慧夢の幽体はマンションの中に侵入する。

 すぐに天井を通り抜け、青い光の渦に見える、夢世界の持ち主の部屋に、慧夢は侵入する。


 当たり前の話だが、夢を見ている人を目指して、辿り着いた先は寝室。

 見知らぬ他人の寝室に潜り込む事に慣れてはいても、これから自分が夢の中に入り込む相手を確認するのは、緊張するものだ。


 室内に入ってしまえば、飛ぶより歩く方が、感覚的に楽なので、慧夢はフローリングの床に降り立つ。

 そして、室内の様子を探りながら、青い光の渦が見える方に向って、広い寝室の中を、慎重に歩き始める。


 大人っぽく落ち着いた感じの設えの寝室、ベッドは窓から月明かりが射し込む側の壁に、寄せられている。


 渦潮の様に見える、青い光の渦が有るのは、そのベッドの上。

 ベッドの上で眠っている人間が見ている、夢が放つ光なのだから、当たり前といえば当たり前。


 月明かりに照らされた、夢世界の主の姿を、慧夢は確認する。

 そして、予想だにしなかった相手の姿を見て、慧夢は驚きの声を上げる。


「え? 外人?」


 直径二メートル以上はありそうな、青い光の渦の中心で、仰向けに寝ていたのは、栗色のセミロングの髪に白い肌、派手な顔立ちの、西欧系の外人らしい女性だった。

 年齢は二十代後半だろう、長身でセクシーなスタイルの持ち主だ。


 毛布などに隠されていない、肌の露出が多い、黒いキャミソールタイプのナイトウェア姿はあでやかで、慧夢は思わず、女性の寝姿に見惚れてしまいそうになる。

 でも、見惚れている時間的余裕は無い、既に幽体離脱状態に入り、七分以上が過ぎているのだから。


「どうするかな? 外人の夢って、あんま入った事無いし……」


 慧夢は迷いつつ、ベッドの近くにある本棚に目をやる。

 本棚には英語の本もあるが、殆どが日本語の背表紙の本で、埋め尽くされていた。


 目線を女性に戻し、慧夢は呟く。


「日本語の本が、これだけ並んでいるなら、どうやら言葉の問題は無さそうだな」


 過去に興味本位で、外人の夢世界に入った経験上、日本語が堪能な外人の夢の中では、日本語が通用する事を、慧夢は知っている。

 目線の先にいる女性の夢に入っても、言語に関する問題は無さそうだと、慧夢は判断する。


「いや、むしろ……余り外人の夢には入った事が無いからこそ、今後の参考にする為にも、入ってみるべきなのでは?」


 青く輝く渦の夢の主が外人だと知り、一度は入る事を躊躇う方に傾いた心が、入る方に傾く。

 今後の参考にする為というのも、本音ではあるのだが、見惚れる程度に魅力的な女性が、どんな夢を見ているのか、興味が湧いて来てしまった事の方が、入る方に傾いた理由としては強かったのだが、慧夢は口には出さない。


「よし、決めた……入ろう! この人の夢世界に!」


 意を決した慧夢は、ベッドに歩み寄る。

 そして、時計回りで回転を続けている、青い光の渦巻きに、慧夢は右手を伸ばして触れる。


 すると、慧夢の幽体は、まるで渦潮に巻き込まれて、海中に引き込まれる船の様に、青い光の渦に引き込まれると、その中央に吸い込まれ、消え失せてしまう。

 慧夢の幽体は、ベッドの上で眠る、見知らぬ外人女性が見ている夢……夢世界の中に、入って行ったのだ……。


    ×    ×    ×





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