表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/232

106 死霊が幽体と同じ様な物なんだったら、死霊も夢世界に入れるんじゃないのかな?

(あの戻り方は、俺と同じだったよな……)


 慧夢の考える、「あの戻り方」とは、破壊された陽志の身体が、逆回し映像の様に、身体が元の姿に戻った事。

 そして、「俺と同じ」というのは、慧夢自身の身体……といっても幽体が、他人の夢世界の中で破壊された場合に、元通りになる際の事。


 過去に夢世界の中で、慧夢は何度も死んだり、四肢を失う程の大怪我をした経験があった。

 その際、「夢世界が作り出したキャラクター」とは違う形で、自分の身体が再生されるのを、慧夢は何度も目にして来たのだ。


 慧夢以外の「夢世界が作り出したキャラクター」の様に、カラフルな粒子群となって完全分解され、再び形作られるのではない。

 ばらばらになったり失われた筈の血肉や骨が、逆回し映像の様に元通りに集まる風に、慧夢の幽体としての身体は再生するのである。


 籠宮家のダイニングキッチンで、「夢世界にいるキャラクター」の身体が破壊され、元に戻る際、陽志と同じ戻り方をした光景を、過去に自分が何度か目にした経験があったのを、慧夢は思い出した。

 慧夢が思い出した光景とは、他ならぬ慧夢自身の身体が破壊され、元に戻った時の光景だったのだ。


 夢占秘伝にも、夢世界が作り出した人間と、夢世界に潜り込んだ夢占の人間では、身体が傷付いた時の、元への戻り方が違うという話が記されていた。

 幽体として夢世界に紛れ込んだ異物である夢占の人間だけが、「血肉が元に戻るかの様に」元通りになるらしいというのが、幻夢斎の推測だった。


 夢の主は夢世界に存在する自分のキャラクターと、意識や感覚を完全に同一化しているが、その霊魂は肉体と共にある。

 夢占の人間とは違い、普通の人間は眠っていても、霊魂が幽体となって、肉体を離れはしないので。


 つまり、肉体と繋がってはいるが、その周囲に形成される、一種の閉鎖的な異空間といえる夢世界の中には、夢の主の霊魂は存在しない。

 夢世界の中にいる夢の主のキャラクターは、霊魂と繋がっていて、意識や感覚も同一化しているが、その身体は夢世界が作り出したものである為、破壊された場合は他の「夢世界が作り出したキャラクター」と同じ様に、元に戻るのである。


 夢世界において、ある意味特別なキャラクターといえるのは、夢の主と夢占の人間のみだが、「血肉が元に戻るかの様に」壊れた身体が元に戻るのは、夢占の人間だけというのが、夢占秘伝の記述。

 そういう意味で、慧夢と同じ形で身体が元に戻った陽志は、完全なるイレギュラーといえる存在だった。


 何故、そんなイレギュラーが存在するのかについて、籠宮家のダイニングキッチンで慧夢は思考を巡らせた。

 その時、頭に思い浮かんだのは、「幽体として夢世界に紛れ込んだ異物である夢占の人間だけが、『血肉が元に戻るかの様に』元通りになるらしい」といった、夢占秘伝で目にした記述だった。


 夢占の人間で、夢芝居の能力を発現しているのは、現在は慧夢のみ。

 つまり、慧夢以外に志月の夢世界に潜り込んでいる、夢占の人間はいる筈が無いし、そもそも陽志は夢占の人間では無い。


(でも、夢占の人間以外にも、夢世界に紛れ込んだ異物だったら、存在し得るんじゃないのか? 幽体に似た存在なら、他にもあるんだし)


 ダイニングキッチンで思考を巡らし、夢占秘伝の記述を思い出した慧夢の頭に、そんな疑問が浮かんだのだ。

 そして、その異物の候補までもが。


(例えば、肉体が死んで……肉体との繋がりを失ったけど、それ以外は限りなく幽体と同じ存在と言える、死霊とか)


 夢占の場合、幽体とは生きた肉体から、霊魂(霊体ともいう)が離れた状態を意味している。

 肉体から幽体が離脱しつつも、何処かで僅かに繋がっているからこそ、霊力切れとなると、幽体は肉体に自動的に引き戻されるのである。


 そんな生きた霊……生霊である、夢占の幽体と違い、死霊というのは文字通り、死を迎えた肉体から離れたが、まだ現世に留まり続けている霊魂を意味している。

 大抵はすぐに別の世界(存在は確認出来ていないのだが、仮に霊界と呼んでいる)に旅立ってしまうのだが、現世に留まってしまう死霊も存在する。


 慧夢は幽体となっている時、たまにではあるが、そんな死霊を目にしていた。

 霊力が強まった最近では、起きている日中でさえも、死霊が見える様になってしまっている。


 幽体と死霊が、殆ど同じ存在であるのを知っていた慧夢は、入り込む夢世界を探しつつ、幽体となって夜空を飛びながら死霊を目にした際、何度か考えた事があったのだ。


(死霊が幽体と同じ様な物なんだったら、死霊も夢世界に入れるんじゃないのかな?)


 そう考えた経験と、夢世界では「幽体として夢世界に紛れ込んだ異物である夢占の人間だけが、『血肉が元に戻るかの様に』元通りになるらしい」という趣旨の、夢占秘伝の記述。

 そして、慧夢が身体を損傷した時と同様に、身体が元通りになった陽志の光景が、頭の中で繋がった為、慧夢は一つの仮説を導き出したのだ。


「――この夢世界にいる籠宮の兄貴は、『夢世界が作り出したキャラクター』じゃない。現世に留まっていた籠宮陽志の死霊が、籠宮の夢世界に紛れ込んだ存在……本物の籠宮陽志なんじゃないのか?」


 籠宮家のダイニングキッチンで組み立てたのと同じ仮説を、お握りを食べ終えた今になって、ようやく慧夢は口にした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ