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102 家に入るな、志月! 不審者が……暴漢が家の中にいる!

 殺されたと思ったら生き返り、破壊された筈の身体も元通りになっていたので、陽志は驚きと疑問の言葉を口にしたのだが、慧夢は違う。

 夢世界の中で、殺された人や壊された物が、元通りに戻る事など、別に珍しくも何ともないのを、慧夢は知っているので。


 戦争や犯罪絡みの夢や、バトル系のアニメやゲーム……映画などの影響を受けた、戦闘だらけの夢世界に入った経験も、慧夢にはある。

 そういった夢世界で、破壊された物や殺された人が、元通りになり復活してしまうのを、慧夢は過去に何度も目にしているのだ。


 夢世界では、夢の主が夢世界に必要だと考えている物やキャラクターは、破壊されたり殺されたりしても、元通りに復活する場合が多い。

 夢の主が意識的に復活させるのではなく、夢の主の願望に対し、夢世界が反応する形で。


 故に、志月にとって最愛の人物……キャラクターだろう陽志は、破壊されたら復活しない筈の夢の鍵では無い以上、身体を破壊され殺されても復活するのは、むしろ当たり前と言える。

 陽志がいない夢世界など、夢の主である志月が望んでいる訳が無いので。


 それでも慧夢が驚きの声を上げたのは、その復活の仕方が異常だったからだ。

 慧夢の認識では、夢世界で破壊された、夢世界が作り出したキャラクターは、流れ出た血や切り離された身体の一部が、身体に戻る様な形では、復活しない筈だったのである。


 夢世界が作り出したキャラクターや物が破壊された後、復活して元通りになる場合は、まず一度……完全に細かい粒子群に分解される。

 夢世界が崩れ去り消え去る時、夢世界を構成する全ての物が、カラフルな砂粒の様になり崩れ去るが、その崩れ去る光景と良く似た感じと言える。


 キャラクターや物を構成していた全てが、一度カラフルな粒子群に分解される。

 その上で、コンピューターグラフィックの様に粒子群が動き回り、破壊される前の姿を形作り、元通りの姿になったキャラクターや物は、殺され……破壊される前と同様の存在として、復活する訳だ。


 ところが、陽志の破壊された身体は、カラフルな粒子群に完全分解される事無く、まるで破壊された時の映像を逆回しで再生しているかの様に、元の姿に戻ってしまった。

 これは「夢世界が作り出したキャラクター」の場合、慧夢の認識では有り得ない現象。


 だが、「夢世界にいるキャラクター」の身体が破壊され元に戻る際、陽志と同じ戻り方をした光景を、過去に自分が何度か目にした経験があったのを、慧夢は思い出した。

 それ故、陽志が粒子群に分解されずに復活した理由について、一つの仮説を組み立てられたのだが、その仮説自体は慧夢にとっても信じ難いものだったのだ。


「――つまり、この籠宮の兄貴って……」


 その仮説に基づく、目の前にいる陽志の正体について、慧夢が口にする寸前、玄関の方から格子戸が開く音が響いて来る。

 続いて、慧夢にも聞き覚えの有る、少女の声が響いて来た。


「ただいまー!」


 声の主は、志月。


(籠宮が戻って来た! やばい、こんなとこ見られる訳にはいかない!)


 志月の帰宅を知り、慧夢は陽志の正体についての言葉を飲み込んでしまったので、この場で口にする事は無かった。


「家に入るな、志月! 不審者が……暴漢が家の中にいる!」


 陽志が大声で、志月に警告を発する。

 自分を襲った不審者にして暴漢……慧夢がいる家に、妹を入れる訳には行かないとばかりに。


(こりゃ、さっさと逃げないと!)


 志月が帰って来た以上、慧夢としても籠宮家に居続ける訳にはいかない。

 陽志の正体を確かめたくはあったのだが、即座に踵を返すと、ダイニングキッチンを飛び出す。


 居間を駆け抜けて庭に飛び降りた慧夢は、玄関や数奇屋門がある方向に向いそうになるが、すぐに方向転換して、庭を突っ切り始める。

 玄関や数奇屋門の方には、志月がいる可能性が高い事に、慧夢は気付いたのだ。


(仕方が無い、壁を乗り越えて逃げるか!)


 庭を突っ切って壁際に辿り着いた慧夢は、近くにあった庭石を踏み台にしてジャンプ。

 壁に手を突いて乗り越え、壁の向こうの道路に降り立つ。


(ラッキー! 自転車ここに停めたんだった!)


 別に狙った訳では無いのだが、慧夢が自転車を停めた通りは、庭の壁を乗り越えた先の通りだったのだ。

 慧夢は自転車に駆け寄ると、ハンドルを握ってスタンドを蹴る。


「兄さん! 大丈夫?」


 籠宮家の屋敷の方から、兄を案じる志月の声が響いて来る。

 志月は陽志の警告を無視して、ダイニングキッチンに駆け込んだのだ。


(あっぶねー! あと少しでも遅れたら、籠宮に姿を見られるところだったぜ!)


 冷や汗をかきながらサドルに跨ると、慧夢は慌てて自転車を漕ぎ出す。

 そのまま、慧夢の乗った自転車は猛スピードで、既に凍り付いてはいない北側の住宅街を、走り去って行った。


    ×    ×    ×





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