アオムシの自殺未遂 Ⅰ
『アオムシの自殺未遂【⚠️自殺願望のある方以外は、決して読まないで下さい!】童話』
より先に出来ていた作品です。
この短編はどなたでもお読みいただけます。
オレは思った。
葉っぱを食っては糞を出し、葉っぱを食っては糞を出し、この繰り返しの毎日に、いったい何の意味があるのかと。
さほど美味くもない緑色の食糧を、ひたすら食い続けるだけのオレたちの生涯に、何の意味も、何の価値も、見い出せやしない。
そして死ぬ時は、口から白い糸を吐き、身体に巻きつけて自分自身をミイラ化してしまうのだ‥‥。
あぁ。
バカみたいだ。
なんて哀れなアオムシの一生。
昨日はアイツが死んだ。
唯一の親友だった。
自分の吐いた糸でぐるぐる巻きになり、白い物体と化したアイツは、もうピクリとも動かなかった。
気持ちわりぃ‥‥。
吐き気がした。
もう嫌だ。
オレは‥‥
白い糸なんか吐きたくねぇ!
糸でぐるぐる巻きになりたくねぇ!
あんなブザマな姿を仲間に見せたくねぇ!
オレはアオムシをやめたくなった。
もう‥‥限界だ。
池のそばに高くそびえ立つ大木。
あの木のテッペンから池に飛び込めば、すぐに死ねるだろう。
一刻も早く死にたい。
あぁ、死にたくて死にたくて、ウズウズする。
行動力には定評のあるオレは、さっそく大木に登り始めた。
緑の醜い身体を必死にうねらせて。
大木の表面は予想以上に硬い。
前進するたびに柔らかい腹が擦れてズキズキ痛んだ。
並大抵の精神力では、決してテッペンまで登ることなどできないだろう。
だが、オレはやる。
有言実行。
それがオレの生きザマだ。
オレは全身の力を振り絞った。
一心不乱に身体をうねうねさせ続けた。
かなりキツイ。
身体中すべての、筋肉という筋肉が悲鳴を上げる。
それでもオレは登るスピードを上げた。
あぁ! 気分は最高だ。
木登りに取り憑かれたわけじゃない。
ストイックなオレ‥‥嫌いじゃない。
登り始めてから飲まず食わずで、もう二日目になる。
脱水症状なのか身体が震え始めた。
ヤバイ‥‥。
このままでは干からびて死んでしまう!
オレは朝露が付着した木の皮を必死で探した。
そして、やっとの思いで一粒の水滴を見つけると、急いで口に運んだ。
ごくり。
「ぷはぁー!」
思わず声が出る。
喉が渇ききった時の一杯、これは格別に美味い。
疲れた身体に、生気がみなぎっていくのがわかる。
よ~し、生き返ったぞ!
さぁ、気持ちを入れ替えて、テッペンへ急ぐとしよう。
そして何日もかけて、ようやくオレはテッペンに辿り着いた。
死の世界への入り口に到着したのだ。
下には、静かに広がる池が見える。
池の水面が揺れ、太陽光を反射して光っている。
まるで、オレを受け入れるのを今か今かと待っているようだ。
そうさ、オレはもうすぐ死ぬんだ。
ここから身を投げて。
あの美しい池の水に包み込まれて。
キラキラと輝いている、あの光の中に包みこま‥‥!
詩の世界に浸っているオレの足元が、突然グラグラ揺れた。
「うわぁっ!!」
オレは必死で枝にしがみついた。
テッペンの枝は風の影響を受けやすく大きく揺れる。
油断していたオレは、一瞬バランスを崩してしまったのだ。
「あっぶねぇ。落ちるかと思った‥‥」
まさに危機一髪とはこのことだ。
幸運にも不意の事故を免れたオレは安堵した。
ふぅ~。
さてと。
気を取り直して、本来の目的を決行することにしよう。
えー、本来の目的は‥‥?
そうだ、ここから落ちて死ぬことだ。
この世には何の未練もないのだ。
さぁ、飛び込むぞ!
せーの!
「やめろ!」
絶妙なタイミングで止める声がした。
断じてオレの心の声などではない。
誰かの声がしたのだ。
死んだはずの親友の声に似ている。
まさか、アイツが生きているのか?
オレは淡い期待を抱きながら振り向いたが、言葉を失った。
そこにいたのは、アイツではない。
オレがこの世の中で一番大嫌いな昆虫、蝶だった。
ふん! おまえらみたいな超エリートに何がわかる!
生まれつき容貌に恵まれ、自由自在に空を羽ばたき、優雅な暮らしを満喫するヤツに、下っぱのアオムシの気持ちがわかってたまるか!
偉そうに説教されてたまるか!
おまえら地面を這ったことがあるか?
葉っぱなんてまずくて食ったことねぇだろ?
セレブ気取りで花の蜜なんてチューチューチューチュー吸いやがって!
見ているだけで腹立たしいヤツ!
さっさと飛び降りちまおう。
せーの!
再びオレは身体を大きく下へ傾けた。
「バカなマネはやめてくれ! 頼むから!」
叫んだのは蝶だ。
いや‥‥やっぱり親友のアイツだ!
アイツは語尾に『頼むから』を付けるのがクセだった。
考えてもみろ、オレの自殺を止めるとしたらアイツ以外に誰がいる?
「おまえ‥‥死んだはずじゃ?」
混乱して、それ以上の言葉が出てこない。
なぜアイツが蝶なんかに変装してるんだ?
しかも変装のクオリティーが高すぎる。
どこから見ても蝶にしか見えないじゃないか!
それにアイツは、背中の羽を動かしてずっと空中にいる。
マジックか? それとも超能力か?
いやいや、そんなことより、死んだはずのアオムシがなぜ生き返ったんだ?
本当にアイツなのか!?
蝶なのかアイツなのかわからないが、そいつは言った。
「落ち着いて聞いてくれ。アオムシは蝶に成長するんだ。みんなが〝死〟だと信じているのは〝サナギ〟と言って、蝶になる前の準備段階なんだよ」
‥‥なんだって?!
雷に打たれたような衝撃が、オレの身体を駆け巡る。
バカな!
そんなわけあるか!
アオムシはアオムシだ。
死んだら終わりだ。
蝶になるだと?
何を根拠にそんなことを?
いったい何の宗教だ?
そんなウサンクサイ話、誰が信用するんだ!
そいつが笑った。
「こっちの世界は楽しいぞ。空を飛ぶのは最高だ。意地を張ってないで、サナギになれよ。アオムシのままで一生を終わりたいのか?」
そしてそいつは大きな羽を広げ、オレに見せつけながら言った。
「蝶になってくれよ。頼むから。じゃあな!」
待て!
ちょっと待ってくれ!
オレも本当に蝶になるのか?
信じていいのか?
そいつは、オレの疑問に答えることなく飛び去った。
いったい何者だ?
いや、そいつは‥‥間違いなくアイツだ!
ということは? オレも蝶になるのか?
オレの母親は蝶だったのか?
オレを捨てたとばかり思っていたのに。
アオムシは、無意味で悲惨な一生だと信じていたのに。
生きてみるもんだな。
こんな明るい未来が待っているとは!
まさかオレが、蝶の幼虫だったとは!
世の中、何が起こるかわからないものだ。
いや~、本当に生きていて良かった。
完
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