世界の主(ワールド・プリマリー)の子供達・Ⅳ
「……術を使ってここに来るのはいいけれど、彼の頭を叩く必要はなかったろう」
現れた人物はレネリアと呼ばれていた人物。
「レヴィの言う通りだ! ローゼンクロイツ・クリスチャン!」
レネリアと呼ばれていた青年──ローゼンクロイツ・クリスチャン──にサーディアは怒鳴る。
「〝今は〟夜中だろう。なのに、お前が出てるから、叩いた」
「レヴィの所に来る途中で襲われてケガしたから、オレが出てきてるんじゃねえか!」
「アーヴィは無事か?」
「オレの頭の心配もしろ! 馬鹿ローゼン!!」
「男の心配をする必要はない」
きっぱりと言う彼にサルサディアの額に青筋が浮かぶ。ふたりのやりとりを終わらせるようにレヴィが「……落札したんだろうね?」と訊く。
「ああ、レネリアなんて偽名使ってまで、落札したさ」
言って、ローゼンクロイツはちらりと視線をサルサディアに向けるが、彼はふいっと視線をそらす。
「言っておくが、俺がわざわざ〝アクワ・ペルマネンス〟から出てきたのはお前らのせいだぞ。ソロモンを預けるから」
「そりゃあ、ご苦労をおかけしましたね、〝アクワ・ペルマネンス〟の城主サマ」
嫌味を込めてサルサディアは言う。
アクワ・ペルマネンスは世界中に散る錬金術師を統轄する組織の名で、錬金術師はアクワ・ペルマネンスに所属し、世界中の街や村に派遣される。
ローゼンクロイツ・クリスチャンはアクワ・ペルマネンスの城主──最高責任者である。
「まったくだ。まあ、お前が出てるなら話は簡単だ」
「〝オレの方〟なわけ?」
「アーヴィのは〝彼女〟が持ってるから、競売にかけられないだろ。違うのか?」
「違う。娘の話じゃ、両方売ったって言ってた。あの館主、隠し持ってんじゃねえの?」
「あり得るな」
サルサディアの言葉にローゼンクロイツは頷く。
ソロモンは──手にした者、つまり生者を不老不死に、死者を復活させることができる能力を持つとされる人工生命の総称だ。
けれど、実際に手にした者が不老不死に、死者が蘇った、などという話はない。それでも、ソロモンが競売にかけられる時は大金が動くのだ。