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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
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096  野球哲学者


 AKIRAは驚愕の予言を告げられた。自分よりも優れた選手は100年は出てこないのだと。監督の言っている事はあまりにも自分の常識とかけ離れていて、AKIRAは一瞬困惑してしまった。なぜなら、彼は己を特別に思った事は一度もなく、普通の選手と同じ感覚で野球をやっているつもりだったのだ。


 ところが、監督は違うと言っている。そのへんについて、AKIRAは詳しく聞こうと更に会話を交わす。


「俺が……21世紀最高の5ツールプレイヤーだと?」


 正直、冗談かと思うぐらいバカげた話しだと思った。AKIRAは自分の事を誰よりも知っている筈なので21世紀最高という謳い文句がつくのは少々買いかぶり過ぎだと感じるしかない。むしろ他の選手に失礼じゃないかと胸で感じていた。


「そのポテンシャルは十分に持っている」


 監督は確かな目でそう言っていた。マスク越しに見える彼の眼光はあまりにも鋭く、この目はどこかで見たことがある目だった。まるで現役の選手と対峙しているような錯覚に陥る。実際、彼は去年で選手兼任をやめて、オーナー兼監督になったので実質選手としては引退している身だ。なのに、そこらの選手よりもハッキリとした目をしているのが彼という男だ。


「監督は知らないと思うが、俺はとても弱い人間だ」


「いいや。君は強い」


「何故そう思う?」


 心から疑問に思っていた。AKIRAという人間は本当に心が弱くて精神的にも打たれ弱い。人見知りこそ無いが、それでもあまり他人と喋りたいとは思わない性格だ。そんな人間のどこが強いのか逆に聞きたいぐらいである。


「お前は良く考えているじゃないか。打撃中でもベンチにいる時でも」


「考える事で精神が安定するのさ。特に大舞台となると考えも深まる」


 AKIRAはそういう人間だ。常に脳を回転させて物事を考えている。世の中には無意識である事が最高のポテンシャルを発揮する瞬間だと提唱している者もいるが、AKIRAにとっては全くの逆だった。無意識だからこそ慢心が生まれ、その慢心がやがてスランプになって襲いかかるのだというのがAKIRAの考え方だ。


 だから、どんな時でも脳を働かせて疑問を絶やさないようにする。疑問があるからこそ行動の幅が増えて、答えの数も増える。しかし無意識でプレーするとこの疑問が生まれてこないので、答えも生まれない。


 だからこそ、AKIRAが野球をするのは謎が多いからかもしれない。


「そうか……やはりお前は超一流の選手になれる」


「だからどこにそんな根拠がある」


「ワシはお前に良く似た選手を知っている。その者も、常に頭の中では疑問が湧いていると言っていた。そして悩む事で結果を得られるのだと」


 どこか、監督は懐かしい口調で語っていた。もはや二人は東川の歌など聞いていない。完全に野球という世界に入ってしまっている。


「俺と同じ考え方だと?」


 あまりにも衝撃的だった。己のように小動物の考え方で野球をやっている者が他にもいる事が分かったからだ。


「キサブロウオニザキだよ」


「鬼崎喜三郎……!」


 ここで、伝説のメジャーリーガーの名前が出てくるとは想像にもしていなかったのでAKIRAは面喰った。彼は日本とアメリカでも活躍した選手で、その知名度はベーブルースに匹敵するとまで言われている。両国で数々の功績を残した彼は、70歳を超えた今でも現役にこだわってプレーを続けている。まさに、試合に出場する度に記録を更新するような男なのだ。


 それだけ人気な彼が、10年前に1度だけ阪海に帰ってきた事がある。それこそすでに60歳を超えていた年齢だったが、全試合出場を果たし、代打だけで40本もホームランを打った男だ。しかも彼の人気は止まる事を知らず、球場には彼に憧れる外国人ファンが殺到し、急遽鬼崎ドームが建設されたぐらいだ。その鬼崎ドームでは巨大パネルで試合を観戦するだけなのだが、そのドームも超満員。


 鬼崎が代打で出場するだけで「ONIZAKI」コールがドーム内に響き、地鳴りを起こすぐらいだ。それぐらい、鬼崎という男は日米共に好かれている。


 そんな選手が自分と同じ考えだというのが驚きだ。


「だから言っただろう。お前は超一流になれる才能があると」


「しかし、相手は20世紀最高の5ツールプレイヤーだぞ。あのベーブルースと肩を並ばせる男と比べられるのは、あまりにも……恥ずかしい」


 これにはAKIRAも赤面するしかない。ベーブルース、鬼崎喜三郎という早々たる名前に自分の名前も入っているのだから。


「恥ずべき事ではない。むしろ当然と考えるべきだ」


 監督はAKIRAが歴史に残る選手になると頑なに信じていた。


「しかし、本当に鬼崎さんは俺と似た思考を持っているのか?」


「奴も自分の哲学フィロソフィーを重要視していた。心技体の中で、心を持ったも重要と考えているのはお前と一緒だろう?」


「そうだ。確かにそれは俺と考えが似ているな」


 AKIRAもまた哲学には興味心身の男なのだ。




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