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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
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094  意識の強さ


 そして試合は終わった。あの後、知念ライト方向にホームランを放って惜しくもバックスクリーン三連発とまでいかなかったが、それでも三者連続ホームランとなり、キャッツのエースであるブライアンを玉砕する事に成功し、見事試合にも勝利した。


 これには監督のワーグナーも大喜びで、チームの主力メンバーを何名か集めてカラオケに行こうと言い出した。ここで言う、主力メンバーとはAKIRA、石井、東川の事である。知念や光太朗は悪態が目立つので連れて行かず、松本や玉井などもまだ主力とは言い難い。よってこの三人が選ばれたのだ。


 そしてカラオケのトップバッターを務めるのは監督だった。彼は黒人らしいキレのあるダンスを披露しながら洋楽を歌い始める。その歌は誰もが知っている有名な歌で日本人ですら耳で聞いた事は一度はある。競馬のCMにも使われている歌だ。


「暴露していいか」


 ここで、AKIRAが隣に座っている石井に声をかける。すると石井は小さく「おう」という言葉を出しながら首をクルリと動かしてこちらを向く。


「どうしたんだ。急に」


 二人は手拍子を送りながら話し始めた。一方、東川は次の選挙区に夢中で必死に本と睨めっこをしている最中である。そんな彼を横目で見ながら、AKIRAはこう呟く。


「俺さ。カラオケに来たことが無いのだが」


「ええ。お前ほどの奴がカラオケに行ったことがないのか」


「まったくない」


「良い声してるのに、そりゃもったいないぜ」


 そうだ。AKIRAはそこらの舞台俳優が裸足で逃げ出す程の声量と低い声を持っている。しかもただ低いだけでなく、全体に通るような響きのある声だ。得にボイストレーニングはしていないので、まさに天性の才能と言える。


「それと何の関係があるんだ」


「思いっきり歌えばストレス解消になる」


「そういうことか。確かの大声を出すのは最高のストレス解消法だ」


 それはAKIRAにも分かっていた。だが、わざわざカラオケにいかずとも車の中で叫べば問題ない事なので大声を出すためにカラオケに行くような事はない。高速道路に車を走らせ、車内で「うおおおおお!」と叫べば済む話しなのだから。


「お前ほどの美声があればきっと大物歌手になれるぞ」


「誰がなるか。それよりも俺は目の前に仕事に精一杯だって」


 世間はAKIRAの事を天才打者と呼んでいるが実際はそんな事は無い。自分流の努力をしながら切羽琢磨して自分と闘っている。常に神経を研ぎ澄まして全力を尽くしているからこそ、今、AKIRAは4割打者として君臨しているのだ。しかし、この高打率がいつまでも続くと言えば続く訳がない。きっと下降する時が来るとAKIRAは確信し、その時がいつきてもいいように準備を欠かさない。


 誰もが野球選手として努力する中、AKIRAは野球サラリーマンのような努力をしているのだ。スケジュール帳は三か月先までビッシリ埋まっていて、AKIRAにとっては財布を落とすよりも手帳を落とす方が不安になるぐらいだ。常に同じ時間に球場入りして、同じ時間に練習を終える。多少は時間がずれ込む事はあるが、スケジュールに余裕を入れているので問題無しだ。


 なぜここまでAKIRAは時間を厳守するのか。その理由は精神的不安を少しでも削るためだ。精神が不安定だと成績にも響くことは去年だけで嫌という程味わったので、今の彼は精神を安定させる事にフォーカスしている。そして、直に彼は精神を不安定にさせる要素を発見させた。それこそが時間だ。


 時間に追われる事で精神状態がおかしくなり、試合にも響く。相手チームと戦っているのではなく、まるで時間と戦っているような錯覚に陥る。時計の針ばかり気になって試合に集中が出来ず、結果些細なミスをおかしてしまう。これらは全て、時間に追われる事によって起こる物だと気が付いたのは19年目の人生でだ。


 気が付くには、あまりにも遅すぎだ。もしも学生時代にこの事に気がつけば、授業による精神的ストレスも和らげた筈だと。だが、「後悔する暇があったら練習しよう」という考え方をするのがAKIRAという人間なので、彼は悔やむ事を止めて前を見る事に決めた。


「本当、お前は真面目な奴だよ」


「俺は別に真面目なつもりはないが」


 そうなのだ。良く他人から「真面目ですね」と言われる人間ほど根は真面目では無い。家に帰ったらと暴君と化して遊びに全力を尽くす人間がほとんどだ。それ故に、AKIRAも自分の事を真面目だとは思っていなかった。ただ、自分のやりたい事をやっているだけなので、むしろ彼は自由人に近い。


「そうなのか。でもお前みたいにプロ意識の高い奴は今の時代そんなにいないぞ」


 しかし、本当に多種多様なメディアで活躍している野球選手は、いずれもプロ意識が高い。意識が高いと、考えの幅も増えるので活躍するジャンルも増えるのだ。現に、AKIRAは芸人としての才能もあり笑いをお茶の間に届けるのも得意。そして彼の演技力はそこらの棒読み俳優より上だ。このように、意識が高いから得られる要素はふんだんにある。


 ちょっと視点を変えるだけで人は変われる。そういう仕組みになっていると気が付いたのはAKIRAが最初ではない。先人たちが積み上げてきた豊富な知識があったからこそ、AKIRAもその境地にたどり着くことが出来た。





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